そしてバレンタイン当日。
俺の期待通り、新八はいつもの時間に見廻りしている俺を見付けて駆け寄ってきた。
何故か、女の格好をしていた。
「おぅ、新八ィ。今日はえらく可愛らしい格好してるじゃねぇか。」
「おっ…沖田さんっ…!コレはこの後かまっこでバイトで…あっ、あのっ…それより、ちょっとお話がっ…!」
…何でィ…何を仕掛けてくれるんでィ?
まぁ、こんな可愛いカッコの新八に騙されるんなら良いか。
俺が大人しく肯くと、安心したように新八が笑って、俺の手を引いて人気の無い公園のベンチへ移動する。
大胆だねぇ、手ぇ繋がれちまった。
「どうしたィ、こんな所に連れ込んで。焼きそばパンでも買ってくるかィ?新八先輩。」
「何で焼きそばパンなんですか!?僕が沖田さんをパシリに出来る訳無いでしょう!?そんなんじゃありませんっ!」
「じゃぁ、愛の告白でもしてくれるんで?」
俺がニヤリと笑ってそう言うと、新八の顔が真っ赤になる。
…何でィ…本当に告白なんて…無ェだろィ…?
ねェよな…?
「あっ…あのっ…コレっ…沖田さんにっ…」
新八が、綺麗にラッピングされたデカイ薄っぺらいモノを俺に差出す。
…何でィ…もしかして…ちょこ…
「あのっ、あのっ、いつもお世話になってるんで…ぼっ…僕っ…」
俺がガサガサと包みを開けると、でっかいハート型の煎餅…
「あのっ…おせんべい好きって言ってたんで…あの…感謝の気持ちで…あのっ…」
「…ハート型ですぜ…?」
「あのっ…あのっ…!」
新八がこれ以上ない、ってぐらいに真っ赤になる。
あれ…?俺をひっかけるんじゃ…?
そこら辺の木の陰に、チャイナや旦那が居て笑ってるんじゃねぇのか…?
「新八ィ…旦那やチャイナは何処に居るんでィ…?」
「…2人が気になるんですか…?今、沖田さんと話してるのは、僕なんですよ…?」
「イヤ、気になるっつーか…マジでか…?」
首をかしげて疑うような目で見ると、俺が何を言いたいのか察した新八が涙目になる。
「なっ…何ですかっ!僕は本気でっ…!」
…新八ィ…肝心な事何も言ってねぇよ、オメェ…
俺はそんなに自信家でも無いし、察しも良くねェよ…
「本気で何なんでィ。俺ァ何も聞いてねぇよ?感謝の気持ち、なんだろィ?」
「あっ…!…沖田さんっ………僕…僕っ………」
真っ赤になって涙目の新八が、俺を見上げる。
畜生…可愛すぎるんだよ…
「俺ァこう見えて短腹なんですぜ?」
「見たまんまじゃんっ!…って…あのっ…僕…僕はっ…沖田さんの事っ………」
まぁ、こういうのは男から言うモンですかねィ…
「新八ィ、好きだ。」
「好きですっ!…えっ…?」
新八が、ポカン、と俺を見る。
「聞こえなかったかィ?俺ァ新八の事が好きだぜ?」
ポカン、としたままの新八をぎゅっと抱きしめると、ぴくりとはねた肩が震える。
…アレ…?もしかして本当に引っかけ…?
そう思ってると、そろりと俺に腕が回されて、新八の顔が有る辺りの隊服が濡れる。
「しっ…新八ィ…?」
「…本当…ですか…?僕…引かれると思って…せめて女の子の格好してたら…意識して貰えるんじゃないかって…」
…泣いて…る…?
「本当に決まってんじゃねぇか!俺ァそんな事ァ嘘つかねぇや!新八、好きだ。男とかそんな事は関係無ェ。俺ァ新八だから、好きになったんだ!」
俺が更に力を入れて抱きしめると、新八もぎゅうと抱き付いてくる。
「嬉しいです…僕達…両想いなんですよね…?」
「おう。」
やべぇ、顔が緩んじまわぁ…
「あ、じゃぁ…本当なら今日ちょこれいと貰えるハズだったんで?」
俺が抱きついたまま耳元で言うと、新八がびくりと跳ねる。
「うえっ!?はいっ…チョコ買ったんですけど…沖田さんチョコ嫌いだって言ったんで…おせんべいにしました。」
「…あー…しくじった…嫌いなんて言わなきゃ良かったィ…」
「えっ!?だって、チョコ嫌いだって…」
新八が慌てて顔を上げるんで、ちゅっと唇を奪ってみる。
あ、おもしれー、又真っ赤になった…
「ウソでさぁ。どうせ新八からは貰えねぇと思ってたんで、嫌い、って事にしとこうかと…」
「なっ…じゃっ…じゃぁ持ってきますっ…」
「いらねぇや。もっと甘いモン貰ったし。」
俺がぺろりと新八の唇を舐めると、更に顔が赤くなる。
へへっ…可愛いねィ、俺の恋人は…
その後2人で新八の家に行って、買ってあったっていうちょこを2人で喰った。
ちょこれいとは甘くて美味かった。まぁ、新八ほどではないがねぇ。
勿論、煎餅も喰ったぜ?
当然その後のバイトは行かせなかったぜ?こんな可愛い恰好でおっさん達にちょこれいと配るなんて危険な事させられねぇぜ!
さぁ、これからは甘い甘い生活になりそうですぜィ!
なんせ、いつも傍に新八が居るんですからねィ!
END
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