食後のお茶を飲んで一息ついた僕らは、見廻りをしながら屯所へと帰った。
すぐにおばちゃん達と女中さん達の所に行って頼まれものを渡していると、ひょいっと現れた沖田隊長が僕にヘッドロックをかましてきた!

「新八ィー風呂行きやしょうぜ、風呂ー!」

「だいぢょうゥゥゥーぐるじい…」

そのままの状態で引き摺られていく僕をポカンと見ていた女性達が、次の瞬間黄色い声を上げる。
流石イケメン、モテモテだな!そんなの羨ましくないからな!!
…でも、彼女達が言ってる『おきしん』って何だろう…?沖田隊長のあだ名とか…?
沖田隊長紳士ー!とか沖田隊長神秘的ー!とか沖田隊長神人ー!とか沖田隊長神韻ー!とか…?
まぁ、どれにしても僕には関係ないけどね。
イヤ、ホント、悔しくなんかねーしゅ!


ズルズルと引き摺られたまま僕らはお風呂場に着いてしまったけど…

「隊長!僕お風呂の用意何もしてませんよ!」

なんとか踏ん張ってその場に止まると、怪訝な顔の隊長がじっと僕を見る。

「別にいらねェだろ。風呂場に全部あらァ。」

「いえ!着替えが要りますよね!」

「パンツなら貸してやらァ。」

隊長がペシッと僕の頭を叩いたのは、新品のトランクスで…
え…?この人が僕の事気使ってくれたの…?

「イヤ、貸すって…洗って返せとか言うんですか!?イヤですよ!新しいの買って返しますよ!!」

「イヤ、別に洗わねェで返しても良いんですぜ?」

そう言ってニヤリと笑った顔は、思いっきり僕をからかってる!
気を使ってた訳じゃなかったァァァ!!

「そんなモン返されてどうするんですかァァァ!?」

「えー?かぶったり匂い嗅いだり?」

「変態ィィィ!!!」

思わず受け取ったトランクスを振りかぶると、ゲラゲラと大笑いした沖田隊長が走って逃げる。

「ちょっとした冗談じゃねェか。別にパンツの1枚や2枚やらァ。薄給の小姓から金巻き上げる程甲斐性無しじゃねェよ。」

いきなり止まって振り向くんで、僕は思いっきり沖田隊長に鼻をぶつけてしまった。
鼻を擦りながら見上げると、僕を見る顔がビックリするぐらい優しくて…僕はどう反応して良いのか解らなくなってしまった…

「…有難うございます…」

「んじゃ行きやすぜー」

「はい…」


けっこう頻繁に沖田隊長とお風呂が一緒になるんだけど、その度に僕とは全然違う体つきに少しだけ落ち込んでしまう。
たった2歳差なのに…その引き締まった無駄の無い筋肉は一体どんな鍛錬をしてきたのか想像もつかない。
後2年で僕もあんな風になれるんだろうか…?

「なんでィ新八くん、俺の躯に見惚れて何想像してんでィ。えっちーィ。」

両手で胸を隠してクネクネと身体をくねらせている隊長は本気でムカつく。
僕の尊敬の念はいつも沖田隊長の言動でブチ壊されるんだよ!!

「えっちじゃないです!凄い筋肉だなぁって感心してたのにふざけないで下さい!!」

僕が走って追いかけると、隊長はひょいひょいと軽くかわして逃げ回る。
その余裕がもっとムカつくゥゥゥ!
僕がムキになって走るスピードを上げると、いつの間にか上手く仕掛けられていた石鹸トラップにまんまと嵌ってしまって…
すっ転んだ僕は凄い勢いでお風呂の床を滑って、奇跡的に前に居た沖田隊長の足を引っ掛けて、2人揃って風呂場の端まで滑って壁にぶつかって止まった。

