「新八さん!見て下さい!凄く綺麗な景色…」
はしゃいだ彼女の声に物想いから浮上すると、僕の目の前には一面の星空が広がっていて。
…わぁ…こんな近くでこんな綺麗な星空を見るなんて…
「凄い…綺麗だね…」
「違いますよ、新八さん!下も見て下さい!!」
くいっと引かれて下を見ると、街の明かりが色とりどりの光を放って…
「うわっ…!物凄い夜景…」
「新八さんと一緒に、こんな綺麗な景色が見られるなんて思っていませんでした…嬉しいです…」
「僕も…パンデモニウムさんと又会えるなんて思って無かったから…凄く嬉しいです…」
にこりと笑い合うと、なんだか凄く幸せな気分になった。
ふと、繋いでいない方の手に何か持っている事に気付く。
…あ…沖田さんのお菓子…
でも…良いよね…?これはパンデモニウムさんにあげる為の物にしても…
綺麗にラッピングして、ふわりとリボンをかけたお菓子の詰め合わせを、そっとパンデモニウムさんに差し出す。
「はい、これパンデモニウムさんにあげるよ…ハロゥインだから…お菓子…」
ちょっと照れながら差し出すと、彼女がビクリと震えて寂しそうな笑顔を浮かべる。
え…?
甘い物嫌いだったのかな…?
「…有難う御座います、新八さん…今日は楽しかったです…アナタに逢えて良かったです…幸せに…なって下さいね…?」
「え…?」
「お菓子を渡されたら、もうイタズラは出来ませんから…本当はずっと一緒に居たかったけど…今日はとっても楽しかったです!…さようなら…」
「え…?パンデモニウムさん!?」
にこりと寂しそうな、でも綺麗な笑顔を僕に向けて繋いでいた手を離す。
ぐんぐんと地上に落ちる僕は、意識を失った…
………ぱちく…しん…くん…しんぱちくん………
遠くで僕を呼ぶ声がする。
僕は…?
そっと目を開けると、酷く心配そうな沖田さんのアップ…
「えっ!?僕…寝てましたか…?」
「おぅ、爆睡だったぜィ…目ェ覚まさないかと思いやした…」
あ…凄く心配させてしまった…
この人にこんな顔させたくなんかないのに…
僕だけは、この人を煩わせたく無いのに…
「すみません、沖田さん…僕…」
ぎゅうと抱きしめられて、そっと耳元に唇を寄せられる。
「…とりっくおあとりーと…」
「へぇっ!?」
「菓子なんか無ェだろィ…?このまま悪戯させなせェ…」
沖田さんの手が、もそもそと動き始める…
イヤイヤイヤ!今年はちゃんと用意してるからっ!!!
「や!ちゃんとお菓子は用意して…」
きょろきょろと辺りを見回しても、確かに綺麗にラッピングしてリボンまで付けたお菓子の詰め合わせが見当たらない。
あれ…!?
ちょ!?このままじゃ去年と同じじゃねーか!?
おかしいよ!ちゃんと用意してた筈なのに…
焦って暴れても、どんなコツが有るのか沖田さんはビクともしない。
あぁぁぁぁ…このままじゃ…今年もイタズラされる…
何でお菓子…どこにやったんだよ僕…!?
ちょっと意識が遠くに行きそうになった時、綺麗な微笑みが僕の脳裏をよぎる。
『有難う御座います、新八さん…』
あ…
『幸せに…なって下さいね…?』
そうだった…お菓子は…あげてしまったんだった…
突然抵抗しなくなった僕を、沖田さんが不思議そうに覗き込む。
「新八くん…?遂に俺の気持ちが届いたんで…?」
「沖田さんの気持ちなんて、ダダ漏れですよ…」
はぁっと溜息を吐くと、うっすら頬を染めた沖田さんが小首を傾げる。
幸せに…なるよ、パンデモニウムさん。
「お菓子はあげちゃったんで、仕方ないです。でも、沖田さんだってお菓子持ってないでしょ?」
僕がにっこり笑うと、沖田さんが真っ赤になった。
可愛い…
「トリックオアトリート」
どうせお菓子なんか無いんでしょ?
僕が貴方にイタズラするよ。
くすくす笑いながら僕が言うと、ポケットから飴玉を取りだした沖田さんが、僕の口に飴玉を放りこむ。
「悪戯すんのは俺だけでィ。新八くんは大人しく悪戯されときなせェ。」
そっと落ちてくる綺麗な顔を受け止めると、沖田さんのイタズラが始まる。
パンデモニウムさん、僕は今ちゃんと幸せだよ?
だから、キミが僕にイタズラして、少しでも幸せだったなら嬉しいから…
どうか、キミも今幸せでありますように。
僕はキミと見た、あの一面の星空に祈ってみた。
END
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