2月3日



昨日久し振りに仕事が入って、僕達の懐はちょっとだけ暖かくなった。
だから、大江戸ストアで半額になってる豆を買って来て、万事屋でも節分の豆まきをやった。

何日か前、僕が豆まきの話を神楽ちゃんにしたら、なんとなくやりたそうな顔をしていたから…
口では『そんなの子供のやる事ネ』とか言ってたけど、やりたそうな顔をしていたのを僕も銀さんも見逃していなかったから。

銀さんが、豆に付いてた鬼のお面をかぶって万事屋中を逃げ回った。
僕と神楽ちゃんは、そんな銀さんを追いかけて豆をぶつけて回った。
『鬼はー外ー!福はー内ー!!』って大きな声で叫びながら。

ちょっと恥ずかしかったけど、神楽ちゃんが嬉しそうににこにこ笑ってたから僕も楽しかった。
僕達…というか神楽ちゃんがものっ凄い勢いで豆をぶつけていたから、洒落じゃ無く痛そうだったけど、銀さんも楽しそうだった。



そんな楽しい気分で家に帰ると、姉上はもう仕事に出かけていた。
そういえば昨日

『明日は節分だから、鬼娘ディなのよ』

とか張り切ってたっけ…
鬼娘って…なにやるんだろ…
僕にはちょっと想像できないや…

いつものように1人で夕食を済ませて、のんびりとお茶を飲んでテレビを見る。
あー…家も豆まきしなくっちゃ…
広い家の中1人で全部するのは大変だけど、父上が居る時から毎年欠かしたことは無いし…やっぱり豆まきしないとなんか気持ち悪い。
卓袱台の横に豆を用意するけど、中々腰が上がらない…

…こんな日には、あの人が来ないかな…とか期待してしまう…


「悪い子はいねーかァー」


「…何やってんスか…?」

変に期待を裏切らない人だよな…
節分とは違う台詞を吐いて不法侵入してきたその人は、赤い全身タイツに虎柄のパンツをはいて、ご丁寧に角の付いたアフロまでかぶっていた。

「…なんでィ、驚かねェんだな。」

不満気に下唇を突き出す顔は、なんか可愛い。
男前は得だよね…

「イヤ、ある意味驚きましたけどね?沖田さんのやる事ですから、そんなには驚きません。」

「ちぇー」

僕がジトリと目を眇めると、沖田さんがにひゃりと笑う。

「恵方巻き買ってきやした!一緒に喰いやしょうぜー」

「マジすか!?ご飯食べちゃったけど、嬉しいです!あ、お茶淹れますね。」

ちょっとは潤った懐だけど、恵方巻きは諦めてたんだ…
まさか沖田さんが買って来てくれるなんて思ってもいなかったよ!

鼻歌交じりでお茶を淹れて居間に戻ると、卓袱台の上には見事な恵方巻きが2本。
うわぁ!美味しそう!!

「本当に頂いちゃって良いんですか…?」

「勿論でさァ。いくらドSだからって俺1人で2本も喰えやせん。それに、新八くんはトクベツですからねィ。」

にこり、と男前に笑われると心臓がバクバクいう…
この人のこういう所は苦手だ…心臓がもたないよ…

「…有難う御座います…」

早速、頂きますと恵方巻きを手に取ると

「今年は南南東ですぜ!」

と張り切った声が聞こえる。
沖田さんの指さす方を向いて無言でかぶりつくと、なんか後ろから視線が突き刺さるような…?
でも、振り返る訳にもいかない。
恵方巻きは無言で一気食いしなきゃいけないもんね。
凄く気になるんで、出来るだけ早く食べきって振り返ると、沖田さんは涼しい顔でお茶を飲んでいた…あれ…?やっぱり気のせい…?

「ご馳走様でした。すっごく美味しかったです!」

「こちらこそご馳走さん。」

…なんかニヤリと笑ってるけど…お茶、って事かな…?
一応家に有る良いお茶淹れたしね…お寿司ご馳走になるからさ…

「ってか沖田さん、その格好何なんですか?」

「お?今日は節分だろィ?近藤さんの提案で地域サービスでさァ。今日は一日このカッコで仕事してやした。」

「…ご苦労様です…」

何でも無い事みたいに言うけど…真選組って大変なんだな…
僕がちょっと感心していると、沖田さんが急に真面目な顔になる。
何…?

「時に新八くんは豆まきしたんですかィ?」

「いえ。万事屋は済ましてきたんですけど、家はまだです。」

「んじゃぁ一緒にやりやしょう。新八くんにもサービスしてやりまさァ。」

そう言って、沖田さんが立ち上がって、ガオー!と僕に迫ってくる。
あ…鬼の役をやってくれるのか…1人じゃ寂しかったから…凄く嬉しい…

「新八くんは俺のトクベツですからねィ…俺の金棒で福は内してやりまさァ…」

そう言って、さわさわと僕の尻を撫でるのは…そう言う意味…なんだよな…


…前言撤回…

「鬼はー外!鬼はー外!!鬼はぁぁぁぁぁ外ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

力の限り豆をぶつけると、痛ェ痛ェと走り出すんで僕も追いかけて豆をぶつける。
居間を出て家じゅうを逃げ回るけど、同じ部屋には行かない…って…

…もう…普通にすれば良いじゃん…

遂には玄関を出て、門も出てしまう。

「沖田さんっ!」

僕が呼び止めると、立ち止まって振り返る…

「福は内…」

少しだけ背伸びして、ほっぺたに唇を付けると沖田さんが固まった。
ほんっと、打たれ弱いS…

「鬼は追い出しますけど、恋人は待ってますから…」

こんな恥ずかしい事、普段なら言わないけど…
でも今日は、来て欲しい時に来てくれたからトクベツ…

「すぐに着替えて仕事終わらせてきまさァ!!」

あっと言う間に見えなくなる後姿を見送っていると、寒さでぶるりと体が震える。
きっとすぐにでも、寒さで真っ赤な顔をして駆け込んでくるあの人を想い浮かべつつ、僕は暖かいお風呂を用意する為家の中に戻った。


END