お兄ちゃんがバイトに行っちゃったんで、キッチンでカグラちゃんと晩ご飯を食べていると、チャイムが鳴った。
誰だろ…?
モニターで確認すると、そこに居たのはお友達のうららちゃんだった。
どうしたんだろ?
「うららちゃんどうしたの?」
すぐに玄関を開けて声をかけると、うららちゃんが着けていたブローチが光って剣になった!?
その上ソレを手にしたうららちゃんが、流れるような動きで私に斬りかかってくるよ…!
「うららちゃん!?」
反射的に避けて声をかけても、うららちゃんは無表情のままフェンシングのような構えをとって私に向かい合ってくるよ…いつもは大人しくてとっても優しい女の子なのに突然どうしてこんな事…私、何かしちゃったの…?
それにうららちゃんはフェンシングなんて習っていないのに…すごく上手だよ…
「ぱちえ!」
うららちゃんの剣をなんとかよけている所にカグラちゃんが飛んでくる。
「あれは『剣』のカードアル!この子乗っ取られているヨ!!」
「えぇっ!?」
カードさんってそんな事も出来るの!?
でも、乗っ取られてるって事は、体はうららちゃんだって事だよね…攻撃は出来ないよ!!
カグラちゃんと一緒にうららちゃんの『剣』から逃げているけど…逃げてるだけじゃどうにもならないよぅ…
それに、私が逃げるたびに標識とかがスパスパと斬られていくよ!どうしようゥゥゥ…
うららちゃんが届かないように、壁の上に『跳』で逃げると少しだけ攻撃がやんだ。
どうしよう…このまま逃げ続けててもどうにもならないよ…うららちゃんも助けられない…
今いるカードさん達で…なんとかしなくちゃ…
「ぱちえ!気をつけるネ!!」
カグラちゃんの声と同時に今まで乗っていた塀が斬られて、私は地面に落ちてしまった!
そこを狙いすまして『剣』が斬りかかってきて…とっさの事に私は腕で頭をかばって目をギュッとつぶってしまった。
斬られたら痛いよね…うららちゃん…助けたいのに…
キィン………
少ししても斬られた痛みはなくて…前でギチギチと何かがこすれる音がする…何…?
そっと目を開けると、私の前には真っ黒い背中とキレイなうす茶色の髪が見えた。
え…?
慌てて私が後ろに下がると、そこにはうららちゃんの『剣』をしっかりと日本刀で受け止めている沖田君が居た。
「コイツ誰アルか!?」
「この子が沖田総悟君だよ!」
カグラちゃんにそう教えていると、軽々と『剣』を受け止めている沖田君が振り返って又バカにしたような顔で私を見た。
「…弱ェなおまえ。」
確かにそうかもだけど…!
でも…私にだってうららちゃんを助ける事は出来るよ絶対!
「助けてくれてありがとう!」
「…別に…『ショウヨウカード』の気配を追ってきただけでィ…」
ん、と私に何かを差し出してくるから受け取ると、それは可愛いビンに入ったキャンディ…いちごみるくのお返し…とか…?
沖田君って良い子なのかな…?
私がジッと見ていると、ふいっと顔をそらした沖田君がうららちゃんに向き直ってすごく怖くなる…あ…!
「だめー!」
沖田君はうららちゃんを攻撃する気だ!
そして『剣』のカードでも沖田君には敵わない。そんな気がする。
そんな事になったらうららちゃんが怪我しちゃうし、沖田君の心も痛くなっちゃう!そんなのダメだよ!!
だから私は、後ろから日本刀を持っている方の手につかまって沖田君を止めてしまった。
「何しやがんでィ!?」
「ぱちえよけるネ!」
カグラちゃんの声から一瞬遅れて『剣』の攻撃が私達をおそった。
それをなんとかよけて、すぐに沖田君ごと『跳』で今度は木の上まで逃げるとすぐに手を振り払われてしまった。
「バカかテメェ!こっちが殺られる所だったろーが!!」
「うららちゃんをケガさせちゃダメ!それに、沖田君だって痛くなっちゃうよ!!」
「はァ?俺があんな小娘にヤられる訳…」
「痛くなるよ!心が…」
私がちゃんと目を見て言うと、沖田君は目をそらしてしまった。
…余計な事だったのかな…沖田君は強いから、そんな事無いのかな…?
「素直じゃないアルな、コゾー顔真っ赤アルヨ。」
ニヤニヤと笑ったカグラちゃんが沖田君に言うと、ガチャリとバズーカを構えてカグラちゃんを狙いはじめたよ!?
「沖田君ダメェェェ!この辺火の海になっちゃうよォォォ!!」
「チッ…」
今度はバズーカを持つ方の手にしがみつくと、沖田君が舌打ちをしてどこかにしまってくれた。
…どこから出してどこにしまってるのかは分からないけど…
「カグラちゃんも!なんでそんなイジワル言うの!?」
「訳なんかないアル。なんかいけ好かないヨ。」
にらみあった2人が、フンッ、と顔をそらすけど…この空気いたたまれないよぅ…
ううん!そんな事より今はどうやってうららちゃんを助けるか、だよ!!
