なんでか少しガッカリした感じの新八くんを恒道館まで送って、俺はブラブラと屯所まで帰った。
途中で良いモン手に入りやしたから、明日はソイツを持ってってやる事にしやしょう。
きっと喜ぶぜィ、新八くん。

しっかし、俺とした事がアイツにだけは甘くなっちまう。
まぁ、仕方ねェか。俺ァ新八くんが大好きなんだから。

大人ばっかりの環境の中で俺より年下なんて滅多に居やしねェ。
何よりあんな素直に俺を慕ってくれるヤツなんざ他に居ねェ。
全く俺らしく無くてくすぐったくなっちまうけど、俺ァ新八くんが弟分に思えて可愛くってしゃーねェんだ。
でもまァ、一人ぐれェ俺が甘やかすヤツが居たっておかしかねェだろィ。


「お、総悟見廻り御苦労さん。おかしな動きは無かったか?」

俺と入れ替わりなのか、玄関で今から出掛ける近藤さんに会った。

「へい、今日は特におかしなヤツには会いやせんでした。御蔭で新八くんとゆっくり話せやした。」

俺がにんまりと笑ってそう報告すると、嬉しそうに笑った近藤さんが俺の頭を撫でる。
まったく、俺の周りの人達は皆俺に甘いんでィ。

「そうか、ちゃんと送ってくれたんだな、ありがとう。新八くんに何かあっちゃ妙さんに申し訳が立たんからな!」

「アイツに何か有んのは俺も嫌ですぜ。あ、近藤さん知ってやすか?満月に向かって財布を振ると金が貯まるんだそうですぜ?」

早速新八くんから仕入れた情報を教えると、近藤さんがそりゃ凄い、とはしゃいだ。
この人ァまったく…こんなどうでも良い事にでもちゃんと反応してくれるんだからなァ…

「新八くん、お月さん見るのが好きらしいですぜ?スゲェ真剣な顔で『月が綺麗ですね』なんて言ってやしたから。」

俺がしみじみとそう言うと、何故か近藤さんの動きがピタリと止まってダラダラと汗をかき始めた。
なんだ…?

「…総悟…君…?それ…なんて返事したんだ…?」

笑顔を引き攣らせた近藤さんが、恐る恐る俺に聞いてくる。
返事、って何だ?

「そうですねィ、って言いやした。今日は満月で本当に綺麗でしたし。んでそっから財布の話をしたんですけどねィ…なーんかそれから新八くんガッカリした感じだったんでさァ。皆に知られたら御利益が薄れるんですかねィ?」

俺がそう説明すると、大きく溜息を吐いた近藤さんがしょっぱい顔をして俺の肩を叩いた。
なんでィ、その同情したようなツラ…

「お前、もっと本を読め。」

「何が…」

呼び止めようとしたのに、近藤さんはそのまま止まらず見廻りに行っちまった。

なんなんでィ、訳解んねェ。
俺だってそこそこ本は読んでらァ。呪いの本とか黒魔術の本とかSMの本とか。

…仕方ねェ、そんなに近藤さんが言うなら今度は漫画でも読んでやりやすか。





次の日。
朝から姉上のストーカーに来ていた近藤さんが、僕を見るなりすまなそうな顔でポンポンと僕の肩を叩いた。

「すまんなぁ新八君…総悟は修行ばっかりやってたから本なんて読んでなくってなぁ…」



……………




なんでこの人知ってんのォォォ!?
僕ってそんなに解り易い!?
イヤ、沖田さんが報告したのか!?意味分かって無かったからァァァ!!!
やっちゃったよあの人ォォォ!!!!!

どうやって誤魔化そうか考えても、頭がぐるぐるして全然良い考えなんて浮かばないよォォォ!!!!
僕が固まったまま脳内だけぐるぐるあわあわしていると、近藤さんの大きな手が僕の頭を撫でた。

「ナイショだったのかい?だから漱石なんて回りくどい言い方したのかい?」

そういう近藤さんの笑顔は穏やかで、怒ってもいないし気持ち悪がられてもいなかった。
だから僕は安心してしまって、この人になら、ばれても良いかって思ってしまった…

「…近藤さんは、知ってるんですか…?」

「まぁそれぐらいはね。総悟は全く分かっちゃいなかったみたいだけどなぁ…あ、俺が総悟に意味を教える事は無いから安心してくれな。」

そう笑顔で言ってくれるなんて、姉上が絡まなければ本当に頼りになる人なんだよな…近藤さんって…

「はい…ありがとうございます…」

「有難うは俺の方だよ新八君。どんな意味であれ、君が総悟を好きになってくれるなんて…アイツの周りは俺たちみたいなオッサンばっかりだろ?年の近い君が近くに居てくれる事が本当に嬉しいんだ。良かったらこれからもアイツの傍に居てやってくれな…?」

…そんな事言われたら…僕はその気になっちゃうのに…
良いのかな…?

「僕はそうしたいですけど…沖田さんが…」

「いや!総悟も新八君の事が大好きだから!!…まぁ、その意味が同じなのかは俺には判らんが…」

近藤さんは困った顔をしているけど、そんな一言をもらえただけでも僕は勇気を貰ったよ…
沖田さんが僕の事を好きだなんて!
それが友情だったとしても、凄く嬉しいんだ!!


「おーい新八くん、近藤さん来てやせんかー?」

「沖田さん!近藤さん今日はまだ無事ですよー!!」

僕がそう叫ぶと、朝の光を浴びてキラキラと輝く沖田さんが庭に現れる。


…やっぱり大好きだ…


うっとりとその姿を眺めていた僕に、にっこりと笑いかけて沖田さんが何かを投げてきた。

「えっと…何…?」

「開けてみなせェ。」

高そうな袋には、更に高そうな箱に入った…長財布…?

「昨夜俺が振っときやした。春財布ってェのは縁起が良いんですぜ。知ってやした?」

得意気に微笑む沖田さんが格好良くて可愛くて、僕はもう気絶しそうだよ!!

…やっぱり僕はこの人が好きで好きで仕方ないんだ。
どうしても隣に居たい。
一番近くに。

だから…今度はちゃんと、はっきり、貴方の事が好きですと伝えよう。

「ありがとうございます!でも、こんな高そうな財布…良いんですか…?」

「おー、ソレでほんとに金が貯まったら団子喰いに行きやしょうぜー、新八くんの奢りで。」

「いっ…良いですよ!約束ですからね!!」

「楽しみにしてらァ。」

にこにこ笑う沖田さんが眩し過ぎて目が眩みそうだ!
…さっ…流石に今すぐにはアレだよね!
沖田さんだってビックリするだろうし、近藤さんの目の前でなんて恥ずかしいだろうし!

うん…

だから…

もう暫くはこのままで良いかな…なんて…

そう!このお財布でお金が貯まってお団子を食べに行く時!
その時に僕の気持ちを伝えよう。
今度はちゃんと、好きですと。


END