2月14日 聖バレンタインデイ。
それは、男達の戦場。男達の悲喜交々。
ばれんたいんずでぃ
「ちィ――っス。」
いつもの調子でいつもの如く、呼び鈴を鳴らすことも無く万事屋に不法侵入する沖田総悟。
でも、今日は纏う雰囲気が少し違う。こころもち、パリっと制服を着こなしている。
「おっ…沖田さん、いらっしゃい。」
何故かどもる志村新八。何の為のかは分からんが、緊張が顔に出ている。
「…どうしたィ、新八…君…?なんだかいつもとは随分、いでたちが違うんじゃぁねぇですかぃ……?」
沖田はちょっと引いた。惚れた欲目でも、引いた。
新八は髪を立ち上げて、上下揃いの皮のジャンバー(あえて)とズボン(あえて)でキメている。下には何も着ていない。いわゆる、素肌にジャンバー(あえて)。ロッカーかよ。ってか、今時ロッカーもそんなカッコせんわ。
「えっ?僕いつもと何か違いますかっ?あぁ、朝寝癖が付いてたのそのままにしてたっけ。それかな?」
言い張った!?言い張りやがった!!
朝同じ台詞を聞かされた神楽がウンザリした顔で天を仰ぐ。沖田も今だけはその気持ち、判る気がした。
「…新八ィ…おめぇ本当は近藤さんの弟なんじゃあねぇんですかぃ…?同じDNAが有るとしか思えねぇでさぁ………」
「何言ってんですか、変な沖田さん。ぶっ飛ばしますよ?」
にっこりと微笑まれると、沖田はもう何も言えない。
変な格好を差し引いても新八の笑顔はいつも以上に殺傷能力が高い。今日と言う日のせいだろうか?
ちょっと頬を染めた沖田は、それでも気合で立ち直る。
とすり、とソファに座ると、正面にはこれまたいつもとはいでたちの違う、坂田銀時。
オールバックにスーツで蝶ネクタイ………まぁ、分からんでもない。分からんでもないが、どこか的外れだ。
流石に悲しい気分になった沖田が、先ほどの神楽と同じく天上を見上げる。
そこには何故か大きな穴が空いていた。
………何だ………?
「この穴ぁなんですかぃ?」
「あ―…ちょっとイロイロ有りまして。」
説明するのが面倒なのか、再び新八がにっこり笑ってその話を流す。
沖田も別にどうでも良い事だったので、そのまま流した。
あぁ…折角のちょこれいとトークチャンスだったのに………
新八がいつものように沖田にお茶を出す。が、今日は何か足りない。何か…
無言で見つめ合う2人。
ここは、男として先に口に出したくない会話だ。
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「新八ィ…何か忘れてやしませんかぃ…?」
「あははっ、ヤダなぁ、沖田さんこそっ。」
再び無言で見つめ合う2人
「今日はばれんたいんでいですぜぃ?チョコくだせぇ、ちょこ。」
ズバッとはっきり言った!言いやがった!!
もはや男のプライドなんざ、どうでも良い。欲しいんだ、俺は君のちょこれいとが。
気が短い男代表沖田に戸惑いは無い。いつまでもモタモタ駆け引きなんざやってられるかぃ。新八の手を握り締め、下から上目使いでキラキラとおねだりする。
「何で僕が!?沖田さんこそ僕にチョコ持ってきたんじゃないんですかっ!?」
顔を真っ赤にした新八は、沖田の手を振り解き、盛大に突っ込む。
実は新八も期待していた、男として。チョコなんか貰えるんじゃないかなぁ―、とか。それも結構シュミレーションして、カッコ良く受け取れるように、などと。まぁ、それが素肌に皮ジャンとして形になったようだが…そして、新八の妄想はイタかった。
落ち葉舞い散る大木の下、頬を染めて恥じらう沖田…
「新八君、コレ、ワタシの気持ちです!受け取って下せぇ…」(沖田裏声)
「沖田さんっ…!嬉しいですっ!!じゃぁ、僕からはこれを…」
そっと抱き合う2人。
2つの影が寄り添い、静かに重なる………
「…僕の純情を返せっ!!」
自分の妄想にちょっと照れた新八は、照れ隠しに叫ぶ。
…イヤ、返せと言われても………
「何言ってんですかぃ。チョコは女子がくれるモンでしょうが。ココを何処だと思ってんでィ、沖新サイトだぜぃ、沖新サイト。」
「僕は男だっ!!」
沖田の台詞に一瞬納得しかけた新八だが、はっ!と気付き言い返す。
言い合いは白熱し、その内掴み合いになる。
「銀さんもチョコ欲しいな―、新八くぅ―ん…」
黙ってりゃ良いのに会話に入り込む銀さん。彼はただ、チョコが食べたかった。愛はいらない、糖分をくれ。
殺気立った2人の目が彼に向き、手近に有ったんまい棒(チョコ味)を口に突っ込まれる。
「フガフゴフガ…(銀さん2人の愛が痛いよ…)」
「「愛な訳あるかい!!マダオは黙ってろ(ぃ)」」
2人同時に突っ込まれ、んまい棒をサクサクやりつつ寂しくも美味しく銀さん退場。
その後も、掴み合い怒鳴りあう2人のポケットに、綺麗にラッピングされたお互い宛のちょこれいとがコッソリ入っているのがバレるまで後少し。
END
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