ちょこれいと・どりーむ



2月に入って早数日。ここの所僕の周りがちょっとおかしい。

銀さんが甘いモノを欲しがるのはまぁ当たり前と言っちゃ当たり前なんだけど、チョコが食べたいなんて品物を限定してくるのはまぁやっぱりこの時期だからなんだろう。

いつもギリギリな長谷川さんに、ちょっと余裕が有ったんでおにぎりを差し入れた時には泣きながら喜んで食べてくれたけど、保存食でチョコがあったら良いのに…なんて呟いてた。

道端で出会った桂さんとエリザベス先輩は、
『もうすぐアノ日が来るんだが、新八君はバンアレン帯を知っているか?』
とか色々間違っている話を振ってきた。
すぐにエリザベス先輩が【桂さんはチョコを食べないと死ぬ病気にかかって…】とかフォローだかなんだか分からない板を出してたけど…やっぱりそう言う事なんだろう。

真選組の皆さんも、丁度見廻りコースに入っているのか大江戸ストアのタイムセール帰りに必ず誰かと遭遇する。
あそこはホラ、近藤さんがおかしな局中法度を作っちゃったから…皆さん僕にとても優しい。強面を笑顔に変えて荷物を持ってくれたりとか、飴やらガムやらおやつをくれたりとか。だから面識も出来たし立ち話をしたりぐらいには親しくなってる。
そんな皆さんが、口を揃えて
『俺、実はチョコ大好きなんだよね!』
なんて言ってくる。
まぁ土方さんは
『チョコとマヨってスゲェ合うんだぞ?』
だったし、沖田さんは
『新八くんザッハトルテって知ってやす?あぁ、フォンダンショコラでも良いや。』
なんてやけにハードル高い事言ってたけど、でもやっぱり皆さんそう言う事なんだろう。

その上万事屋からの帰りが少し遅くなった夜、ちょっと暗い路地からふらりと高杉さんが現れて、
『坊主…俺の好物知ってるか…?チョコレイトだ…』
なんて言われた日には、色んな意味で驚いて心臓止まりそうになったよ。
すぐ後には神威さんが飛んできて(本当にどこからか飛んできた!)恐いくらいににーっこりと笑って、
『地球の食べ物ってミンナ美味しいよネ。高杉が言ってるチョコレイトっての食べてみたいんだけど、君くれるよネ?』
なんて言われた。やっぱり神楽ちゃんと兄妹なんだって思ってちょっとだけ嬉しかった。
一緒に現れた阿伏兎さんがすぐに神威さんを連れて帰って行ったけど、なんだか疲れ切った顔をしてたんでお疲れ様ですと声を掛けたら、
『甘いモンでも食べたら癒されるんだけどねぇ…』
って言われた。

更に家では姉上が、坂本さんから伝言を預かって来ていて…
【2月14日に地球に行きます。準備宜しくお願いします。】
なんて聞かされた。何の準備だよオイ!


…まぁ…やっぱり皆そう言う事なんだろうな…
2月にチョコが欲しいなんて言うのは…バレンタインデーの事なんだろうな…
そんなのむしろ僕の方が欲しいわ!
大体アイツら皆結構なイケメンだし人気有るしチョコくれそうな女の子居るじゃん!
わざわざ僕にたからなくたっていいじゃん!!

…でも皆それぞれ性格にちょっと難が有る人達だし…実はバレンタインデーにチョコくれる女の子なんて居ないのかもしれない…
人気投票1位の銀さんも、これまで毎年僕と一緒になってチョコォォォ!とか言ってるしな…神楽ちゃんの義理チョコぐらいしか期待できないよね…
でもみんな半端にイケメンだから、バレンタインのチョコ貰ってません、なんて言えないんだろうな…それはそれで大変かも…いっそ僕ぐらいモテない感じなら堂々と貰ってませんけど何か?って言えるんだよね。

…だから僕にたかるのか…?なんか良い人っぽい僕なら縋りつけば貰えるかも!とか思ってる…?

そう思うとイケメンもちょっと可哀想かも。
この間の依頼で少しお財布と心に余裕も有るし。
もしかしたらホワイトデーにお返しとか貰えるかもしれないし。
ここは可哀想な見栄坊達に、この僕が一肌脱ぎますか!

