恐ろしく高度な喧嘩を繰り広げる二人の元に、白髪天パで死んだ魚の目をした白衣の男が飄々と近付いて行く。
その男こそ、銀魂高校の名物教師坂田銀八その人だった。
さり気なく振り上げた両手を振りおろすと辺りにゴチンと大きな音が響き、それまでそこに張り詰めていた痛い程の殺気が消える。

「もうさぁ、オマエら先生の貴重な休み時間削るの止めてくんない?」

「あり?新八は?」

「あー、又俺を置いてイキやがった。テメェのせいですぜ、エセチャイナ。」

「君のせいじゃない?そろそろ新八に嫌われてるって自覚したら?」

「その台詞、そっくり返してやらァ。」

ブチブチと文句を言う銀八をガン無視したまま口喧嘩を続ける沖田と神威は、競い合うように食堂へと走り去って行った。
貴重な休憩時間を割いて生徒の喧嘩を止めに来た銀八を残して。

「…先生の事忘れないよ〜に…」





僕ら3人が食堂で楽しくお弁当を食べていると、バタバタと騒がしい足音が2人分聞こえてくる。
…先生、仕事速いよ…


「新八くん酷ェよ!俺今日弁当なんですぜ?一緒に喰おうと思ってたってェのに!!」

「新八ー!俺をコケにするなんてヒドイヨ。そんな事ばっかしてると、ムリヤリヤっちゃうヨ?」

ブーブー文句を言いながら、沖田君と神威さんが僕の両隣に無理矢理座ってくる。
近いよ!!
グイグイと両側に押しやると、珍しく2人ともがちゃんと距離を取ってくれた…珍しい…

「そんなのアンタらがケンカしてるからでしょうが!僕は知りません。」

「「えー」」

ぷぅと膨れて文句を言いながらも、それぞれにお弁当を取り出して食べ始める。
全く。そんなにお腹空いてるんなら、ケンカなんかしてないで大人しく一緒に来れば良いのに。
そう思ってじとりと左側を見ると、神威さんのお弁当は神楽ちゃんのお弁当と一緒だった…お父さんが作ってるのかな…?

「バカ兄貴!ワタシにも寄越すネ!!」

「カグラはもう食べちゃったんじゃないの?」

「足りないヨ…」

パクパクとお弁当を食べていた神威さんに、向かいに座っていた神楽ちゃんが絡む。
神楽ちゃん…僕のおかずも奪ったよね…

「仕方ないナー、タコ様で良いの?」

「もちろんアル!」

えぇぇ!?意外…
神威さんが神楽ちゃんにタコウィンナーを食べさせてあげてる…実は仲良し兄妹なの…?
あ、でも神楽ちゃんと居る時の神威さんは良いお兄ちゃんかも…優しい顔で笑ってるし…ちょっと素敵だよな…

ほのぼのした気分になりつつ右側を見ると、沖田君がお弁当を食べ始めた所で………うわぁ………真っ赤だ………
沖田君の家も姉弟仲良しで、忙しいお姉さんがたまにお弁当を作ってくれるそうなんだけど…そのお弁当はいつも真っ赤なんだよね…唐辛子で………
僕の姉も全ての料理を真っ黒な暗黒物質に変えるから…凄く親近感感じちゃうんだよね…

「…沖田君…唐揚げ食べる…?神威さんには秘密だからこっそり食べてね…?」

神楽ちゃんと楽しそうな神威さんに気付かれないようにまだ残ってた僕の唐揚げを沖田君に差し出すと、すぐにぱくりと口に納めた沖田君は何も言わずににっこりと笑った。
…黙ってればイケメンなのに…残念なヒトだ…

「さんきゅー新八くん。」

唐揚げを食べきった沖田君が小声でそう言って、すぐに目にも止まらぬ素早さで近付いてきたと思ったら僕の右頬に何か温かいモノがぶつかった。
…って今のォォォ!?

「お礼でさァ。」

ニコニコと上機嫌になった沖田君に何かを感じたのか、神威さんが絡んでいくけど…
僕がここで騒いだらもっと大騒ぎになるから言えないの解っててやったんだ絶対!
変な所だけ頭が回るんだよね!この人は!!
大体、男のちゅうなんてお礼になんかならないっていい加減気付けよ!!!


その後は普通に皆でお喋りして、昼休みが終わる頃にはまだ居座ろうとする神威さんをなんとか夜兎工に帰らせて僕らも教室に戻った。

はぁぁぁぁぁ…とりあえず、凄く大変な時間は終わった…
沖田君1人なら、僕だってなんとか上手くあしらえるんだよね。
授業中に後ろから話しかけられるのはちょっと困るけど、でもこっそりお喋りするのが実は楽しかったりするんだ。
僕は今迄地味に真面目に生きてきたから…そんな事してくれる友達なんて居なかったし…

そう、友達としてならお喋りするのも一緒に遊ぶのも凄く楽しいと僕は思ってるし、沖田君の事も神威さんの事も、好きなんだ…





そしてやってくる放課後。
今日は神楽ちゃんも山崎君も部活があって、僕1人で帰ろうと玄関で靴を履き替えていると、凄いスピードで沖田君が走ってきた。

「どうしたの沖田君?部活サボリ?」

「違いまさァ!今日は突然部活休みになったから、新八くんと一緒に帰ろうと思って走ってきたんでィ!!」

「そうなの?お疲れ様。」

いつもは涼しげな沖田君が鼻の頭に汗を浮かべているのがらしくなくておかしくて、僕がハンカチで拭いてあげるとその顔が真っ赤に染まる。
なっ…なんて顔するんだよ!!
この人が赤くなる事なんかあるの!?

