総子ちゃんと新八くん
※沖田さんが総子ちゃんですが、沖新です。多分。


2月初めのとある日。
ここ、真選組屯所ではついぞ見られる事が無かった光景が現在進行形で繰り広げられていた。
其処に立ち入る事など無い筈の人物が、皆の想像をはるかに超えた格好でその場所に立っていたのだ。


「総子ォォォ!?オメェ台所に何の用だ!?マヨに何か仕込むつもりじゃねェだろうなァァァ!?」

冷蔵庫にマイマヨを取りに来たX子は、その光景を見て絶叫した。
その声を聞きつけた退子も勲子もその他の隊士達も、一目散に台所に向かって突進した。

総子の悪戯は洒落にならない。
つい先日も大切なランチに悪戯をされて、おっさんの食べ物にされてしまったのだ。
乙女としてはそんなモノは食べられないのだ。
それは、なんとしても阻止しなくてはいけないのだ。

しかし、台所に駆け付けた皆が見たモノは…


「何って…もうすぐバレンタインディですからねェ。だいっスキな彼氏に渡すチョコを手作りしてるに決まってんじゃありやせんか。あ、X子さんには関係無ェ事でしたねィ。」

上着だけ脱いだ隊服の上にフリフリエプロン、頭には三角巾を着けた総子が、ほっぺたにチョコを付けながらも一生懸命大きなハートの型に溶かしたチョコレイトを流し込んでいた。

「かっ…彼氏ィィィ!?」

「ちょっと!総子彼氏居たのぉ!?」

「誰よ誰よ!?」

「客に手も握らせないで太夫になったオマエが彼氏!?いつの間に!?」

瞳孔を開ききったX子も、鼻息を荒くした勲子も、全員喰いつきは半端無い。
無双集団真選組隊士と言えども今はオンナノコ。恋愛トークには目が無いようだ。

「客になんざ握らせるモンは有りやせん。でも…彼氏には握らせるモンなんて…いっぱいありまさァ…」

ポッと頬を染めて照れる姿は元々の容姿の良さも相まってとても可愛らしい。
しかし、それは総子のキャラからは思いもよらないモノで、X子は顎が外れんばかりに驚いていた。

「えー?だれだれー?」

「万事屋のおじさま?」

「違うよぉー!さちおオーナーでしょ?」

「月雄さんじゃない?イケメンだし!」

好き勝手なラブトークに、頬を染めていた総子がムッと顔を歪める。

「なんでそんなヤツラしか出てこないんでィ!客にもしねェよ、んなの。もっと居るだろィ…格好良くて可愛いコが!!」

ぷっくりと膨れながらもお相手を想い出したのか、総子の顔が緩んで頬が染まる。
その姿はすっかり恋する乙女で、いつものドSな太夫のものでは無かった。

「え!?十兵衛さん!?」

「まさかお妙さん!?」

ざわつく隊士達に見当違いな名前を出されて更に機嫌が悪くなるものの、名前が出ない事に少しだけ安堵する。

「そんなヤツラより100倍格好良いんでィ!やっぱりあのコの良さはワタシしか解らねェんですねィ…」

ぷぅっと膨れながらも満更ではない。
あのコの格好良さも可愛らしさも素敵さも、全部自分だけが知っていれば良いのだから。

すっかり手が止まってしまっていたチョコレイト作りを総子が再開し始めると、真相を有耶無耶にされた隊士達が騒ぎ出す。

「えー?気になるぅー」

「総子ー!誰なのー?」

「ライバル増えるから教えてやんねー」

べーっと舌を出しながらも嬉しそうにチョコレイトを作る総子はもう話を聞かない。
おぼつかない手つきで、それでも大切そうに作業を進める姿を見守っていたX子はその傍らに完成予想図を発見する。

それは…

「………メガネ………って新八か!?」

「テメェ土方盗み見してんじゃねェよ!」

顔を赤くしながら焦って完成予想図を隠す総子に驚愕する一同。
イケメンって…何だろう…?なんて失礼な事を思っているのは内緒だ。

「テメェら何驚いてんでィ!新八くんぐれェ可愛くて格好良いコは居ないんですぜ!男の時は俺があんあん言わせてたけど、女になっちまったから今は俺があんあん言わされてやってんでィ。ちょー色っぽくてちょー優しくてちょーきもちいんだからな!」

ふん、と胸を張って言いきった総子に生温かい目を向ける者とガッカリと肩を落とす者。

それでも、嬉しそうに幸せそうに、大好きなヒトの為に慣れないチョコレイト作りをする総子を見守る大人達は、心がほっこりとして、つい二人の幸せを祈ってしまったのだった。


END