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「近藤さんきてませんかねィ。」
夕食を食べ終わり、ぼんやりとテレビを見ながらお茶を飲んでいると、庭からそう声を掛けられる。
おっ…沖田さんんん!?
何で!?山崎さんじゃないの!?
「あっ…あのご苦労様ですっ!近藤さん!近藤さんは玄関に居て…!!」
僕が走って玄関まで近藤さんを起こしに行くと、そこに居たはずの近藤さんはもう居なくって毛布だけが綺麗に畳まれて置いてあった。
あ…意外と几帳面…って!折角沖田さんが迎えに来てくれたっていうのにドコ行きやがったあのゴリラ!!
近藤さんが居ない事を伝える為に僕が走って居間に戻ると、すっかり居間に上がり込んで沖田さんが僕が飲んでいたお茶を飄々と飲んでいた。
おっ…お茶ァァァ!!
「近藤さんはいやしたかィ?」
「あのっ…お茶っ…!!」
「あぁ、頂いてやす。」
あっさりとそう言った沖田さんはおかわりを淹れた上、煎餅にまで手を伸ばした。
「で?近藤さんは?」
…全く気にしてない………まぁ…普通そうだよね………
はぁ、とひとつ溜息を吐いてそっと沖田さんを見つめると、無表情なままじっと僕を見てる…
「近藤さんはさっきまで玄関で気絶していたんですけど、どこかに行っちゃったみたいです。姉上にダー…チョコ貰ってたんで、屯所に帰ったんじゃないですか…?」
「そうですかィ。んじゃ入れ違いになったんですねィ。」
そう言いつつ、又煎餅に手を伸ばす。
…完璧に休憩していくつもりだな、この人…
いや待てよ、コレは…
「時に新八くん、お前さん今日はチョコ貰えやしたかィ?勿論姐さんの義理チョコじゃなくて本命の。」
大切な事に気付いた僕に、ニヤリ、と笑った沖田さんがそう話を振ってくる。
何だ?こんな顔でそう言ってくるって事は…自慢…?
「…貰えてませんけど…?」
ジトリと沖田さんを見て僕がそう答えると、沖田さんの顔が心なしかホッとしたように見えた。
何だろ…もしかして、沖田さんもバレンタインのチョコ、貰えてないとか…?
だったら嬉しいのに…
「沖田さんは当然貰ってるんですよね?」
僕がそう言ってジッと見ると、目を逸らした沖田さんがボソボソと話だす。
「俺ら田舎侍が、んなモン貰える訳ねェでしょうが…」
「えぇー?沖田さんや土方さんなんてイケメンなのに…性格はどうあれキャーキャー言ってくる女の子なんて沢山居るんじゃないんですか?」
あはは、と笑って僕が言うと、沖田さんはジロリと睨んでくる。
おっと。
「んな物好きな女居ねェよ。それにそんな俺の面しか見てねェような女なんざ、こっちからお断りでィ。」
フン、と鼻を鳴らして言われても…
そんな贅沢言えるのはモテた事あるからだよね?
羨ましくなんかないし!イヤマジで!!
でも、そうか。
沖田さん、チョコレイト貰ってないんだ…
なら、理由になるよね…僕が、沖田さんにチョコレイトをあげる理由に…
「それじゃ、コレ沖田さんに差し上げますよ。本当は僕が食べようと思ってたんですけど。」
そう前置きして、帰ってから卓袱台の上に置きっぱなしだった、可愛過ぎないけどバレンタインっぽい小箱を沖田さんに差し出す。
きょとん、とその箱を見た沖田さんが、固まったまま動かなくなった。
ヤバい!引かれたか!?
「姉上に頼まれて僕が作ったすまいるのお客さん用の義理チョコです!僕は味見しまくってもう甘いモノはいりませんし!!バレンタインデーにチョコ貰えなかった可哀想な沖田さんに気分だけでも味あわせてあげますよ!!!」
はい!と差し出すと、ぼんやりしながらも沖田さんが両手を差し出したんで、その手の上にチョコレイトを置く。
さり気なさを装ったけど、本当は心臓が破裂しそうだ!
沖田さん、ずっと固まったままだし…やっぱり嫌なのかな…
「あの…」
「これは新八くんが作ったんで…?」
「はい、そうですけどやっぱり…」
「…男の手作りってのはいただけねェが、チョコにかわりねェしな…それに、らしいラッピングもしてっから屯所の奴らに自慢してやらァ。」
「え…?」
そんな言葉に顔を上げた僕が見たのは、今迄見た事もないような満面の笑みを浮かべた沖田さんで…
その表情を見てしまった僕は、嬉しくて嬉しくて笑顔が止められない。
喜んで…貰えた…!
「味は保証しますから、ソレ!」
「へー…本当に旨かったら今度俺が団子奢ってやりまさァ。」
そう言って又笑った沖田さんが、チョコレイトを懐にしまって立ち上がる。
そのままもう会話する事も無く帰ってしまったけれど、門の所までお見送りした僕に、沖田さんは何度も笑顔を向けてくれた。
もうそれだけで、僕は幸せで幸せで!!
今年のバレンタインデーは、僕の人生で最高の日になったのでした。
END
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