ドスドスと音を立てて万事屋の階段を降りて、家に向かって歩き出すと、少し行った所に綺麗な栗色…
今日は約束…して無かったのに…僕を…迎えに来てくれた…のかな…?
いつも突然で、いつも僕を喜ばせてくれる…大好きな人…

嬉しくなって駆け寄ると、その人は手に花束を持っていた。

「沖田さんっ!」

「新八くん待ってやした。一緒に飯でも行きやせんか?」

はにかんだような表情で、にっこり笑って僕に花束を差し出してくれる。
え…?コレ、カーネーション…?
まさか、この人も神楽ちゃんみたいに僕の事をお母さん呼ばわり…

「あの…コレ…」

「今日はなんかこの花ばっかりだったんでさァ。人気なのかィ?」

困ったような、はにかんだ笑顔…
そういう事じゃ…無いんだよね…?
この人には、冗談でも僕の事母親なんて思って欲しくない。
…ちゃんと恋人、って…想われたいから…

「今日は、人気なんです。ご飯、行きましょう?」

クイッと袖を引っ張ると、手を繋がれて歩きだす。
穴場だと連れて行かれたレストランは本当に静かで。
美味しい食事を満腹になるまで頂いて、浮かれた気分のまま楽しくお話をしていると、満足そうに笑った沖田さんが、僕をどん底に突き落とした。

「どうでしたかィ?母の日のプレゼント。いつもよりちっとだけ贅沢させたんですぜ?」

得意顔で僕を見る沖田さんは凄く嬉しそうだけど…僕は…かなりショックだ…

「…沖田さんまで僕の事お母さん呼ばわりですか…僕は…僕は…」

沖田さんの恋人じゃ無かったんですか…?
本当は声に出してそう聞きたかった。
でも、こんな人前じゃそんな事は言えない。
だから、もうこれ以上沖田さんの得意顔を見ていたくなくて、僕は店を飛び出した。

「ちょ!新八くん!?」

慌てて僕を追おうとする沖田さんが店員さんに止められている。
その間に僕は出来るだけ遠くまで当て所無く走った…筈だったのに…

「ちょ!新八くん!!何怒ってんでさァ!?」

僕はすぐに沖田さんに捉まってしまった…

「怒ってなんかいません…哀しかっただけです…貴方にまでお母さんとか思われてたなんて…僕は恋人だと想ってたのに…独りで…バカみたい…」

不覚にも涙が出そうになって、それ以上話せない。
僕が言った事…沖田さんはちゃんと分かってくれるんだろうか…

「…誤解でィ…」

それだけ言った沖田さんが痛いぐらいに僕の腕を掴んで何処かへ連れて行く。
沖田さんこそ…怒ったのかな…

無言のままグングン引かれて連れて行かれた先は、高級ホテルの一室で…え…?

「俺をあんまり見損なわないで下せェ。アンタを母親だなんて思った事はねェし、大体母親ってェのがどんなモンなのか俺ァ知らねェよ。」

そう言い放って、恐ろしい顔で睨みつけられると悲しくなってくる。
そんな顔で僕を見ないでよ…

「…だって…母の日って…」

「おう、母の日でさァ。でも俺らに母親なんて居ねェし、代替なんてくだらねェ事、俺ァしねェ。」

泣きそうな僕を見て、今度は呆れたような表情になる…

「じゃぁ…なんで…」

「俺ァね、新八くん。アンタに関しちゃ毎日発情してんでさァ。一丁前にアンタと過ごす未来なんてェのを想像しちまうくらい。」

…ソコで照れたような表情になるのは反則だ…
カッコいいのに可愛いなんて、どこまで僕をダメにするつもりなんだこの人…

「…僕もです…僕も考えちゃいます…」

「でもな、俺にそんな未来が有るなんて保証は何処にもねェ…むしろ可能性は少ねェと俺ァ思ってる。」

色んな可能性は…僕だって…考えたくないけど、考えてる…

「だからな、今のうちに全部やっとこうと思って。」

「…え…?」

「俺らが夫婦になった時の母の日。子供なんざできねェから、精々ガキの分まで旦那が嫁さん孝行しねェとな。」

そう言って、ニヤリと笑った顔なんて、長く見てなんかいられない。
僕はすぐに沖田さんに飛びついたから。

「母の日ってーのはね、そういう日じゃないんですよ?分かってます?…でも…そんな事考えてくれる旦那さんが…僕は大好きです…」

目の前に有った幸せそうな顔に、堪らなくなってキスを贈ると、沖田さんはゴソゴソと懐を漁る。
何…?

「こんなモンも作ったんですがねィ…早速使いやすか?」

ピラリ、と僕の目の前に差し出されたのは、

『お手伝い券』

にっこり笑顔で受け取って、床に叩きつけて踏み躙る。

「あー!何すんでィ!?」

「こんなモン無くったってねぇ、アンタには僕の事一生手伝ってもらうんですからね!覚悟して下さい!」

「スペシャルなお手伝い券も作ったのにー」

涙目で膨れる姿は可愛いけど、こんな時ぐらいはカッコいいままで居てくれないかな。
僕、ちょっと感動したんだけどな…

「だから、そんなのは要らないんです。スペシャルなお手伝いしたくなるように、僕が…誘いますからっ!」

こんな事言わせないで欲しいよ!
恥ずかしいったらないよもう!!
反応が怖くてそっと上目遣いで見上げると、頬を染めて不敵に笑う沖田さん。

「ほんと、おっとこまえな嫁さんでィ。何処まで惚れさせるつもりなんで?」

「そりゃぁもう何処までも。大好きな旦那様ですから。」

クスクスと笑い合ってベッドに倒れ込むと…
本当にスペシャルなお手伝いをされてしまいました…



END