「いったァァァ!沖田隊長が変な悪戯するから!」

「いだだだだっ!新八がドンくさいからだろィ!あんな罠ぐらい避けなせェ!!」

掴み合いをしながら僕らが口喧嘩していると、周りから『煩いぞ!』とか『はしゃぐな餓鬼共!!』とかの怒鳴り声が飛び交うけどここは譲れない。

「うっさいです!今日こそは隊長に言い聞かせないとダメなんです!」

「お母さんかよオメェは!?」

「はぁっ!?」

「なんでィ!?」

ギャーギャーと遂には怒鳴りあいになった所でガラリとお風呂場のドアが開いた…と思った瞬間頭に激痛が走る。

「ゴラァァァ!風呂場で遊ぶな餓鬼共ォォォ!!」

タイミング悪く入ってきた副長にまたもや拳骨をくらった僕達は、湯船の中で正座させられて1000数えさせられた。





半分意識が飛んだままお風呂を出た僕がそのまま一緒に一番隊隊長室に行くと、怪訝な顔の沖田隊長が僕に向き直る。

「新八ィ、オメェの部屋は向こうだろィ…」

「え?隊長もう忘れたんですか?今日から僕もココで寝るんじゃないですか。」

昼の内に布団も寝間着も運んじゃってるんだけど…今更大部屋に布団抱えて戻るのは面倒くさいなぁ…
ジッと沖田隊長を見上げると、ポカン、とした顔でぼんやりと僕を見てる。

「え…マジで…?」

「マジで、って…僕が一緒に寝てたら僕が起きる時に一緒に起きてくれるって言いましたよね?」

にっこりと笑ってそう言うと、なんでかモジモジした隊長がコクリと頷いた。
珍しく素直…

「おう…起きてやらァ…」

なんだか隊長の顔が赤い気がするけどまぁ気にしない。
年の近い友人も隊士も居なかったって局長が言ってたし…こういう寺子屋でするような事を今更するのは恥ずかしいのかな…?
でも、まだまだ僕らはそれぐらいの事で恥ずかしがるような年じゃないし。
今迄沖田隊長が経験できなかった事を僕が一緒にしてあげられたら…それは僕にとっても嬉しい事になると思うんだ。


それぞれで敷いた布団を隣同士に並べて、電気を消してからもなんやかんや2人で話をする。
それはくだらない話なんだけど凄く楽しくって、僕らはついつい夜更かししてしまった。

次の日、少し寝坊してしまった僕はなんだか手がぽかぽかしてつい2度寝してしまいそうになった。
それはいつの間にか繋がれていた沖田隊長の手の暖かさで…子供みたいで恥ずかしいと思ったけれど、それでもその暖かさと安心感で僕はその手を離せなかった。

「…沖田隊長、朝ですよー、起きて下さい?」

そっと繋がれたままの手を引っ張ってみると、薄っすらと目を開けた隊長が幸せそうに微笑んだ。


なっ…なっ…なっ…なんじゃそりゃァァァ!?
かっ…かわっ…かわっ…可愛過ぎるんですけどォォォ!!!!!
僕の中の何かが目覚めるゥゥゥ!?


焦り過ぎてテンパった僕は、そのまま隊長を投げそうになって、寝起きでもそれをあっさり避けた隊長に拳固をくらった。

「明日からはもうちっと優しく起こして下せェ。」

「…善処します…」



その後、食堂で会った大部屋の先輩達が、やけに優しくドーナツ座布団をくれたり僕の腰や体調を心配してくれたのだけれど…なんだろう…?謎だ。

まだまだ勉強不足の僕だけど、この強面だけどそれでも優しい集団が大好きだ。
だから、ずっとここの皆とバカやったり喧嘩したりしながら、江戸の平和を守っていけたら良いと心から思います。



END



25萬打フリリク企画でるき様にリクエスト頂きました『新八が沖田の部下パロ』でした。

やっぱり思った通りに長くなってしまいました…
しかし!真選組設定の新八くん…それも沖田隊長の小姓の新八くんが書けてとても楽しかったです!!
書きたい事を全部いっぺんに詰めてしまいました。悔いは無い(ドーン)
これから少しずつ距離を詰めていく2人になると良いなぁ、と思いました。
あ、タイトルは『ばくまつ』と読みます。
新八くんが真選組の話ならやっぱりタイトルはコレだろうと思って漢字を適当に当てました。

るき様が少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
そして、たいっっっっっっっへんお待たせしてしまい申し訳ありませんでした!
この度はリクエスト有難う御座いました!!