仕事が終わって、3人で店を出て万事屋に向かう。
未だパー子さんの格好のままの銀さんは…それなりにお洒落しているつもりなのかもしれない。
暫く歩いて行くと、真っ暗な中から真っ黒い人がぬぅっと現れて、銀さんを担ぎあげる。
「うわっ!?ひっ…土方さん!?」
「悪い、コイツ貰ってくわ。」
すぐにくるりと向きを変えて、立ち去って行く土方さんの肩越しに、銀さんがヒラヒラと手を振る。
「な?来ただろ〜?サンタクロ〜ス。新八の所にも来るよ、きっと。」
担がれたまま、何か言い争いながら2人が去って行く。
…なんか…幸せそう…
「おー、マヨラヤルネ。銀ちゃんさらわれたヨー」
「かっ…神楽ちゃん…?」
神楽ちゃんまさか…2人の事知って…?
「なにヨ、新八知らなかったアルカ?銀ちゃんとマヨラいっつもらぶらぶネ。」
「えぇぇぇぇっ!?」
「アイツラ内緒にしてるつもりアルガ、バレバレヨ。女のカンアル」
…女の勘恐るべし…って…まさか僕の事も…
「新八もドSとらぶらぶなクリスマスアルカ?」
やっぱりかぁぁぁぁぁぁっ!!
「なっ…ちょっ…!神楽ちゃ…!?」
「照れるなヨ。」
そう言って笑う神楽ちゃんの表情が、凄く優しくて…なんだか…嬉しくなって…
「…うん…そうなったら良いな…って…」
「約束してないアルカ!?あんのヘタレ…」
神楽ちゃんが何か文句を言おうと僕に一歩近付くと、後ろからバサッと袋が被せられる。
ちょ…!?
「メリークリスマース神楽〜!お兄ちゃんが迎えに来たヨ〜?こんな場所はブッソウだからネ!」
「何するネ!?」
袋をすっぽりと被せられてひょいっと担がれると、袋の中で神楽ちゃんがバタバタと暴れてる。
あー…あれはスキンシップ…なんだよね…?
「じゃーね〜メガネ君。メリクリ〜」
「はい…怪我はさせないで下さいね…?」
「そんなヘマしないよ〜?」
ニコニコ笑顔のまま、凄いスピードで走り去る。
遠くなる後姿を眺めていると、暫く行った所で思いっきり転ぶ…
でも、ちゃんと袋は庇ってるから…大丈夫だよね…?
「この馬鹿息子!神楽ちゃんを何処に連れてくんだ!?」
「煩いヨハゲ親父。そのハゲ頭下げたら仲間に入れてやっても良いヨ。」
「何だと!?お願いします!!」
…賑やかなクリスマスになりそうだ…良かったね、神楽ちゃん…
2人と別れてトボトボと家に帰る。
角を曲がる度に、電柱を過ぎる度に、あの人が出てこないかって期待で胸が一杯になる。
でも…
真っ暗な家に帰りついても、沖田さんが現れる事は無かった…
土方さんがブラブラしてるんだから、沖田さんが仕事してる訳無いよね…?
それとも…仕事…なのかな…?
思った以上にガッカリしながら、それでもまだ少し期待してたけど…
僕は何事も無く布団に潜り込んでしまった。
…沖田さん…やっぱり今日は仕事だったのかな…?
寂しい…な…
思わずポロリと涙が零れて、情けなくなって布団をかぶる。
皆…今頃楽しんでるのかな…?
僕だけ…こんな…寂しい…
一頻り泣いてやっと涙が収まった頃、すぅっと襖が開く音がする。
今日は姉上は…すまいるのクリスマスパーティーで朝まで帰ってこないはず…
ちゃんと鍵はかけてるし…誰も入ってこられる訳が無い…
まさか…泥棒…?
こんな寂しい僕に、その上泥棒…?
寂しい気持ちが、全部怒りに変わる。
道場なめんな!ボッコボコにして真選組に差し出してやる…
そっと息をつめて、ソイツが近付いてくるのを待つ。
…何だろ…何かを引きずるような…変な足音が…する…?
…僕…泥棒だと思いこんでたけど…まさか…お化…
イヤイヤイヤ!そんなまさか有り得ないっ!!!!!
たっ…確かめなきゃ!確かめなきゃ怖くてチビる!!
布団をそーっとめくって、ちっさい隙間から覗いてみると…
………何だそりゃ………
嬉しくなって、止めようと思ってもクスクスと笑ってしまう声が抑えられない。
何だよ…サプライズのつもり…?
「…笑うんじゃねェや。」
「…笑っちゃいますよ。何ですか、そのブサイク…」
遂に堪え切れなくなって、布団を跳ね上げて声を上げて笑う。
僕の目の前には、ぶっさいくなトナカイの着ぐるみを着た大好きな人。
「大体、こういう時はサンタの格好なんじゃないんですか?」
ポロリと零れた涙を拭いながら沖田さんに突っ込むと、むぅって顔をした沖田さんがもこもこの手で涙を拭いてくれる。
「サンタの衣装は土方が持って行っちまったんでィ…」
悔しそうに顔を歪める沖田さんは可愛い。
トナカイが…凄く似合ってる、とか言ったら怒るかな?
「でも、トナカイは僕とお揃いですから。今日、ケーキ屋のバイトで僕だけトナカイだったんですよ?運命ですよね?」
「…おう…俺と新八くんはいつも一緒でィ。」
そう言ってそっと近付いてくる唇がとっても冷たい。
外…寒かったんだな…
僕の唇で…暖めて…
「メリークリスマス、新八くん…」
「メリークリスマス、総悟さん…」
トナカイの格好でも、やっぱり恋人はサンタクロースだ。
だって、一番欲しい物を僕に届けてくれるから。
キスをしながらも、ぐう、とお腹を鳴らした恋人と、僕はチキンとケーキを食べました。
END
→