はあとのおかえし
俺には今、好きで好きで堪んねェヤツが居る。
地味な眼鏡だけど実はすんげェ可愛い顔してて、鬱陶しいぐらいに口煩いけどこんな俺にまで優しくて、弱っちいキャラのクセに誰よりも強い漢、志村新八。
俺もあのコも男だなんて事なんざ気にならねェくらい惹かれちまって、寝ても覚めてももう新八くんしか見えねェ。新八くんの事しか考えられねェ。
そんな新八くんから、俺はバレンタインデイのチョコレイトを貰っちまったんだ。
それまでは、俺達は普段道で逢えば挨拶をする、その程度の関係だった。
それでももしかしたら、ってェ万が一の期待を胸に、俺はバレンタインデイ当日に近藤さんを引き取りに恒道館道場に足を運んだ。
そしたらどんな奇跡か、姐さんが店で配る為に新八くんが作ったってェバレンタインのチョコレイトを俺にくれたんだ。
勿論、バレンタインデイの話を新八くんに振ったのは俺だし、同情を煽るように一個も貰えなかったとは言いやした。
それでも、まさか本当に新八くんが俺にチョコレイトをくれるなんて、思ってもいやせんでした。
『バレンタインデーにチョコ貰えなかった可哀想な沖田さんに気分だけでも味あわせてあげますよ!!!』
なんて、義理だって事を強調してやしたが、あの真っ赤な顔と、俺がチョコレイトを受け取った時の嬉しそうな笑顔は義理なんかじゃ無ェだろ。
だって屯所に帰ってすぐに喰ったチョコレイトはスゲェ旨かったし、可愛らしいハート型だったし、なんか気合いの入った箱に入ってやしたし。
んなモン、絶対ェ本命チョコに決まってまさァ。
先に告られたのは癪ですが、新八くんも俺の事好きだったんだって解ってスゲェ嬉しかった。
だから俺ァ、チョコレイトが旨かったら団子を奢ってやる、ってェ約束を次の日すぐに実行した。
気合い入れて俺が知ってる中で一番旨ェ団子屋に連れてって、一番のお勧めを勝手に注文すると、そわそわと落ち着かない新八くんが俺を見る。
チラチラと見てきて俺と目が合うと慌てて逸らすなんざ、初めてのデートだから緊張してんのかと思うと俺まで緊張しやした。
それでも団子が来てからは落ち着いたらしくて、何度も俺を見上げながら、嬉しそうに旨そうに団子を喰う新八くんの可愛らしさは半端無くて、その日は最高に幸せでしたぜ。
その後も又あの幸せそうな顔が見たくって、俺は時間を作って何度も新八くんとデートした。
それはファミレスだったり定食屋だったりと飯を喰いに行くだけのモノだったけど、それでも幸せそうな新八くんの顔を見るだけで俺の心は暖かくなった。
顔を真っ赤にして嬉しそうに楽しそうに話をしてくれる新八くんは、そりゃァ可愛くて俺ァ愛されてんなァ、なんて思った。
そこまでされたら、こりゃぁもう男として俺がしっかりと新八くんにプロポーズしてやるしかねェじゃねェか!
二人の気持ちははっきりしてるってェのに、離れてる時間がこんなに有るなんざいけねェや。
いつまでも新八くんを不安にさせてなんざいられねェだろィ?せめて婚約まではしとかねェとな!
言葉だけじゃ満足………
…アレ…?
俺ァ…告白の返事…しやしたっけ…?
………アレ………?
ヤベェェェ!
俺まだ新八くんに告ってなかったァァァ!!
イヤイヤイヤ、まずは恋人になんねェと!新八くん、順番とか煩そうだし…いきなりプロポーズなんざしたらスゲェ恥ずかしがりそうだし…アノ姐さんの弟だし…俺まで近藤さんに二の舞になるのは御免だし………
ってもう遅ェよ俺!
テンションに任せて新八くんに似合いそうな指輪買っちまったよ!!
どうすんだコレ!渡せんのか俺!?