…と言ってもそんな高そうなチョコは買えないけどね…


仕方ないんでスーパーで安売りしてた袋チョコを100均で買ってきたちょっと可愛い袋に詰め込むと、なんだかそれっぽくなった。
これなら女の子に貰った気になるよね、多分。
この袋チョコ美味しいし…食べたらちょっとだけでも幸せになれるよね…?


そして迎えたバレンタインデー当日。
僕は小分けにした沢山のチョコを大きな紙袋に詰めて家を出た。
するとそこには何故か沖田さんが居た。

「ご苦労様です。今日はまだ近藤さん来てませんよ?」

沖田さんが家に来るなんて近藤さんの回収以外ないもんね。
そう思って僕が声を掛けると沖田さんはフイッと目を逸らして僕に手を差し出した。

「違いまさァ…チョコ貰いに来てやったんでィ。」

どこか緊張した顔でそう言ってチラリと僕を見てくる姿はちっちゃな子供みたいで可愛いなぁ、なんて思ってしまった。僕より年上のドS王子の筈なのに。

「はい、差し上げますよ。流石にケーキは無理ですけどね。」

本当は銀さんにあげようと思ってたちょっと大きい袋を探して渡すと、僕の手元を覗いてた沖田さんの顔がぱぁっと明るくなる。
そんなに嬉しいんだ…本当にチョコ好きなんだね。

「俺のだけ大きい…有難うごぜーやす!お返しは期待しなせェ!!」

今迄見た事もない嬉しそうな顔で笑った沖田さんが、チョコの包みを大事そうに抱えて走って行ってしまった。
なんか、僕良い事したのかもしれない。あんな風に笑う沖田さんって初めて見たよ…


その後は特に誰にも遭わずに万事屋に着いた。
驚くべき事に今日だけは僕が起こす前に皆起きていて、ソワソワと落ち着かない様子で僕を…というよりチョコを待っていたらしい。

「お待たせしました。ほんの気持ちですけどチョコ持ってきましたよ。」

「待ってたアルー!新八大好きヨ!!」

僕の言葉にいち早く反応したのは神楽ちゃんで、ひゃほーと言いながら僕に向かって飛んできた。
…悪い気はしないよね。
はい、とチョコを渡すと嬉しそうに笑った神楽ちゃんが僕の手にも何かを置いた。
可愛い袋にリボンが掛かった…バレンタインのチョコレート…?

「ワタシもチョコ買ったヨ!新八だけにあげるネ!」

え!?僕だけ貰ったら銀さんが煩そう…
そっと銀さんの方を見ると特に気にした風もなく目は僕が持ってきたチョコの袋に釘付けだ。
僕が来る前に神楽ちゃんに貰ったのかな?

「有難う神楽ちゃん!大切に食べるね。」

僕がお礼を言うと、満足そうに笑った神楽ちゃんは定春に抱き付いた。
定春にはチョコを食べさせて良いのか分からないんで、いつもとは違うドッグフードを餌入れに入れてあげた。
そうしたら嬉しそうにわんと鳴いてすぐに食べてくれた。

「銀さんにもちゃんと有りますよ?食べ過ぎて糖尿病にならない位の量ですけど。」

「え?あ、そうなんだ。まぁ、こういうのは気持ち?だし?新八の気持ちを受け取らない俺じゃないし?」

気持ちっていうか憐れみなんだけど…それを言うと面倒くさそうだから黙っていよう。
それに、折角いつもより嬉しそうにに笑ってるんだからそれをブチ壊すのも嫌だしね。


いつものように家事をして、夕飯の買い物に行く途中で桂さんとエリザベス先輩にも会った。
2人にもそれぞれ小分けのチョコを渡すとすごく喜んで貰えた。

「新八君は本当に良く出来た子だ。」

なんて頭を撫でられると、照れるけど嬉しくなってしまう。
でも…

「お返しは3カ月分で良いか?それともこっちの方が…」

と言ってヒラリと見せられた紙は記入済みの婚姻届で…
桂さんのボケは高度過ぎて突っ込み方が良く分からないと思いました。


その後は大江戸ストアに向かうまでに沢山の真選組の方達に会ったんでどんどんチョコを配っていった。
皆さん口々にお返しをくれると言っていたんで、来月はお菓子に困らないなぁ、なんてちょっと嬉しくなった。

山崎さんが泣いて喜んでくれたのにはちょっと困ったけど、僕も同じ立ち位置に居るから気持ちは分かる。
そうだよね、バレンタイン爆発しろクリスマスも。って毎年思ってたもんね。
たとえ男からのチョコでも、自分で買ったチョコじゃないんだから嬉しいよね。

