数日後、いつもの如く大江戸ストアのタイムセールに向かっていた僕は、捕り物をやっている沖田さんを見かけた。
うわ…カッコ良い…
遠くから見惚れていた僕の目に飛び込んできたのは、まだ若い黒髪の女性が、小刀を構えて沖田さんに飛びかかる様で…
危ないと思う間もなく、沖田さんはその女性を危なげも無く叩き落とした。
そのままその女性を確保しようとした隊士の方を振り切って、その人は持っていた小刀で、自分の首筋を、掻き切った。
嘘みたいに飛び散った血飛沫が辺りを濡らし、それは沖田さんをも濡らした。
沖田さんの表情が、暗いものに変わり、ぐっと、拳を握る…

僕はなんとなく、その光景を見てはいけないような気がして、そそくさと大江戸ストアに向かった。
沖田さん…大丈夫かなぁ…
僕もなんとなく暗い気分になって、タイムセールの品物だけを買って、万事屋に帰った。

家に帰っても、沖田さんの表情が忘れられない…
こんな時、僕は何も出来ない…せめて、傍に居られたら…何か出来る事が有るかもしれないけれど…
僕は傍に居る事も出来ないから…

僕の気分のように、外は雨が降り出して…
あ…雨戸閉めなきゃ…
重い足を引きずりながら縁側に向かうと、庭に何か白いモノがぁぁぁぁぁぁぁっ!?って…

「沖田さんっ!?」

そこには雨の中、ただぼんやりと佇む隊服姿の沖田さんが居た。
何か…様子が変だ…
僕が慌てて駆け寄ると、何も映していない様なガラス玉の瞳が僕を捉える。

「どうしたんですか!?こんな時間にずぶ濡れで…っ…!?」

突然ぎゅう、と抱きしめられて、息も出来ない…

「お…きた…さ…ん…?」

どうしよう…僕の全てが震えてる…
嬉しくて嬉しくて、気が狂いそうだ…
そろり、と沖田さんの背中に手を回して抱きしめると、ぐすりぐすりと鼻をすする音が聞こえて、僕の頬に暖かい水が落ちてくる。
沖田さん…泣いてる…?

「…俺ァ…駄目でさァ…駄目駄目だァ…」

「…沖田さん…?」

それだけを僕に伝えた沖田さんは、その後は何も言わずにただずっと僕を抱きしめている。
…何も聞けないよ…何も…
今の僕には、ただぎゅっと沖田さんを抱きしめることしか出来なくて…
暫くそのままぎゅっと抱きしめ合って、するりと沖田さんが離れる…

「すまねぇ新八ィ…やっぱりオメェには癒されらァ…ありがとな…」

にこりと笑って、すっと立ち去ろうとする沖田さんの袖を掴んで引き留める。

「…沖田さん、ずぶ濡れじゃないですか。そのままなんて帰せませんっ!僕の着物貸しますから、お風呂…入っていって下さい!風邪ひいちゃいますよっ?」

「なんでィ、オメェは俺の母ちゃんかよ…」

「母ちゃんで良いですからっ!ほら、さっさと入って下さい?」

「…俺は奥さんの方が良いんですがねぇ…」

「はぁっ!?」

「…冗談でィ、怒んなよ…」

寂しそうな顔で僕の頭をぽんぽんと叩いた沖田さんが、さっさと家に入ってお風呂場に向かう。
僕は急いで着替えを用意して隊服は洗濯機に突っ込む。

沖田さん…大丈夫かなぁ…

僕が隊服を干してからお茶の用意をしていると、沖田さんがお風呂から出てくる。
やっぱりまだ顔色が悪い…

「沖田さん…どうしたんですか…?僕で何か出来る事…」

「おー、すまねぇな、新八ィ…俺とした事が、ちょいと落ち込んじまった…」

「良いんです!僕なんかで役に立てるなら…いつでも…あ、お茶どうぞ!」

「ありがてぇ…新八の茶ァ飲んだら落ち着かァ。」

にこりと微笑んで、お茶を飲む。
ほーっと溜息をついて、又にっこりとほほ笑む。
あ…やっと笑ってくれた…
この笑顔を守る為なら、いくらでもお茶ぐらい出しますよ…それぐらいしか、出来ないけれど…

「やっぱ美味ぇや、新八の茶は…いつでも…飲めれば良いねぇ…」

「そんな、お茶ぐらい家に来てくれればいつでもお出ししますよっ!」

「…あー…そうじゃなくて…いつでも近くに新八が居てくれたらなぁ…と…」

「え…?」

「なんてな。俺にんな事言われても困るよな、新八は。いけねぇや、弱気になっちまって…」

ま…さか…沖田さんも僕の事…少しは好きでいてくれるのかな…?
だとしたら…こんな幸せな事は無い…僕は…僕は…

「僕が沖田さんに何か出来るなら…凄く…嬉しいです…だって…僕は…沖田さんの事…」

「新八…?」

沖田さんの顔が、びっくりした形で固まる…
あぁ…やっぱりそんな事は無い…

「…友達だと思ってますから…」

僕が無理矢理にこりと笑うと、沖田さんもにこりと笑う。
あぁ…言ってしまわなくて良かった…

「…友達…ですかィ…そう思ってくれてたんですかィ…」

沖田さんの笑顔が寂しそうなものに変わる。
何で…?僕は…言ってしまって良かったの…?
分からない…分からないよ…
僕の気持は…届けても良いの…?
分からない…

じっと見つめる僕の瞳に想いを込めるから…
気付いて…?

ただじっと見つめていた僕を抱き寄せて、熱い唇が降りてくる…
…僕の気持は届きましたか…?
貴方を好きな気持ちだけは溢れてるから…
だから…

「俺は愛してるぜィ?新八ィ…」

僕の両目から涙がこぼれたのを見せたくなくて、優しい胸にぎゅうっと抱きついた。
それは、僕の人生で一番の事件。
大好きな人と想いが通じた、瞬間。
これからは、ずっとそばで貴方を護りますから…
だからどうか…ずっと一緒に居て下さいね…?


END


参萬打企画で落榎さんにリク頂きました!
…あれ?男らしい新八…?
すんまっせん、今回はこの曲聞いて無いんで、歌詞だけで書いたらこんなんなりましたぁ!
…少しでも気に入って頂けるとこれ幸い…だなぁ…とか…