ちょっとだけ辺りを警戒しつつ家路を急ぐ。
流石にもうおかしな人達は居ない…よね…?

僕の心配は杞憂だったようで、帰り道ではおかしな人達に出会う事は無かった。
…良かった…
ホッと一息ついて門をくぐると、玄関の所に誰かが座り込んでいるのが見えた。
なっ…!黒い塊…!?………ってあの色は………

僕の気配を感じたのか、顔を上げたその人は…やっぱり沖田さん…?

「こんばんわ、新八くん…」

「沖田さん…?どうしたんですか…?そんな所に座りこんで…」

そろりと近付いてみると、力なく笑った顔は傷だらけで、その上いつも纏っている制服もボロボロで所々破けていた。

「どっ…どうしたんですか!?誰に襲われてそんな…何でウチに…!?」

慌てて駆け寄ると、あの沖田さんが、立ち上がろうとして崩れ落ちた!
思わず支えると、僕の背中に腕を回して「悪ィ」なんて言われた。
いっ…一体何が沖田さんに…!?

「本当は朝イチで新八くんちに来る予定だったんでさァ…それがザキの野郎、思ったより面倒な仕掛け作りやがって…俺とした事が手間取っちまったんでィ…」

凄く近くで悔しそうにそんな事言われたら、なんだか僕まで悔しくなってくる。
でも、とりあえず今は傷の手当てをしなくっちゃ!

「沖田さん、とにかく中に入りましょう!傷の手当てしないと!!」

ゆっくりと移動しているのに、動く度にビクリと震える沖田さんが痛々しくて泣きそうになってしまった。
一体誰がこんな酷い事…

「沖田さんにこんな怪我させるなんて…一体どんな手練と闘ったんですか…?」

なんとか居間に辿り着いて、沖田さんに座ってもらって怪我の具合を確認する。
打ち身が酷いな…切り傷はそうでもなさそうだ…
消毒と…後は湿布ぐらいしか僕に出来る事は無いのがとても悔しい…

「んー、相手は真選組だからねィ…」

何でもない事のようにさらっと言った敵は僕が想像もしなかった相手で…
え…?

「はァァァ!?アンタ何したんだ!?」

「何って、俺ァただコレを新八くんに渡そうと思っただけでィ。チョコのお返し期待しときなせェって言いやしたよね。十倍返しでィ。」

ほい、と言ってポケットから出された物は小さな箱で…可愛らしくラッピングされているけど、ソレはなんだか朝から沢山見たような大きさと形だった。

「…えっと…コレは…」

「開けてみなせェ。」

イヤイヤイヤ、沖田さんに限ってまさかそんな事無いよね。
嫌な予感しかしないままラッピングをほどいていくと、やっぱり見たような箱…

「朝起きてすぐから山崎が俺の部屋に仕掛けたトラップを解除してやしてねィ…ちっと時間食っちまったんでィ。俺を足止めするなんざ、あのヤローも意外とやりやがる。それをくぐり抜けたと思ったら、ボロボロのタキシードの近藤さんに捕まっちまって延々と愚痴を聞かされやした…朝から姐さんに振られたらしくて八つ当たりでさァ。」

はぁ、と溜息を吐く沖田さんの目は死んでいた。
よっぽど辛かったんだろうな…

「んで、それからやっと解放されたと思ったらやたらとご機嫌な伊東先生に捕まって、刀の仕入れに付き合わされちまいやした。」

「ちゃんとお手伝いしてるんですね…沖田さんって実は良い人ですか…?」

「んな事ァありやせん。あの人は強引なんでさァ。」

ふいっと目を逸らす沖田さんは、もしかして照れてるのかな?
なんかちょっと可愛いかもしれない…

「んで、沢山刀持って帰ったらやたらと不機嫌な土方さんに捕まっちまって、稽古に付き合わされたんでィ。」

付き合わされた、って割には嬉しそうだ。
キラキラした笑顔じゃないか。

「なんだかんだ言っても土方さんと仲良しですよね、沖田さん。」

「んな訳あるかィ!合法的に土方を殺れると思っただけでさァ。んで、稽古が終わって出掛けようとしたらミイラ男みてェに包帯でグルグル巻きになった山崎とその他大勢の隊士達にもみくちゃにされてこのザマでィ。折角新品の隊服だったってェのに…」

むぅ、と膨れた顔は子供みたいだ。
でも…

「こんな怪我させられたんですよね…?もっと怒っても…」

「これァこの屋敷に来た時姐さんに捕まったんでィ。」

「すみまっせ―――ん!!!」

姉上ェェェ!
どんだけ最凶なんですかァァァ!?

僕が思いっきり頭をすりつけてDOGEZAすると、ポンポンと頭を撫でられた…

なっ…!?

「悪ィと思うんなら、ソレ返さないで貰って下せェよ?チョコのお返しなんだ。ソレいらねェからチョコ返せって言われたって、もう喰っちまったんで返せやせんから。」

そう言ってすっくと立ち上がった沖田さんは、普通にスタスタと歩いて帰っていく。
怪我は…良くなってないよね…

「あのっ!」

「ソレ、いらねェなら売っちまって良いんで。」

振り返りもしないでそれだけ言うと、沖田さんはそのまま早足で帰っていってしまった。

…何だよ…いつものドS王子はドコやったんだよ…
何耳赤くしたりしてんだよ…
僕にまで移るじゃんか、そんなの…

そこまで言われたら、つい開けてしまったその箱の中身は思った通りキラキラと光る石のハマった綺麗な指輪で…
これ、かなりお高そうだよ…?
売ったらかなり良いお金になるよね…

そっと持ち上げて電気に当ててみると、そりゃぁもうキラキラキラキラと光る光る…
日に当たった時の沖田さんの髪みたいだ…

…あんな事言われたら返す訳にもいかないしさ…
こんな高価な物、捨てるのは勿体無いし…
売る…よ…?
…うん………すっごく困った時に…ね…



その日から、僕は部屋の一角を見る度ニヤニヤが止まらない。

もちろんソレは神楽ちゃんのクッキーを見るからであって、決してキラキラ光るアレを見ている訳ではないのだ。



…違いますからね!!



END