掃除を終えて、タイムセールの時間を待って買い物に行く。
夕飯の買い物のついでにチラッとバレンタインチョコ売り場を覗いてみてびっくりした。
何でそんなに高いんだ!?アホみたいな値段してやがる…
ちょっとだけ沖田さんが可哀想になったから、神楽ちゃんのふりしてあげようかと思ったけど…無理。
すぐに諦めてレジに向かうと、レジ前で板チョコを安売りしていた。
…これなら買えるかな…
1枚取って一緒に会計を済ます。
うん、板チョコってなんか神楽ちゃんっぽいし…なんか家にあるリボンでもかければバレンタインっぽいよね…?
頭の中で色々考えながら、沖田さん喜ぶかなぁ?なんて想っていると、通りがかった公園で沖田さんと神楽ちゃんが睨み合ってるぅぅぅぅぅぅぅ!?
早く止めなきゃ又余計なお金がかかるよっ!!
「ちょっと神楽ちゃん!沖田さんも喧嘩は止めて下さいっ!」
僕が慌てて走っていくと、ニヤリと笑った神楽ちゃんがぐん、と胸を張る。
「オマエ、バレンタインにチョコなんて貰えないダロー?新八は貰えるネ!今年のワタシは手作りヨ!羨ましいカ?」
えーっ!?神楽ちゃん何余計な事をっ!!板チョコじゃ駄目じゃん…
「へェ、そんなモン喰えんのかィ?」
「もっちろんネ!銀ちゃんに教わったからナ!欲しいカ?やらないけどナ!」
勝ち誇ったように上から目線で沖田さんを見下す姿は、何かちょっとムカツク…
いや、でも今年の僕は勝ち組だ!
「…オメェのチョコなんざいらねェよ。」
ふん、と鼻を鳴らして沖田さんが笑うけど…
メッチャ僕の方見てるー!?物欲しげな瞳で見てるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅー!?
「さっ…さぁ!神楽ちゃん帰るよ?」
ベーっと沖田さんに向かって舌を出している神楽ちゃんの手を引っ張って万事屋に帰ろうとすると、おい、と呼びとめられる。
「期待してまさァ…新八君…」
振りかえると、いつもに無い真面目な顔の沖田さんがじっと僕を見ていた…
ヤバいー!完全に僕のチョコ取る気だ!
やっぱり僕のチョコを死守する為には、沖田さん用のチョコ、用意しなくっちゃ…
その後僕は、今までで最速で万事屋の晩ご飯を作ってさっさと家に帰った。
◆
晩ご飯も終わって姉上が仕事に出かけたので、台所に昼間に買ってきた板チョコを取り出す。
あーあ、このままでも良いや、って思ってたのに神楽ちゃんが余計な事言うから…面倒くさい…
姉上から借りたチョコ作りの本を見て、なるだけ簡単そうなヤツを探す。
へぇ…色々有るんだな…
溶かして丸めるだけでも良いのかな…?
あ…お酒入れるのも有るんだ…沖田さんお酒好きだし…こんなのの方が喜ぶかな…?
それとも、ナッツとか入ってる方が良いかな…?
って!何そんなに真剣に考えてるんだよ僕…
でも…姉上が使った材料で余ってるヤツ使って良い、って言われたし…材料余すの勿体無いし…
それだけだしっ!
結局、買ってきた板チョコと、姉上が残したお酒とナッツも使って、結構豪華なチョコが出来あがってしまった…
味見したら、結構美味しく出来たし…
沖田さん、喜んでくれるかな…?なんかドキドキしてきたよ…
イヤイヤイヤ、これはアレだからっ!折角上手く出来たから認めて欲しいとかそんなんだから!
大体、神楽ちゃんから、って事にするし…僕からじゃ…いくらなんでも悲しいしね…
うん…笑ってくれたら良いや…
◆
次の日は朝イチで家に侵入していた近藤さんの悲鳴で目が覚めた。
僕が身支度を整えて居間に行くと、そこに倒れている近藤さんの頭の上に綺麗にラッピングされた暗黒兵器が置いてあった。
あーあ、姉上は本当に素直じゃ無いなぁ…
気にしないで万事屋に行くと、駆け寄ってきた神楽ちゃんに綺麗な袋に入れられたチョコを貰った。
「有難う、凄く嬉しいよ。」
「神楽様の手作りアル!心して食べるヨロシ!!」
「うん、そうするね。」
早速1個頂くと、適度に甘くて本当に美味しい…流石銀さん、甘味には煩いだけ有るよ。
そんな銀さんは、そわそわそわそわ落ち着かない。
もう、さっさと渡してくれば良いのに…
…そういう僕も、本当は落ち着かない。
でも、こんな時間から出掛けたって、今どこに居るか分からないしね…
いっつも逢うのはタイムセールの時間だから…その時間に…
いつものように、掃除をして洗濯をするとなんとなく良い時間になった。
銀さんも、いつの間にか出掛けていた。
神楽ちゃんも遊びに行ってしまってるんで、鍵を掛けてタイムセールに行く。
エコバックには昨日作ったチョコを、それなりにラッピングして入れてある。
一応辺りを見ながら大江戸ストアに向かうと、途中の公園のベンチにアイマスクを付けて寝転がっている沖田さんを見付けた。
「沖田さん!」
僕が呼びかけて駆け寄ると、ゆっくりアイマスクを上げた沖田さんが起きあがる。
…さりげなくしてるみたいだけど…いつもより緊張してるんじゃない…?