「新八君!このお礼は僕の全力で返すからね!」

「え?いやそんな大袈裟な…」

僕が断る間もなく凄い笑顔の山崎さんが走って行ってしまったけど…ご飯奢ってくれるぐらいしてくれるのかな…?なんだか悪いや…


買い物帰りには見廻り中の土方さんと伊東さんが居たからお2人にもチョコを渡した。
この2人はお金持ってそうだし…ご飯奢ってくれないかな………やっぱ土方さんは別のモノが良いや。犬の餌(沖田さん談)は僕もちょっと食べられない。

「有難う新八君。今度ディナーでも一緒にどうだい?」

「はい!楽しみにしてます!!」

やぁったぁー!伊東さんならきっとオシャレな美味しい所に連れてってくれるぞ!

「テメっ伊東!…おい、俺とも…」

「あ、すみません僕マヨ丼はちょっと…」

誘われる前にちゃんと断っておこう。
ビシッと断ると、クスリと笑った伊東さんに土方さんがキレて斬り合いが始まった。
…巻き込まれる前にさっさと逃げよう…


万事屋に帰ると予告通り坂本さんがやって来ていて、チョコを渡すと嬉しそうに笑ってくれた。

「さて、じゃぁ新八君一緒にすまいるに行くぜよ!」

「イヤイヤイヤ!僕未成年ですから!!それに僕がそんな所に行ったら姉上に殺されますよ!!」

「じゃぁ仕方ないのう。お妙さんへのご挨拶はワシだけで行くかのぅ。」

「はぁ…」

伝言を頼んだお礼なのかな?
まぁ、何があろうと姉上が相手だっていうなら心配はないや。せいぜい搾り取られて下さい。
笑いながら去っていく坂本さんの後姿に僕は心の中で手を合わせた。


万事屋から帰る途中、予想通り高杉さんと神威さんと阿伏兎さんが揃って暗い路地から現れた。
…路地じゃないとダメなのかな…?
3人にも小分けしたチョコを渡すと、高杉さんがニヤリと笑った…恐ァァァ!

「ちゃんと用意するたぁ…感心だなぁ坊主…どうだ…?俺と一緒に来るか…?」

「イエイエイエ!僕はまだまだ銀さんに教えて貰う事が沢山有りますからっ!」

ブンブンと手を振りながら後ずさると何故か神威さんが僕に抱き付いてくる。
神楽ちゃんもそうだったよな…夜兎の挨拶かなんかなのかな…?

「そうだヨ、タカスギの顔恐いしネ!そんな所より俺の所にきなヨ。」

「ですから!僕は銀さんの所に…」

「来ないなら殺しちゃうぞ?」

にこにこと笑いながらおっそろしい事言ってくるよこの人ォォォ!

「なぁーに言ってんだ団長。そんな事言ったらコイツ怯えて絶対来なくなるだろうが。」

そう言って阿伏兎さんが僕の前に出てくれる。
たっ…助かった…!!

「何?阿伏兎。随分このコの事知ってるそぶりじゃない?」

「苦労人同士だからな。アンタよりは知ってるだろうよ。」

あっ…阿伏兎さんが神威さんをひきつけてる間に僕は逃げようそうしよう。
何故か下を向いたままピクリとも動かなくなってる高杉さんにも注意を払いつつ、ゆっくり後ずさった僕は、ある程度の距離を確保して脱兎のごとく走ってその場から逃げた。


ちょっと遠回りになるけど大きな公園を抜けて家を目指していると、途中で長谷川さんに会った。
長谷川さんにもチョコを用意してるんだけど、皆とはちょっと違って大袋のままのアーモンドチョコだ。
やっぱり言葉通り保存食の方が良いよね…?

「長谷川さん!これ、保存食にして下さい!!」

「有難う新八君!これで何日か生き延びられるよ!!」

…バレンタインデーって感じじゃないけど、今日一番良い事をした気がする…
チョコ、用意して良かった…



家に帰って今日1日の事を振り返る。
皆チョコ貰って嬉しそうだったなぁ…僕も神楽ちゃんからチョコを貰えたし、凄く幸せな気分かも。
来月はご飯を奢ってもらえたり、お菓子を貰えたりもしそうだし…やっぱり人に親切にすると良い事有るのかもしれない!



END