ティッシュ配りは思ったよりスムーズに終わって、僕らはかまっこに帰る支度を始めた。
心配していた、買い物途中の姉上達や見廻り途中の兄上に会う事も無かった。
女装したまま皆に会うと、色々面倒なんだよな…
まだちょっと気が抜け無いけど、仕事は終わってるからなんとかなるよね。
そそくさとその場を離れようとすると、柄の悪い男の人達が僕らに絡んでくる…

「オイオイ、化けモンが天下の往来をウロウロしてんじゃねーよ!」

「あ〜ら、ごめんなさ〜い。」

銀さんが軽くあしらおうとすると、それが気に食わなかったのか一人が僕の腕を掴む。

「あの、ほんとすみません。すぐに立ち去りますから手を離して下さい…」

出来るだけ刺激しないように、穏便に済ませようと下手に出たのが良くなかったのか、ニヤニヤ笑った男がグイッと引っ張って僕の肩に手を回す。
うげっ…気持ち悪っ…

「お前はちょっと可愛いじゃねーか…俺らの相手してくれや。」

「なっ…やだっ!離して下さい!!」

「かーわい。抵抗しちゃってるよ。」

「なんかゾクッときた俺。」

男達のニヤニヤ笑いが濃くなって、僕を引っ張って何処かへ移動しようとしだす。
なっ…冗談じゃないよっ!!

「テメーら…」

「新八から手ェ離すネ…」

銀さんと神楽ちゃんの空気が怖くなって、僕もその腕から逃れようと体をひねると、僕の目の前を刀が取り過ぎる。

「かーわいいだろィ。オメェらが手ェ出せるようなモンじゃねェんだよ、こいつァ。」

「総兄!?」

「新八ィ、すぐに助けてやるからねィ。」

にっこりと微笑んだ総兄の笑顔が怖いものになって、僕の後ろの男達に向けられる。

「真選組!?コイツ縁者か…丁度良い、俺らに手ぇ出したらコイツもぶっ飛ばしてやる!」

僕を掴んでいた男が、素早く僕を抱え込む。
そして隣の男が爆弾を僕の目の前に差し出す…って爆弾ーっ!?
でっ…でも、総兄と銀さんと神楽ちゃんが居るんだし…これぐらい、なんとかなるよ…ね…?
そろりと周りを見渡すと、僕らに絡んできた男達の仲間なのか、僕らを囲む人数が増えている。
皆何かしら武器を構えて、銀さんも神楽ちゃんも総兄も動けないでいた…
どっ…どうしよう…僕もなんとかしなくっちゃ…

「なんだ、良く見たらコイツ一番隊の隊長様じゃねーか…コイツの首獲れば一躍有名人じゃね?」

ゲラゲラと嗤うヤツラが腹立たしい。
僕が足手まといになってなきゃ、こんなヤツラ総兄なら一捻りなのに…っ…

「全く…しっかりしなさいよ、総。」

ガキゴキと音を響かせて男達が飛んでいく…
たっ…妙姉っ!?

「新ちゃん、すぐに私が助けてあげますからね?」

美しく微笑んだまま近付いてくる姿は頼もし過ぎるけど…

「何者だ!?とっ…とにかく近付いたらコイツは無事じゃすまねぇぞ!!」

僕の頬を熱いものが通り過ぎて、すぐに激痛が走る。
生温かいものがつぅっ、と頬を流れると、妙姉の悲鳴が聞こえる。

「新ちゃん!!」

「だから動くな、って言ったんだよ…」

ちくしょう…僕が…僕がもっと強かったら…
悔しくて涙が頬を伝うと、それが傷に染みてもっと痛い…

「…痛い…」

「あーあ、痛いってよ。可哀想になー」

ホントにムカつく…
こうなったら腕の一本ぐらいくれてやっても…
僕を押さえる男が持っている小刀を掴むのに、するりと体を動かすと、総兄と妙姉も僕に向かって駆け寄ろうとする…あ…
二人を脅していた男達が刀を振りかぶり、僕を押さえていた男が小刀を突き出す…

