「やっ…やめてよ!山崎君…僕…僕は…」

僕が一生懸命腕の中から逃れようとするけど、山崎君は結構力が有って離れない…

「やっ…離して!総悟君!総悟君!!」

僕が総悟君の名前を呼ぶと、ふっと腕が緩む。
あ…

「そうか…新八君は沖田君が好きなんだね…幸せなの…?」

ふわりと笑った山崎君が、トイレから戻ってきた総悟君に腕をねじあげられてた…
そして、拳を構えた神楽ちゃんと、ハタキを構えたそよちゃん、こまった顔の近藤君と静かに怒る姉上、怖い顔になった高杉先輩と、それを止めてる坂本先輩が僕らを囲んでいた。

え…?

「…うん…僕、幸せだよ。夢見てるみたいに、幸せなんだ…」

「じゃぁ、仕方ないよね…そうだよね…」

総悟君が手を離すと、山崎君がぐい、と涙を拭く。

「うん、頑張って!俺じゃそんなに力になれないかもしれないけど、応援するよ、新八君の事!」

「山崎君…有難う…ごめんなさい…」

僕らがええへ、と笑い合うと、拳を下ろした神楽ちゃんがとことこと近付いてくる。

「新八…新八はコイツがいいアルカ?それで幸せアルカ?脅されてりしてないアルカ?」

神楽ちゃんが、凄く心配そうな顔で僕に訊いてくる。
…あはは…神楽ちゃんってば…

「神楽ちゃん、僕そんな事で決めたりしないよ。僕は総悟君の事好きだから…だからお付き合いする事に決めたんだ。…心配…してくれたんだよね…有難う…」

僕が神楽ちゃんをぎゅうと抱きしめると、神楽ちゃんがびくっとする。

「あ、ごめん!つい…」

僕が謝って離れようとすると、神楽ちゃんがぎゅうと抱き返してくる。

「ワタシも新八好きだったアルヨ…?」

小さく言って、バッ、と離れる。
そのまま総悟君の前まで行ってギッ、と睨む。

「ドSっ!テメエ1発殴らせろ!!」

そう言ってすぐに総悟君を殴り飛ばす。
えっ!?総悟君飛んだよ!!マジで飛んだよっ!?

僕が総悟君に駆け寄るのと入れ違いで、神楽ちゃんが姉上達の所に走って行く。
姉上に抱きついた神楽ちゃんを、近藤君と坂田先生が撫でている…
僕が見ているのに気づいた坂田先生が、僕に向かって良かったな、って顔でにやりと笑う。

…あの人…いつから知ってたんだろ…

そよちゃんが、嬉しそうに笑って僕にこっそり耳打ちする。

「さっきお兄様が、新八さんと沖田さんは恋人だね、って言ってたんです。本当にそうだったなんてびっくりですけど、新八さんがお幸せなら、私も嬉しいです!おめでとうございます!」

そよちゃんがうふ、と笑って神楽ちゃん達の方に走ってゆく。
…お兄さんの笑顔の意味が分かった………

「新八…良かった…」

僕の頭の上に、ぽふぽふと何かが当たる。
あ…高杉先輩…

僕が顔を上げると、いつもの優しい先輩の笑顔…

「有難うございます…!」

高杉先輩が僕と総悟君の頭をぐりぐりと撫でてくれる。

「イテイテイテイテ…」

総悟君が何か沈んでる気だするけど…どうしたんだろ?

「…沖田…新八泣かせたら…俺がもらうから…」

「泣かせやせん!」

何か…先輩と総悟君の間に怖い空気が…
先輩優しいから…お兄ちゃんみたい…
僕がえへへ、と幸せに浸ってると、ぽんぽん、と又手が降ってくる。

「坂本先輩…」

「大変だ大変だ、で楽しむのを忘れちゃいかんぜよ?恋愛は楽しくなきゃぁいかんぜよ!」

「はい!」

坂本先輩がにっこり笑う。
なんでだろ…先輩の笑顔見てると、なんでも大丈夫、って気になってくる…


「なーなー、言いふらしてええ?」

…花子さん…

「すいません、止めて下さい…」

「えー?スクープなんにー!沖田君も新八君も女子に人気有るんよ?」

「えぇっ!?僕?僕はモテないよ?」

花子さんとおりょうさんがはぁーっ、と溜息をつく。

「知らないのは幸せよね。」

「妙ちゃんと神楽ちゃんが全部シャットアウトしとったからなぁ。男子の方は沖田君が全部追い払っとったし。新八君モテモテやったんよ?」

えぇっ!?そんな事今更教えられても…

「僕には総悟君が居ますから。」

「はいはい、ごちそうさま。」

「あっついわぁ!」

やっぱ言いふらしたろ。とか言いながら花子さんとおりょうさんが姉上の方に歩いてく。


そして、そこには僕と総悟君だけが残される。

「…みんな、良い人だね…」

「…そうですねぃ…」

「こんなに普通にしてもらえるなんて思ってなかった…」

「そうですかぃ?俺ァ思ってやしたぜ?」

「うそっ!カッコつけてるんでしょ?」

「そんな事無いですぜ?皆が新八を好きなのは知ってやしたから、俺ァ。」

「…そうなの…?」

「そうでさぁ。」

僕がびっくりして総悟君を見ると、凄く穏やかな顔で笑ってる。
そんな顔…初めて見るよ…どこまで好きにならせるつもりなんだろ、この人…

「…そうなんだ…」

皆の方を見ると、もう何事もなかったみたいに普通に遊んでる。

「新八ー!新八も早くこっち来て遊ぶヨロシ!」

神楽ちゃんが手を振って僕を呼ぶ。

「行こ?」

僕は座り込んでる総悟君の手を引いて皆の方に走る。

「幸せになりやしょうね。みんなの気持ちよりもずっと。」

「うん、幸せになろうね。」

クリスマスに始まった恋だから、これはみんなのプレゼント。
大切に…大切にしていこうね…総悟君…


続く