俺がぱしぱしとパチ恵の背中をタップすると、俺の状況に気付いて慌てて腕の力を緩めてくれる。
ちょいと残念だけど、まぁこれからいくらでも堪能出来るから今は離れよう。
「旦那、チャイナ、それからデケェ犬。俺ァ別にアンタらからパチ恵を奪おうって思ってる訳じゃ無ェよ。これからだってパチ恵は万事屋に来るぜ絶対。それに俺なんかよりアンタらの方がずっと長い事パチ恵と一緒に居て、特別な約束なんざ無くたって大切に想われてる。」
俺が話し始めると、喰い殺しそうだったヤツラの目が少しだけ和らぐ。
パチ恵も何か言いたそうだけど、俺は話を続けた。
「でも俺は、逢って話をするのにだって約束がいるんでィ。いつも嫉妬してんのは俺の方でィ。」
そこまで話すとチャイナが勝ち誇った顔になって、旦那と犬の表情も緩んだ。
代わりに土方さんと山崎の表情は落ち込んだけどな。
「だから俺ァ一刻も早く、この先パチ恵が嫌になるまで一緒に居られる約束をしようと思ったんでさァ。そんで、パチ恵も約束してくれた。それだけの事なんでィ。」
「…嫌になんてなりません。この先ずっと一緒の約束です…!」
俺の上着の裾をぎゅうっと掴んでそんな事言ってくれるパチ恵は可愛くってしゃーねェ。
だからその手を外して俺の手を掴ませた。
「銀さん、神楽ちゃん、定春、私はもちろん皆が大好きです。でも、沖田さんの事も大好きなんです。この先ずっと、沖田さんが私を嫌になっても一緒に居るって決めたんです。だから…だから」
パチ恵が俺の手を強く握って縋るような目で万事屋達を見つめる。
こんな顔、パチ恵にさせたくねェのに…でも俺だってコイツだけは引く事は出来ねェ。
だから多少ならどうされても良いって思いで無防備にただ頭を下げた。
なんとかパチ恵の想いを叶えたくって、プライドやなんやらは脇に置いた。
殴られても今日だけは我慢しようと心に決めて頭を下げ続けると、はぁ――――――っとでっかい溜息が聞こえてすぐにバリバリと何かを破る音とドスドスとデカイ物が遠ざかる音がする。
「ぜってぇ泣かせんなよ?ちょっとでも泣かせたらすぐに奪い返すからな。」
「カワイソーだからちょっとだけパチ恵をやるネ。ひとりじめしたら捻り潰してヤルから覚悟しろヨ。パチ恵お茶。」
そっと顔を上げると包み紙がぐちゃぐちゃに破られた手土産と、それをモリモリ喰らう万事屋…
認め…られたのか…?
もう一度頭を下げて、俺はパチ恵の小さい手をぎゅうと握り締めた。
「お茶が遅いアル!そんなんじゃこのワガママバカなドSのヨメなんかつとまらないネ!ワタシがきたえてやんヨ!」
「あらあらそーちゃんってばいつもは我儘馬鹿なドSなの?」
「そうアル!パチ恵だけには気持ち悪いけど他にはイジワルヨ、姐さん!」
「ええっ!?沖田さん皆に…皆に…ごめんなさい庇えません…」
………普通は嫁の方が小姑に悩まされるんじゃないんですかィ………?
これからの事を考えて、酢昆布大量に買っとかないとなァと俺は思いました。
◆
そして迎えるラスボスは、最凶最悪なお人で…でもパチ恵にとってはこの世にたった一人の大切な姉上だ。
俺ァどんな事にも知恵が回るってェ自信は有る方なんですが、今回に限っちゃ良い知恵は全く浮かばねェ。
それに、このお人にはそんな小細工はしちゃなんねェ。俺の姉上と同じように大事にしなきゃいけねェ女性なんだ。
だから真正面から二人でちゃんと話をしなきゃなんねェってのに………何故俺の前には屍の山が積み上がっていやがる…?