「貴方達、私の可愛い妹と弟達に何をしているのかしら?」

凛とした声が響いたと同時に辺りに爆音が響く…ってミツ姉っ!?撃っちゃったよっ!!
僕のすぐ傍にもバズーカが着弾して、暴漢共々吹き飛ばされた。
あぁ、皆飛んでる…
銀さんも神楽ちゃんも総兄も妙姉も…誰もミツ姉には敵わないよな…
すぐに体勢を整えた四人が、暴漢達をボコボコにする。
あぁ、こうなったらもう無敵だよね…
あはは…と乾いた笑いを浮かべながらその光景を見ていると、ミツ姉が僕の隣にやってくる。

「新ちゃん大丈夫?酷い怪我…」

眉をひそめて、そっと頬の傷にハンカチを当ててくれる。

「これぐらい大丈夫です!僕だって男です!」

「そお?でも心配だわ。早く家に帰って手当てしましょう。」

「はい…」

ミツ姉と手を繋いで歩き出すと、総兄と妙姉も駆け寄ってくる。

「もう、総は本当駄目ね。」

「うるせェよ。」

銀さんと神楽ちゃんもやってきて、僕の頭をぽんぽんと撫でてくれる。

「ホント、トロいな〜新八は。」

「駄眼鏡ヨ!」

「…ごめんなさい…有難う御座います…」

僕がぺこりと頭を下げると、皆安心したように笑ってくれる。
あぁ、良かった…皆が無事で…

「ところで新ちゃん?あなたその格好は何?」

妙姉の笑顔が怖い…

「イエあの仕事で…」

「私達がお願いしても、可愛い着物全然着てくれないのに…」

ミツ姉の笑顔も怖い…

「イエ…あの…」

「ちっちゃい頃は喜んで女の子の着物を着てくれて、そりゃぁ可愛かったものよ?」

「そうよね、久し振りに可愛い新ちゃんが見たいわ。」

二人が嫌な方向に盛り上がっちゃってるよ…だからこの格好で会いたく無かったんだよ…
そろーりと逃げようとしたら、ミツ姉と繋いでいた手をぎゅっと握りしめられる。
駄目だ、逃げられない…

「新ちゃん、帰るわよ?総ちゃんも。」

いつの間にかやってきていた真選組の皆さんに紛れてこっそり逃げようとしていた総兄も、ミツ姉の笑顔に掴まる…

「イエ、僕はまだ仕事が…」

「休憩時間よね?」

にこにこと笑う笑顔に、何故か迫力を感じる…
無理だよ総兄、逃げられないよ…

「…はい…休憩中です…」

ぐったりした僕と総兄を引きずって、嬉しそうなミツ姉と妙姉が両側から僕らを引っ張る。
あ…四人で手を繋いで歩くなんて…本当に小さかった頃ぐらいだよな…
それも、僕が我儘言って繋いでもらったんだ。
なんだか嬉しくなって、両側の妙姉と総兄の手をぎゅっと握ると二人ともぎゅっと握り返してくれる。
その暖かみが幸せで、改めて皆が無事で良かったと心底思った…

…家に帰ってからは…僕ら二人は姉上達のオモチャで…散々飾り付けられて、写真を撮られまくって…

姉上達が嬉しそうだったから…良かった…って事にしておこう…
しておこう………


こんな風に僕の毎日は無茶苦茶で慌ただしいけれど、僕はこの家に生まれて、この人達と姉弟で、とっても幸せです!


END



10萬打リクで壱碕様にリクエスト頂きました!
折角の素敵設定を生かせて無い感満載ですが…
書きたかった事は詰め込めたかと…いや、詰め込み過ぎたのか…
末っ子新八は、主に兄に色々いらん事教え込まれてます。
多分お風呂も一緒に入ってます。兄と。

少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。

リクエスト有難う御座いました!