………ウダウダ言ってても仕方ねェ。
ここまできたら渡しちまうしかねェ。
まァでも出来る事ァやりやすぜ、俺ァ。
来る3月14日、ホワイトデイっぽくクッキーやら飴やらマシュマロやらの菓子の詰め合わせも用意して、俺ァ決死の覚悟で恒道館道場へと向かった。
柄にもなくガチガチに緊張した俺が震える手で恒道館道場の呼び鈴を鳴らすと、ぱたぱたと可愛らしい足音を立てて新八くんが出てきてくれた。
「こんちわ…」
「あ!沖田さんいらっしゃい!!今日は近藤さん来てませんよ?」
やっぱりいつものように顔を赤くした新八くんが、満面の笑顔で俺を迎えてくれる。
やっぱ間違いねェよ、新八くんは俺に惚れてる。
「イヤ、今日は新八くんに逢いにきやした。ホワイトデイだろィ?コレやりまさァ。」
小脇に抱えた菓子の詰め合わせを新八くんに渡してやると、驚いたような笑顔を俺に向けてくれる。
「お団子奢ってくれたのにお菓子まで良いんですか!?凄く嬉しいです…あ!どうぞ上がって下さい、今お茶淹れますね!」
嬉しそうにぎゅうと菓子の箱を抱えた新八くんに促されて居間まで行くと、ふかふかの座布団を出してくれて、堅っ苦しい上着を脱がせてくれてそれを衣紋かけに掛けてくれて、最高の笑顔と一緒にお茶を出してくれて、『お疲れ様でした』なんて言葉までかけてくれる。
そんなんされたら、まるでココが俺達の家で、新八くんが俺の嫁さんだって思えちまう…
「沖田さんて実は義理がたいですよね。義理チョコにちゃんとお菓子を返してくれるなんて!」
…義理、って念を押すのはやめてくれィ…ヘタレが顔を出しちまう…
「銀さんなんか最低だったんですよ!?沖田さん聞いてくれます?」
「…旦那にもバレンタインのチョコレイトやったんですかィ…?」
むぅっと頬を膨らまして文句を言う新八くんは可愛いけど、俺は旦那にもチョコレイトをやったって事の方が気になってしゃーねェ。
旦那のはどんなチョコレイトだったんですかィ…?
そっちが本命だったなんて事ァ…無いですよねィ…?
「え?はい。あの糖分王がぜんっぜんチョコを貰えてませんでしたからね。でも銀さん糖尿病予備軍だから、姉上の義理チョコを1個だけあげました。流石に可哀想でしたからね。」
菩薩みたいな笑顔で新八くんがそう言う。
…セーフでィ!俺のは四個有った!!それも二個づつ違う味だった!!やっぱ俺のは本命チョコレイトだった!!!
「そんなチョコでもお返しするって銀さん張り切ってたから期待してたのに、何くれたと思います?『お手伝い券』ですよ!?あの人いいオッサンなのに信じられます!?」
本気で呆れ返ったって言い方は、やっぱ新八くんは旦那の事なんとも思って無いって事ですよねィ…?
「買い物手伝い券とか肩たたき券とかですかィ?」
俺がちょっと余裕でそう聞くと新八くんの頬が赤らむ。
何でィ…?俺何か変な事言いやしたか…?
「それが変な事ばっかり書いてあって…おっぱい揉み券とか…ひとりえっち手伝い券とか…筆下ろし券とか…意味解んないですよ!そんなの使い道なんて無いじゃないですか!!もうその場で破り捨ててやりましたよ!!!」
そりゃァ噂の『夜のお手伝い券』じゃねェですかィ!旦那ァなんてモンを俺の新八くんに渡してんでィ!!
…でも…そう言いつつも何で顔真っ赤なんでィ…旦那の事、満更でもなかったのかよ新八くん…
「顔赤いですぜ?新八くん…本当は嬉しかったんじゃないんで?」
「はぁっ!?そんなモン銀さんに貰って嬉しい訳ないじゃないですか!喧嘩売ってんですか沖田さん!?」
俺につっかかってくるけど、さっきより顔赤いですぜ?新八くん…
でも、この反応は旦那の事が好きって訳じゃァ無ェ…んだよな…?多分…
じゃあ…
「だって顔真っ赤ですぜ?新八くんは…ソッチの人なんですかィ?」
俺がジッと新八くんの目を見て言うと、スゲェ勢いで目が泳ぐ。
やっぱり男同士は嫌じゃ無ェ…んですよねィ…コレァ…
相手は旦那じゃなくて…やっぱ俺…?
