「いっ…いえっ!これは汗ですっ!イキナリ汗かいたんですっ!」
「…うそだ…ないてた…」
不満そうな先輩が、突然ぎゅうと抱き締めてくる。
えっ!?何がっ!!??
「…ないてもいい…ひよこ色も…俺が巻く…おきたのだから…がまんした…いらないならもらう…ひよこ色も…しんぱちも…」
…先輩は優しいなぁ………
でも、なんかこの流れ変なんですけど…なんか僕、総悟君に振られたみたいな流れになってるんですけど…そ―ゆ―のじゃないんですけど…
「イエ、先輩。有難いんですけど、別に僕泣きませんから。マフラーは洗い替えにしますから。」
僕が言うと、先輩が腕を緩めて、小首を傾げて僕の顔を覗き込んでくる。
「…泣かない…?」
「はい、泣きませんよ?」
僕がにっこり笑うと、先輩が不思議そうな顔をする。
「…でも…しんぱちふられた…」
「イエ!それ何か誤解ですからっ!!訳分かりませんからっ!!」
「訳判らねぇのは俺の方でぃ!」
あ、総悟君が復活した。
ツカツカと僕らに近付いてきて、僕を高杉先輩からベリっと剥がす。
「何なんスか先輩!いくら先輩でもいきなり首絞められちゃ、黙ってやせんぜ、俺ァ。」
総悟君がぎゅうっと僕を抱きこんで、先輩にガンを飛ばす。
イヤ、だから何で皆僕を抱きこむかなぁ!?抱き枕か?僕はっ!!
「…しんぱちがんばってた…おきたのだから…がまんしたのに…おきた別のしてる…」
何?って顔で総悟君が僕に通訳を求めてくる。
僕はなんとか総悟君の腕の中からもがき出て、総悟君に向き直る。…あ―あ、言うつもり無かったのに…
「いや、総悟君寒そうだったから…僕、総悟君にもマフラー編んだんだよね。高杉先輩は僕が総悟君にマフラー編んでるの知ってたから…別のしてたって怒ってくれたって言うか…や、ホント総悟君が怒られる事じゃないと思うんだけどね?僕も。どーも先輩、本当は黄色のマフラーの方が良かったらしくって…」
「なんでい、あれァ俺のだったのかよ…」
総悟君がへにゃっ、と笑ってうつむいて手を差し出す。
「は?」
「俺にくれるんじゃねぇのかぃ?マフラー…俺ァあれは、そよか誰かんだと思ってやしたよ。」
「や、でも総悟君には、ミツバさんの編んでくれたヤツが…」
綺麗な白いマフラー…
「何で新八が編んでくれてんのに、姉上の『実験マフラー』してなきゃならねぇんでぃ。コレぁ、姉上が彼氏に編む前に練習で編んだモンでさぁ…」
…そうか…弟の悲しさ…僕も知ってるよ…クッキーがあんなにも炭化する物だったなんて………
「…でも…ミツバさんの編んだヤツの方が綺麗だよ…?編み目とか揃ってるし…」
「良いんでぃ!俺ぁ似合うんだろ?ひよこ色。」
ばっ!と上げた総悟君の顔は真っ赤で、満面の笑みを浮かべていた。
…なっ…何て顔してんだよ、この人はっ…!?
…こっちまでテレるわっ…!
僕が、鞄に入れていたマフラーの入った袋を取り出すと、総悟君がそれを、さっ、と持っていく。
「なんでぃ、上手じゃねぇか…似合うか?」
首にぐるっと巻いて、微笑む。
僕の編んだマフラーなのに、雑誌のモデルみたいだよ…
「…似合うよ…さっすが僕!!」
「なっ…俺だから何でも着こなすんだろがぃ!!」
僕らがギャーギャーとケンカをし出すと、高杉先輩がにっこりと笑う。
「…やっぱり…にあう…ひよこ色……」
「…あざ―っス…」
総悟君がペコリと会釈するんで、僕も会釈した。
すると、高杉先輩が総悟君に近寄っていって、何かボソッと呟く。すると総悟君の目付きが変わる。
………何だ………?
「何ですか?2人でナイショ話ですか?」
「…せんせんふこく……」
「…そうですか…」
高杉先輩が、又何か訳の分からないことを言ってる…
とりあえず笑っとこう…
「なんとか纏まったがか?んじゃ部室の鍵、閉めんとイカンきに早ぉ出るぜよ―」
坂本先輩…居たんだ………
僕達が素直に部室を出ると、先輩達はカギを返すと言って、手を振って去っていった。
「じゃあ、俺らも帰りやすかぃ新八。」
「そうだね。僕は夕飯の買い物して帰るけど、総悟君は?」
「んじゃ、俺も行くとしやすかね。今日は卵が安いハズでぃ。」
2人並んでスーパーへの道を急ぐ。
総悟君の首にはひよこ色…うん、やっぱり似合う、この色。やっぱり僕のセンスが良いんだよ!!
つい、顔がにやにやと笑ってしまう…えへへ…嬉しい…
「新八ィ、マフラーくれたんなら揃いで手袋…は良いか。マフラーだけでもぽかぽかだしねぇ。」
あ…また遠慮した…
「ちょっと総悟君!近藤君に何言われたか知らないけど、変な遠慮しないでよね!!」
総悟君がびくり、として不自然に目を逸らす。
「…何の事ですかぃ?近藤さんは関係ねぇ…」
「しらばっくれてもダメです。神楽ちゃんがペラペラしゃべってくれましたよ。」
チャイナー!とかなんとか言ってるけど、ホント、近藤君にだけは懐いてるよな、この人…何かちょっと悔しい…
「どーせ姉上が何かしたんでしょ?マフラーで釣られたか何かしたんじゃない?近藤君。」
「何で知ってんでぃ!?」
「姉上、今何か編んでますよ、白いすんごいの。あの姉上が、自分の分は僕に編ませたくせに、アレだけは僕に頼んでこないですからね。しかも手伝おうとしたら、手ェ叩き落されましたもん。大丈夫ですよ、多分。」
そう言って僕がニヤリ、と笑うと、総悟君もニヤリと笑った。
「こりゃぁ、ひょっとすると…」
「近藤君にも春が来るかもしれませんねっ!」
あ…うやむやにされそうだぞ…
「だからっ!僕に変な遠慮なんてしないで下さいよねっ!!何か変な感じだよ、総悟君なのに。」
「新八は俺をどんな目で見てんでぃ……」
「わがままドS王子。」
「…何でぃそりゃぁ…ドSで居て欲しいって事ァ、新八はドMかぃ?」
「ちょっ…何調子に乗ってんですか!?ドSですぅ―――どっちかって言うと、僕はドSですぅ―――」
僕らは又、いつものごとくギャ――ギャ――と口ゲンカしながら買い物へと向かう。
……うん、こうじゃないとね、楽しくないや。
数日後、近藤君がもんのすごく嬉しそうに、白いナニかを巻いている姿を見かけた。
…姉上………それが限界だったんですね………
そして、その姿を見た後にはちょっと顔を赤くして文句を言っている姉上を必ず見かけた。
…近藤君…本当に春が来るかも………
続く
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