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約束の時間より少し早くにその厳つい門の前に着くと、そこには沖田さんが待っていてくれて、僕はすんなりと中に入る事が出来た。
でも…
「沖田さん、主役がこんな所に居て良いんですか?僕はすんなり入れたんで嬉しいですけど…」
ちょっとだけ心配になってそう聞くと、沖田さんは振り返りもしないでヒラヒラと手を振った。
なんかカッコいい。
「良いんでィ。俺が主役なのは最初の乾杯の時だけなんですからねィ。」
「あー…まぁそうですよね…」
万事屋での自分の誕生日パーティーの事を思い出して、僕は深く納得した。
確かにそうだよねー…パーティーなんてケーキとご馳走が食べられる日ぐらいにしか思ってないんだよアイツら。乾杯しときゃ良いと思ってるんだよ。
…でも、おめでとうって言われるのは嬉しいし…その日は2人ともちょっとだけ優しいんだよね…
沖田さんに連れられて辿り着いた大広間では、隊服やら私服やらの隊士さん達が思い思いにお酒を飲んだり食事をしたりしていた。誰もがとても楽しそうで、正面に飾られた『沖田隊長お誕生日おめでとう』という手作りの看板が皆さんの気持ちを表わしていると思った。
…沖田さん、皆さんに大切にされてるんだなぁ………その割には途中で抜けても気付かれてないみたいだけど…
「新八くん新八くん、コッチ来て呑みなせェ。」
沖田さんが手招きする方へ移動すると、そこには料理も飲み物も沢山あって、座るや否や周りに居た隊士さん達に僕は料理山盛りの皿と箸を持たされた。
いっ…良いのかな…?
ちょっと困ってると、今度はグラスに淹れられたキレイな色のジュースも渡された。
コレ…何味のジュース…ってか本当にジュース…?
「新八くん新八くん、カンパーイ!」
「あ!お誕生日おめでとうございます!」
そこいらじゅうの方とグラスを合わせると、飲まない訳にはいかなくてジュースを飲む…あ、甘くて美味しい…
喉も乾いてたんですぐに飲み干すと、『おぉっ!』という歓声と一緒にすぐにおかわりを淹れてくれる。
…僕真選組隊士じゃないんだけど良いのかな…?解ってないのかな…?皆さんけっこう出来あがってるみたいだし………お料理もいただいちゃおう。
結構食べてお腹が一杯になった頃、僕は手元にあったタッパーを思い出した。
あ!プレゼント!!
「沖田さん!コレ、リクエストされたプレゼントです!!」
タバスコと一味唐辛子をふんだんに使った赤い卵焼き…
人間の食べ物とはとても思えないんだけど、土方さんへのイタズラ用なのかな…?
「お、これこれ。有難うごぜェやす。」
無表情のまま受け取られると少し怖いんだけど…喜んで…るのかな…?
そっと様子を窺ってると、おもむろにタッパーのフタを開けた沖田さんが、自分の口にその赤い劇物を運んで租借した…
「ちょ…沖田さん!?」
僕が慌てて手近にあったお茶を渡すと、悶絶しながらも嬉しそうにソレを飲み込んだ。
えぇぇぇぇっ!?
大丈夫なの…?
「…本当はMだったんですか…?」
「黙ってなせェ………コレ、姉上の得意料理なんでィ。」
ちょっと頬を染めて照れながらそんな事言われたら、アノ沖田さんだっていうのに凄く可愛い小さな子供みたいに見えてきちゃうじゃないか!美少年って怖い!!
でも…誕生日のプレゼントを宅配便で送ってくるって事は、そうそう江戸に来られる訳ではないんだよね…
僕の卵焼きなんかで代わりになるんなら、なんだか嬉しい気がする…
「じゃぁ、味わって食べて下さいね。」
「………ホント、黙ってなせェ………」
ちょっと膨れた沖田さんが複雑な表情になった。
あれ…?何か悪い事言っちゃったかな…?
まぁ、折角楽しいんだからこれ以上余計な事言っちゃわないようにしよう。
だから僕はその後は大人しくジュースを飲んでお料理をいただいていた。
…しかし気付かれないものなんだなぁ…僕ってそんなに地味かなぁ?