「新八くんは男が好きなんで?じゃぁ!じゃぁ俺なんかどうですかィ!?俺ァ新八くんが好きでィ!嫁にしてェ!」
ポケットに突っ込んでた指輪を取り出して新八くんの目の前に差し出すと、真っ赤な顔のまま目ん玉を見開いてそれを見つめる。
「…えっと…沖田さん…今…なんて…?」
急に真顔になった新八くんが姿勢を正す。
だから俺も姿勢を正して新八くんを正面からしっかりと見据える。
「俺ァ新八くんが好きでィ、惚れてまさァ。俺と結婚して下せェ。」
差し出してた指輪を手に取って新八くんの左手の薬指にそっとはめようとしたら、スゲェ勢いで手を引かれる。
あれ…?
新八くんは俺の事好きじゃ…
「何言ってるんですか沖田さん!僕男ですよ!?ちゃんと解ってます!?」
「…勿論解ってらァ。お前さんが女に見える訳無ェだろィ。」
呆れたように俺が言うと、新八くんはハッとして睨みつけてくる。
「だったら僕の事からかってるんでしょう?」
疑わしそうに俺を見る目に心が折れそうでィ…
Sは打たれ弱いんですぜ…?
「確かに俺ァサディスティック星の王子なんて呼ばれてるし、人をからかうのは大好きでィ。でも、今迄新八くんにそんなんした事有るかィ?本当に本気で好きなヤツにそんな事する訳無ェだろィ…」
無理矢理左手を掴んで、その薬指に指輪をはめちまう。
そうしたら、一瞬固まった新八くんが指輪を見つめたままポロポロと涙を流し始めた。
なっ…泣くほど嫌だってェのかよ!?
「…新八くん…」
「本当に…本気にして良いんですか…?僕…もう諦めてあげませんよ…?今更嘘だなんて言ったって…しつこく付きまといますからね…!」
ポロポロと涙を流したまま俺を見上げた新八くんが、にっこりと笑って俺の両腕をぎゅうと掴んできた。
そんなの…する訳無ェだろうが!
新八くんの手を一瞬で振り払って、逃げられない内に俺の腕で囲んで抱きしめた。
「新八くんが離れたいって言ったって、俺が離しやせん。」
ぎゅうっと力を込めて腕の囲いを狭くすると、そっと背中に回された手が俺を抱きしめ返す。
新八くん…
「僕…僕は沖田さんが大好きです!だいすき…です…!!」
愛しさが募ってどうしようもなくて、そっと顔をずらしてキッスすると、ピクリと震えた身体がすぐに力を抜いて俺に寄りかかってくる。
そっと唇を離して目が合うと、ふわりと微笑んだ新八くんがお返しとばかりに俺の鼻の頭にキッスをくれた。
「いきなり結婚はちょっと…まずはお付き合いから、とかじゃ…駄目ですか…?」
「俺達ァ年齢も問題無ェし、愛情も問題無ェ筈ですけどねィ…まぁでも、順番ってェのも大切なんだろィ?俺がどんだけ新八くんの事が好きか、思いっきり感じて覚悟を決めてから嫁に来なせェ。」
ニヤリと笑ってそう言ってやると、真っ赤に顔を染めたままの新八くんもニヤリと笑い返してくる。
「僕がどれだけ沖田さんを好きかなんてアンタは知らないでしょう?沖田さんこそ僕の愛情を思いっきり感じて覚悟を決めてから嫁に来て下さいね!」
「ふーん、そういう覚悟も必要なんですかィ…望む所でィ。新八くんの方から俺の嫁になる、って言わせてやらァ。」
「僕だって道場の後継ぎなんですから、沖田さんの嫁入りを心待ちにしてますよ。」
一歩も譲らない言い合いのままにクスリと笑い合った俺達は、もう一回キッスをして、しっかりと抱きしめ合った。
END
→