「…そんな事出来ません………沖田さん、僕お話があって…」
「旦那に告白されたんだろィ?昼に甘味屋で旦那に聞きやした。」
「沖田さ…」
僕がアイマスクをずり上げると、すっかり身支度を整えた沖田さんがここ最近見なかった無表情で僕を見ていた。
「結構マジだったんですけどねィ…ま、そんなん始めっから判ってた事だもんな。んじゃ、さいなら新八君。」
そう言って、手を振って去っていく沖田さんを見て僕の頬を涙が伝う。
何でだよ…何でこんなに胸が痛いんだ…?何でこんなに胸が苦しいんだ…?僕はずっと好きだった銀さんと恋人になれたっていうのに…
なんでこんなに行ってしまう沖田さんを引き留めたいんだ…?
何でこんなに…
沖田さんが居た筈の所に、同じアイマスクのキーホルダーが付いていた筈の鍵がひっそりと置いてあるのに気付いた僕は、声をあげて泣いた。
その日から、不思議な事に江戸の夜はずっと月が隠れている。
昼間どんなに天気が良くても、月が出る頃には雲が月を覆い隠し雨が降るのだ。
…アイマスクなんてズルしなくても、月を消せるんじゃないか…
沖田さんと逢わなくなって、銀さんとはもう何度も身体を重ねた。
それなのに、未だに違和感は拭えない。
それは、テクニックがどうのとか、モノがどうのとかいう事じゃ無くて…心が満たされないんだ。
どんなに忘れようとしても、沖田さんとの最中に交わしたくだらない言葉やふざけてじゃれあった記憶が想い出されて…隣に居るのが沖田さんじゃないのが寂しくて仕方が無い。
僕は、本当はもうとっくに沖田さんの事が好きで好きで堪らなかったんだ。
身体だけの関係だってずっと言ってたから…
銀さんが好きだってずっと思ってたから…
だから、育ち始めていた気持ちを無視したんだ。
気付かないようにしてたんだ。
本当は僕の気持ちはもうこんなにも変わっていたっていうのに…
あの日から僕はずっと気持ちが吹き出したままなんだ。
いつのまにか育ってしまっていた恋心が。
その傷口が、心が痛くて痛くて…もう、この気持ちを無視なんて出来ない。
今更僕の気持ちが沖田さんにちゃんと伝わるかなんて分からないけど、それでもこんな気持ちのまま、今のままでは居られない。
銀さんにだって失礼だ。
だから僕は…
「銀さん、お話が有ります…」
銀さんに背中を押され、勢いで飛び出したのは良いけれど、何処に行けば沖田さんに逢えるのかなんて僕は知らない。
僕があの人に逢えたのは、買い物に行った帰りに偶然見廻りに出ている所とか、呼び出されて行った真選組屯所か、僕の家だったから…
それでも僕は、どうしても今逢いたいから闇雲に走った。
そして、通りがかった公園のベンチに沖田さんを見つけた。
寝転がって、手で目隠しして…ぐうすかと眠っているようだった。
…僕はそうそう眠れてもいないって言うのに…ちょっとムカつく…
そーっとベンチに近付いて沖田さんの前に立つと、そこは流石に目が覚めたようで掌を外して眩しそうに目を細めた。
「おんや、万事屋の奥さん。旦那とよろしくヤってますかィ?」
「いえ、銀さんとは別れてきました。」
「へ…?」
僕がはっきりそう言うと、目を見開いた沖田さんが慌てて起きあがる。
「だって、もうずっと月を見て無いんですもん。そろそろ隠すの止めてくれませんか?」
「俺ァ何もしてやせんぜ。アイマスク外しやァ良いじゃねェですか。」
「そうしたら眠れないんです。アイマスクが無いなら沖田さんが隣に居ないと僕はもう眠れませんから。」
目を逸らさないで僕がそう言うと、ふわりと赤くなった沖田さんがひどく嬉しそうに笑って僕を抱きしめてくれる。
…あ…すごく安心する…心が…一杯になる…
だからそっと手を回して僕も抱き付くと、沖田さんは僕をいっそう強く抱きしめてくれた。
「なら、もうずっと俺が隣で寝てやらァ。えっちしない日でも毎日ずっと。」
「遅番の日は駄目ですよ?ちゃんと仕事して下さい!!」
「大丈夫でィ。新八くんが寝付くまでは一緒に居たって平気でさァ。」
ニヤリ、と悪そうに笑う顔は…
もしかして、今までもすぐに帰った日ってそうだったのかな…?
そうだったら…ちょっと申し訳ないけど、すっごく嬉しい。
だって、僕に逢う為に無理してくれたんだから。
クスクスと笑い合って見つめ合って。
僕らは引かれ逢うようにキスをした。
END
えこしすてむ/rabureta-furomunanika
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