その割には皆さん、僕のジュースが無くなったらすぐにおかわりを注いでくれるし、お料理もあれやこれやと取ってくれるし、沖田さんとの会話を温かく見守ってるんだよな…やっぱりアレかなぁ?近藤さんの決めたっていう局中法度のせい?
ま、いいや。僕も居て良いならそれに甘えちゃおう。
暫くすると、なんだか凄く暑くなってきた。それに、頭もぼーっとする。
確かにもう気温が高い時期だけど、こんなに暑いのは人が沢山居るからかな…?
涼みに出ようと辺りを見回していると、ジッとこちらを見ていた沖田さんと目が合った。
すると、手近にあった一升瓶を片手に持って、僕にコップを2個持たせて、手を掴んで立ち上がりどこかへと歩きだした。
涼しい所に…連れて行ってくれるのかな…?それとも…
なんとなく手を離したくなくて、僕は沖田さんの手をぎゅうと握り返した。
僕が連れていかれたのは大広間から大分離れた縁側で。
そこは静かで涼しくて、とても居心地が良かった。
僕らはそこに背中合わせで座って、沖田さんが持ってきた飲み物を飲んでいた。
…お酒みたいな気もするけど…今日はおめでたい日だから許してもらおう…
背中にかかる重みも温かな体温も。
どれもが気持ち良くて、僕はすっかりこの場所から離れがたくなってしまっていた。
いつもなら、気にしいの僕は誰かと居る時は会話が無い事が気になって落ち着かないっていうのに…今は沈黙も気にならない。
一緒に居るだけでなんだか落ち着くんだ。
なんでだろ…ドS王子の沖田さんが、今日は優しいからかなぁ…
「…新八くん…今日は大人しいんですねィ…」
「沖田さんこそ大人しいじゃないですか…退屈ですか…?」
「そんな事ありやせん…なんかスゲェ落ち着くんでィ…新八くんと居ると…」
「それ、僕もです…沈黙が全然気にならなくて…相手が沖田さんだからですかね…?」
同じ事を想っていたのが嬉しくて僕が笑うと、くっついている背中を伝って沖田さんも笑ったような気がした。
今のこの時間が凄く楽しくて幸せで…これからもずっとこんな風に出来れば良いのに…なんて思ってしまった…そんな事出来る訳無いのに…
「新八くん…これからも一生俺の隣に居てくれやせんか…?」
ふと、背中からそんな声が聞こえてくる。
一生かぁ…それも良いかも………
………ん?………今………沖田さん何て………?
「おっ…!?沖田さんっ!?あのソレどういう…!?え…!?プッ…プロポー…」
「何ででィ。俺にはそんなシュミありやせん。」
慌てて振り返った僕の方に、面倒くさそうに振り返った沖田さんは呆れ返ったような目で僕を見てて…
イヤイヤうん!そうだよ!そりゃそうだよ!!
「僕にもありませんよ!!沖田さんが一生隣にとか紛らわしい事言うからっ!!ビックリしましたよ!!!」
「俺もまさかそんな風に思われるとは思いやせんでした。何?新八くん俺の事好きなんで?」
「好きですけど!そういう意味じゃありません!!」
僕が膨れると、ふわりと微笑んだ沖田さんが僕の頭を撫でる。
うわ!うわ!うわっ!!
こんな顔反則だァァァ!!!
「俺も新八くん好きでィ。だから一生もんの友達になれると思って言ったんですけどねィ…童貞メガネくんは全部をイヤらしく考えるんですねィ…コエー」
「違ぇっしゅ!!」
僕がペシリと沖田さんの頭を叩くと、僕の手を掴んだ沖田さんが嬉しそうに笑って抱きついてきた!?
すぐに押しやろうと胸に手を当てたら、僕に負けず劣らずの鼓動がそこから手に伝わってきて…
押しやるはずの僕の手は、背中に回ってその暖かい身体を引き寄せてしまった。
「すぐにそれ以上になりやすけど…まずは友達からお願いしやす…」
「…そうですね…意外と可愛いって思っちゃいましたから…よろしくお願いします。」
『それ以上』ってのがどこまでなのかちょっと怖いけど…
でも、この人の隣は凄く居心地が良いものだって知ってしまったから。
僕が隣に居られる間は居たいなぁ…なんて思ってしまいました。
END
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