「えっと…今あるカードさんは…」
「ぱちえ、あの子がちょっとでも『剣』から手を離したら良いネ。なんとかしろヨ。」
「えっ…えぇぇ…」
私がいっしょうけんめい今できる事を考えていると、はぁっ、と沖田君が大きく溜息を吐く。
まっ…又呆れられちゃったよ…
「…アイツに怪我させねェで『剣』を弾きゃ良いのか…?」
「うん!」
「…仕方ねェ…俺が手伝ってやらァ。」
そう言ってふわりと木から飛び降りた沖田君が、距離を取ってうららちゃんと向かい合う。
「一瞬だから遅れんなよ?アイツが手ェ離したら封印しろ。」
そう言った沖田君がふらりと動いたと思ったら、『剣』の攻撃を自分の身体で受けたまま、うららちゃんの手から『剣』を弾き飛ばした!
「ぱちえ!今ネ!!」
「なんじのあるべき姿に戻れ!『ショウヨウカード』!!」
私の呪文と共に『剣』はカードに戻ってふわりと飛んできた。
それを取ると、うららちゃんがその場に倒れてしまった!
「うららちゃん!」
すぐにかけ寄ると、うららちゃんは沖田君が支えててくれて、カグラちゃんが様子を見てくれていた。
だいじょうぶ…なの…?
「大丈夫ネ、気絶してるだけアル。」
カグラちゃんがそう言ってくれるから安心だ…よね…?沖田君もうなづいてるし…
私がうららちゃんをのぞきこむと、気づいた沖田君がジッと見てくる。
なんだろ…?
「…お前、その程度の力で『ショウヨウカード』を全部集めるつもりなんですかィ…?」
冷たい声でそう言われると落ち込んでしまいそうになる。
今回だって、沖田君が助けてくれなかったら『剣』もうららちゃんも助けられなかったかもしれない。
でも…
「だまれヨ!コゾー!」
私が言い返そうとしたのに、私達の間にカグラちゃんが飛び込んできた。
あァァァ…又ケンカになっちゃうよー!
私が止めようとしてカグラちゃんをつかむと、ひょいっと横から顔をのぞかせた沖田君がマユを寄せる。
「さっきから気になってやしたが…何でィこいつ。」
「カグラちゃんだよ?」
あれ?『ショウヨウカード』の事くわしいのにカグラちゃんの事は知らないのかな?ううん、裏庭ではヤトって言ってたよね…?
私が説明すると、沖田君の目が細くなる…なに…?
「…コレが『封印の獣ヤト』ですかィ…?最強の守護獣が…このぬいぐるみ…?」
今まででいちばんバカにした顔になった沖田君が、指1本でカグラちゃんの頭を押さえつける。
プルプルと震えていたカグラちゃんがその指をスルリとかわしたと思ったら、ガブリと思いっきりかみついた!!
「痛ェ!」
沖田君が大きく手を振って地面にカグラちゃんをたたきつけると、指から離れたカグラちゃんが沖田君の目の高さまで飛んで、ふたりがにらみあう…イヤァァァ!うららちゃんが!うららちゃんが!!
「ふたりともケンカはダメだよ!せめてうららちゃんを離してェェェ!」
私が叫ぶとやっとうららちゃんを思い出したのか、ふたりがフンと顔をそらした。
「命拾いしたナ、コゾー。」
「テメェがな。」
なんでこんなに仲悪いんだろう…今日会ったばっかりのはずなのに…
なんか、宿命のライバルみたいだよ…
黒い上着を脱いでうららちゃんの枕にした沖田君が、立ち上がってプルプルと手を振る。
白いブラウスには血が…!
そう言えばさっき『剣』の攻撃をよけてなかったよ!!
あわててかけよって、傷口にハンカチを当ててしばると又目をそらされてしまった…怒ってるよね…
腕に巻いたハンカチから血がにじんで赤くなる。
沖田君すごく痛いよね…
「ほんとうにごめんなさい…それに助けてくれてありがとう。沖田君、すごく強くてカッコ良かったよ!私はあきれられるぐらい弱くて…でもがんばるから!ぜったい全部のカードさん達を集めるから…!」
なんだか自分が情けなくて涙が出てきちゃった…もっとあきれられちゃうよ…
「別にあれぐらいなんでも…ってお前泣いてんのか…?」
どうしよう、泣きやまなきゃいけないのに涙が止まらないよぅ…
「…あー…こんぐらい何でもねェから気にすんな。それにお前だって頑張ったし………力が足んねェ分は特別に俺が手伝ってやるから…泣くな。」
「おきたくん…?」
驚いて見上げると、目が合ったとたんにすごい勢いでそらされてしまった。
沖田君お顔真っ赤…そうか、沖田君ってすごい照れ屋さんなんだ!それに本当は優しくて良い子だし、すっごく強いし…仲良くなれると良いな。
パタパタと飛んで近付いたカグラちゃんが沖田君に何かを言って、今度は本当にケンカが始まってしまったけど、うららちゃんも避難してるし、優しい沖田君の事だからそんなにヒドイ事はしない…よね…?
『ショウヨウカード』を全部集めるのはきっともっと大変な事がいっぱいあると思うけど、カグラちゃんと妙ちゃんとそれに沖田君がいてくれるから!
きっとだいじょうぶ…絶対だいじょうぶだよ!
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