「あのこれ、チョコレート…」
僕が差し出すと、なんとも嬉しそうな顔で受け取ってくれる。
「神楽ちゃんから。」
そう言った途端、受け取ってくれたチョコを地面に叩きつける。
「あーっ!折角作ったのに酷い…」
思わず叫んでチョコを拾おうとすると、それより先に慌てた沖田さんがチョコを拾う。
「新八くんが…作ったんで…?」
しまった…つい…
なんとか誤魔化そうと、そっと沖田さんを見ると、その顔は真っ赤に染まってて…僕まで移って顔に血が上る…
すぐに目を逸らしても、もう駄目だ…きっと顔赤くなってる…
「あのっ…その…神楽ちゃんが…本当にあげないみたいだったんで…あの…すいません…」
がっかり…させちゃうよな…
又、そっと仰ぎ見ると、真っ赤な顔のまま、沖田さんが幸せそうに笑った…
うわ…綺麗…
「チャイナのチョコなんざ、はなっから要りやせん。俺ァ新八くん、アンタのチョコが欲しかったんでさ。」
「っなっ…!?僕の…チョコ…?」
「へい、新八くんの、チョコでさァ。」
そう言って、大切そうに僕のチョコを懐にしまう。
「…そんな所に入れたら溶けますよ…?折角、沖田さん好きかな、って思ってお酒も入ってるんですから…」
「…俺の好み考えてくれたんで…?」
「…折角だから…美味しく食べて欲しいかな…とか考えただけですっ…」
気が付くと、沖田さんは僕の目の前に居て…逃げられないように手首を掴まれてる…
凄く真剣な目が…ちょっと怖いよ…でも…カッコ良くて…どきどきする…
って!!何考えてんだ、僕ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?
「そりゃぁ…立派な告白ですぜ?新八くん?」
「そっ…そんな事っ…!神楽ちゃんにも貰えなかったら可哀想だな、って思っただけで…アンタが欲しいってしつこいからっ…!」
「でも、バレンタインに、俺に、新八くんが、チョコをくれたんでさァ。」
「…そうですけど…」
ふわり、といつもに無い優しい笑顔で微笑まれたら…
イヤイヤイヤ!しっかり僕っ!!
「仕方無ェな…んじゃまぁ、取り敢えず来月はお返し期待しときなせェ…」
「えっ!?お返しなんて…クッキーとかですか?」
沖田さん3倍返しとか言ってたもんな…きっと美味しいお菓子くれるんだよ!
ちょっと得しちゃった気分!
僕がえへへ、と笑うと沖田さんもにっこりと笑う。
「給料の3カ月分ぐらいで良いですかィ?」
「…は…?」
「それとも、俺のサインと印鑑押した書類の方が良いですかィ?」
「………は………?」
「やっぱ順番ってなァ大切ですやねェ…やっぱ、指輪が先でしょうかねェ?」
…沖田さんが何を言っているのか分からない…
「あの…一体何の事だか僕にはさっぱり…」
「1か月、ゆっくり悩んで下せェ。好きでさァ、新八くん。俺と結婚を前提に付き合って下せェ。」
キリッ、とかキメ顔でそんな事言われてもっ!僕、男だからね!?
「ちゃんと毎日逢いに行きやすから安心して下せェ!ちゃんと俺の事好きにさせてみせやす。」
「有り得ませんからっ!」
「チョコくれなかったら諦めようと思ってたんですがねェ…新八くんチョコくれるから…俺ァ諦めやせん。」
そっとラッピングを解いたチョコを1つ口に放り込んで、旨ェ、と目を見張る。
…美味しい、って思ってくれたんだ…
どうしよう…凄く嬉しい…
そのまま綺麗な顔が近付いてきて、ちゅっと音を立てて僕の唇を奪って離れていく…
うっ…うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
…でも…そんなに嫌じゃ無いなんて…僕は…どうなっちゃってんだよ…
色んな顔の沖田さんが頭の中をぐるぐる回って、追い出せない。
どんだけ僕は無意識にこの人を見てたんだ…?
「ホワイトディまでには俺に惚れさせてみせやすから、覚悟しといて下せェ。」
そう言い残してスタスタと歩き去っていくけど…
そんなに待たなくても…良いと思いますよ…?
まぁ、すぐになんて教えてあげないですけどね。
END
…バレンタイン…?
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