「…新八くんは優しいねィ…ズリィや…」

寂しげに笑う沖田君に、何故か僕の心臓はトクンと脈打つ。
だっ…駄目だ駄目だ駄目だ!絆されるな僕ゥゥゥ!!

「さっ…さっさと帰ろう!晩ご飯の支度遅れたら姉さんが作っちゃうからね!!」

僕が大きく手を振って歩きだそうとすると、その手をギュッと握られる。
だっ…駄目だよそんなの…っ…

「新八ー迎えに来たヨ!今日はスーパー寄る?まっすぐ帰る?俺が送るヨ。」

「神威さん!?」

僕の手を握ってニコニコと僕に笑顔をふりまくのは昼休みに帰っていったはずの神威さんで…銀魂高校まで来るの早くないか!?
ふっと校門の方を見ると、大きなバイクに跨った阿伏兎さんが帰っていく所で…あの人も大変だなぁ…
僕がぼんやりと苦労性の年上の友人が去っていった方を見つめていると、握られていた筈の手が解放された。

「新八くんを送んのは俺の役目でィ!エセチャイナはさっさと家に帰ってチャイナの飯でも作ってな!!」

「君こそまっすぐオウチに帰ってお姉ちゃんに甘えてたら?」

お互いの弱点を責めつつ、フフンと鼻で笑い合った2人が顔を近付けて睨み合う。
あー…又始まった…実は仲良いよね、この2人。
結構気が合ってるんだし、2人で仲良く帰れば良いじゃん。
僕を放置して楽しそうに喧嘩でもすれば良いじゃん。

…べっ…別に寂しくなんかないし!
そう!こうなると長いから付き合ってられないだけだし!
だから、僕は2人を放置して帰路へつく。

そうしたら、すぐに僕の両隣りに何も無かったように2人が並ぶ。

「俺が帰った後ドS君にイジワルされなかった?」

そう言った神威さんが、ニコリと笑って僕の顔を覗き込んでくる。
とっ…突然そんな近くに顔出されたらビックリするだろうが!!

「新八くん!エセチャイナにセクハラされてやせんか?」

すぐに沖田君が神威さんの顔を向こうに押しやって、ニコリと笑いかけてくる。
…助かった…!

「イジワルもセクハラも自覚があるんなら止めて下さい!」

僕がジロリと睨んでそう言い放ってやると、2人ともが凄く意外そうな顔をしやがる。
なんだその『解ってないなー』的な顔は!!

「イジワルなんざしてやせん、求愛行動でィ!俺Sなんで。」

「そうだヨ、セクハラじゃなくて愛有るスキンシップだヨ?」

「世間一般ではそういうのをイジワルとセクハラって言うんです!!」


…でも実は…3人で並んでワイワイと騒ぎながら帰るこの時間を、実は僕は結構気に入っていたりするんだ。
あーあ、本当に…

「友達なら楽しいんだけどな…」

つい、僕がボソリと呟いてしまうと、2人がピクリと反応する。

「え?俺とは恋人が良いよネ?」

「は?新八くんは優しいから俺とは恋人になりてェのに気ィ遣ってんの解んねェの?」

すっごい笑顔なのに纏うオーラが怖いよ畜生!
そんな脅しには負けないぞ僕はァァァ!

「2人とも頭良いのに僕の言う事全然理解できないんですね。もっと国語勉強してくれませんか?」

大きく溜息をついて足を速めると、すぐに2人とも追いついて来て競い合うように僕の頭を撫でまわす。
本当はこうされるのは、くすぐったいけど気持ち良いんだ。
凄く甘やかされてるみたいで、懐かしくて嬉しい。
でも、素直にそんな事を言える僕じゃない。
好きだなんて言ってるなら、それぐらい気付くよね…?

「もぉぉぉ!ヘアスタイルが乱れるだろっ!!」

「大丈夫、新八くんなら乱れても可愛い。」

「だって触り心地いいヨ、新八のアタマ!」

そうやって又ニコニコ笑われると、解ってもらえたみたいで嬉しくて…甘えちゃうじゃないか…
鬱陶しいんだけどやっぱり憎めなくて、だんだん居心地が良くなって来ちゃってるのが怖いよね。

こんなコト、どうせいつかは飽きるんだろうから…

今はまだこのままでも良いんじゃないかって…

そう思ってしまった僕は、もうこの2人から逃げる事は出来ないのかもしれない。


END


25萬打フリリク企画で匿名様にリクエスト頂きました『3Zでの沖→新←威』でした。

沖田君と神威さんの新八君争奪戦…少し沖新贔屓になってしまった気がします。
が、にーには一歩も引きませんよきっと。
ワタシの中ではこの3人シスコントリオになってしまってますが…3Z設定なら、全くタイプが違いますが接点も有りますし、そう言う所では意外と気が合うのかも…と思いました。

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
そして、たいっっっっっっっへんお待たせしてしまい申し訳ありませんでした!
この度はリクエスト有難う御座いました!!