まず始めにいつものように飛びついて行った近藤さんが叩き落とされた。まぁコレは仕方無ェ。
次にやっぱり着いてきた万事屋の旦那が姐さんを宥めようと不用意に近付いてヤられた。
それに続いて距離を取りつつ話し合いをしようとした土方さんが捕まってヤられた。
山崎なんかはビビって床下に隠れたってェのに見付かってヤられた。
その上、まさか手は出さねェだろうと思ってたチャイナまで、姐さんはその屍の上に乗せた。
そして今、姐さんは俺の姉上とニコニコ笑いながら睨み合ってる。
そりゃァもう、二人ともニコニコニコニコと傍から見たら優雅なティータイムってェ雰囲気で綺麗に微笑み合っている。
でもその周りは一歩でも動いたら殺される、ってェ殺気で満ちていて…今迄色んな修羅場を経験してきた俺でもうかつに動けねェもんで。
だからって…このまま何もしないんじゃここまでの努力が台無しでィ。
なんとか隙を見付けて斬り込まなきゃいけねェや…俺ァ真選組一番隊隊長。斬り込み隊長なんでィ!
「あ…」
「姉上いい加減にして下さい!私の話も聞いて下さい!!」
俺が斬り込むのを制してパチ恵が斬り込んだ!
流石俺の惚れた女でィ…
「八恵ちゃんは、黙っていてくれないかしら…?」
美しく微笑む鬼が居らァ…
でもやっと、とりつくシマが出来やした。
「姐さん、俺達の話を聞いて下せェ。」
「総悟、引きなさい。今は私達が話をしているのよ?」
…こっちにも綺麗な鬼が居らァ…こんなおっかねェ姉上は初めて見た…
でも、いくら姉上の言葉でもこればっかりは聞く事ァ出来ねェ。
「それは出来やせん。これだけはいくら姉上でも大人しく引く事は出来ないんでさァ。」
「そうです!これだけはちゃんと私達が話さないといけない事なんです!!」
自然と手を繋いだ俺達が引かずにそう言い募ると、きょとん、と目を見開いた姉上達が、俺達を見て、互いに顔を見合わせた。
そうして今度はコロコロと笑いだす。さっきまでの恐い笑顔じゃァなくて、楽しそうな笑顔で。
「「姉上…?」」
「あら、そんな所まで合わせちゃうの?」
姉上が目じりに浮かんだ涙を拭う。
「思ってたよりしっかりしてるのね、沖田さん。」
姐さんも目じりに浮かんだ涙を拭う。
これァ一体…イキナリどうしたってんだ…?
いや、そんな事ァどうだっていい。やっと話が出来る。
「姐さん、妹さんを俺に下せェ!彼女より先には絶対死にやせん。そんな事、心配すぎて出来やしませんぜ。俺に出来る限り幸せにしやすし生活も不自由させやせん。俺の命が有る限り…いや、それよりもずっと愛する事を誓いやす!だから結婚する事を祝って下せェ!」
「姉上っ!沖田さんは無茶苦茶な事したりもしますけど、約束は絶対守ってくれるんです!私、もう泣きませんから…だからどうか沖田さんと結婚させて下さい!絶対幸せになりますからどうか…」
「俺の事ァ目の敵にしてくれて構いやせん二人分憎まれやす。だからパチ恵の事は祝って下せェ!」
そう言って思いっきり頭を下げると優しい手が俺の頭を撫でた。
姉上…?
そっと顔を上げるとその先には姐さんが居て…
「何て事言うんですか。結婚は二人共が幸せにならなきゃいけないものなんですよ?片方だけが幸せになったって仕方がないじゃないですか。」
そう言ってにこりと綺麗に笑った。
その顔は姉上にもパチ恵にも似ていて、とても好ましいものだった。
「八恵の事、ちゃんと宇宙一の幸せ者にしてあげて下さいね?それと道場の復興の手助けも…」
「それは近藤さんに婿に入ってもらってなんとかして下せェ。俺達ァこれから役所に行ったり新居を探したり忙しいんでこれでお暇させて頂きまさァ!」
なんとなく面倒な事になりそうだったんで、隣で感激するパチ恵を抱き上げて恒道館道場を飛び出した。
どうしても手離したくないモノが出来たら、アンタならどうしやすか?
俺ァこうしやす。
END
25萬打フリリク企画でリク頂きました『原作設定沖パチでまだ16歳だからと言うパチ恵を説得し結婚OK貰う沖田な話』でした。
その後の挨拶話が長くなってしまいましたが、基本ウチのパチ恵は沖田さん大好きなのでそんなにゴネないままおっけーしてしまいました…
折角の設定をモノに出来て無い感じで申し訳ありません〜!
お妙さんとミツバさんは拳で語り合う感じで殺気で語り合って友情が芽生えました。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
この度は企画にご参加いただきまして有難う御座いました!!
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