満足して、膝の上に移って毛繕いを始めると、優しい手が僕の頭を撫でる。
それが気持ち良くて、喉がゴロゴロと鳴った。

「お前さん意外と大胆だねィ…そんなに腹減ってたんで?」

「にゃー」

凄く気持ちいい…
膝の上も、撫でてくれる手も、優しい声も…
この人…好きだなぁ…

スリスリと撫でてくれる手にすり寄ると、ピクリと震えた沖田さんが撫でる手を離してしまう。

「見た所お前さん野良だし…俺んち来やすかィ?」

顔を見上げると、何でか緊張してる。
でも…このままこの人と一緒に居るのも幸せかも…

「にゃー」

「んじゃ行きやしょう。ミルクやりまさァ。」

凄く嬉しそうに、にっこりと微笑まれたら、心臓が壊れそうなくらい、ドキドキする…
壊れ物でも抱くようにそっと抱き上げられると、沖田さんの心臓もドキドキいってるのが聞こえて、安心する。
猫には優しいんだなぁ…沖田さん…
ドSだって思ってたから…なんかショックだ。
僕にも…人間の僕にもこうだったら…なんて、そんな事有る訳無いよね…

ジッと見上げて、にゃぁ、と鳴くと、沖田さんが優しい顔でちゅうっと僕にキスをする。

「どうしやした?新八?」

え…?
沖田さん、今『新八』って…!?
僕って分かって…

いきなり、ボン!と音がして僕は人間に戻った。
猫の時に沖田さんに抱っこされていたから、ベンチに座る沖田さんの上に跨って、膝の上に抱っこされている状態で…

「えっ!?ちょっ…えぇぇぇぇぇっ!?」

「…新八くん…?」

沖田さんビックリしてるっ!
ものっ凄くビックリしてるっっっ!!
イヤ、僕もビックリしてるけどぉぉぉぉぉっ!!!

「あっ…あのっ…すみませんっ!降りますっ!!降りますっ!!!」

あわあわと慌てて膝から降りようとすると、ぎゅうと腰に手を回される。

「いやいや待ちなせェ。新八くんは家の子になるんだろィ?でぃーぷちゅーまでした仲じゃねェですか、抱いて行ってやりやすぜ?」

ニヤリ、と笑われるけど!
これ、からかわれてる!?からかわれてるっ!?

「やっ…あのっ!そんなっ!!」

「遠慮すんねィ」

ぎゅうう、と抱き込まれると、顔が近くなって…





「うわぁぁぁぁぁっ!」

「離すアルーっ!!」



危ない所で後ろから銀さんの野太い悲鳴と神楽ちゃんの怒鳴り声が聞こえてくる。
あ!
ぶんっ、と後ろを振り向くと、沖田さんから舌打ちが聞こえる。
たっ…助かった!助かった!!

安心したのも束の間、僕の目に飛び込んできたのはマヨネーズまみれで土方さんの膝の上に乗る銀さんと、神威さんに抱き上げられて何処かに連れ去られそうになっている神楽ちゃんだった。

「銀さん!神楽ちゃんっ!!」

「「しんぱ…ち…?」」

銀さんが土方さんの上から飛びのいて、神楽ちゃんが神威さんにパンチをいれるのを見て僕も我に帰る。
ぼっ…僕…沖田さんの膝の上でっ!!
何とか降りようとするけど、僕の腰に回った沖田さんの腕は僕を離してくれない。

「あのっ!沖田さん離して…」

「何でィつれねェなァ。俺ァ新八くんが猫になってても判るくらいにはぞっこんなんですぜ?」

「え…?」

ちょ…今…この人凄い事言った…
凄い事言ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

笑顔のまま、僕が何か言うのを待ってるのか、ジッと見つめられたら…
しっ…心臓が…心臓が壊れるぅぅぅぅぅぅっ!!!!!

「あっ…あのっ…!僕は…」

頭の中がぐるぐるする…
さっきまでの優しい笑顔や…頭を撫でる優しい手とか…抱きあげてくれた時の心臓のドキドキや…
…ソーセージを食べた時の…柔らかい唇とか…

「…口移しでソーセージが食べられるくらいには…沖田さんの事…好き…です…」

そう言って俯いてしまうと、優しい手が僕の頭を撫でる。
ヤバい…気持ちいい…

「んじゃ、恋人になりやしょう、俺ら。」

そう言った声があまりに優しいんで、思わず顔を上げると、ひどく優しげな笑顔…
あー…ヤバい…本気で好きかも…

こくこくと頷くと、花も綻ぶ様な笑顔を向けられて…

思わず柔らかそうな…ううん、柔らかな唇を、ぺろりと舐めると沖田さんの顔が真っ赤になった。
うわ…可愛い…!
僕がへにゃりと笑うと、ムッとした沖田さんがぱくりと僕の唇を甘噛みする。
そのまま角度を変えて、お互い目を瞑って…吐息を感じる程近付いて…


あと少し、って所で首がぐきぃっ!ってなるくらい後ろに引かれた。

「いだぁぁぁぁぁっ!!」

「ちょ!新八君何やっちゃってんのぉぉぉぉ!?」

「新八ぃ!ドSと何やってるネ!?」

「銀さん!?神楽ちゃん!?」

そうだった!ここ…外で…全部見られた…?
恥ずかしくて真っ赤になってると、2人が怖い顔で沖田さんを睨む。

「チッ、邪魔が入りやしたねィ…逃げやすぜ。」

僕を抱き上げたまま沖田さんが走り出す。
えぇぇぇぇぇ!?
どんだけ力持ち!?
僕もぎゅうっと抱きつくと、凄い形相の銀さんと神楽ちゃんが僕らを追って来る。

…あれ…?
その後ろから神威さんと土方さんが…

「神楽〜?お兄ちゃんと一緒に帰るよ?」

「銀、屯所に帰んぞ?」

え…?
何?そんな風になってんの…?

「離せヨバカ兄貴!誰がオマエなんかと!!」

神楽ちゃんが後ろから抱きついてくる神威さんをゲシゲシと足蹴にしてる。

「多串君落ち着け!俺だよ俺俺!!多串君が嫌いな万事屋銀さんだから!!!」

土方さんが何処か遠くを見てる…
猫が人間になったの、よっぽどショックだったんだな…

そのまま2人が何処かに連れ去られていくのを、僕らは黙って見ていた。

「…行っちゃいましたね…」

「…行っちゃいやしたね…」

ふと、見送っていた目線を下におろすと相変わらず優しい笑顔の沖田さんが…
引き寄せられるように顔を下ろすと、そっと体を下げられる…



「んじゃ、俺らも帰りやしょうか。」

「はい、帰りましょう。」

そっと地面に降ろされて、手を繋いで隣を歩く。
抱き上げられているのも気持ちいいけれど、やっぱり人間同士なんだから、隣を歩いていきたい。
これから、ずっと。

「なーんで猫になったんですかねィ?」

「さぁ、僕にも分かりません。ってか、何であんなタイミングで戻ったんですかね?」

「そりゃぁ、王子様に正体バレたからだろィ。新八くんがどうなろうが俺が戻してやりまさァ。」

「じゃぁ、沖田さんがどうにかなったら僕が戻しますからね!」

「よろしく頼みまさァ。」

「はい、任せて下さい。」

クスリと笑い合って歩きだすと、何だか右手が軽く…

「おきたさ…?」

「にゃーっ!?」

そこには綺麗な亜麻色の子猫…



僕はその子猫を抱いて、取り敢えずさっきの神社まで走ったのだった。


END