さんずぃ〜沖新
今日7月8日は、サディスティック星からやってきた王子様と名高い沖田君の誕生日だ。
そんなに親しくも無い僕がなんでそんな事を知っているかというと、何故か最近、僕の周りでその話題を良く聞くからだ。
僕の姉さんをストーキングしている近藤君が家に来てる時、珍しく仲良さげに姉さんと話してたり。
いつもは喧嘩ばっかりしている神楽ちゃんや土方君が話していたり。
地味仲間で、良く話をする山崎君が話題にしてきたり。
なんだかんだ言って、みんな沖田君の事好きなのかなぁ…とかちょっとほのぼのと聞いていたけど…
本当は、心の中でガッツポーズしてたんだ。
だって僕は…こんなのおかしいかもしれないけど、沖田君の事、すっ…好きだから…!
だから、沖田君の誕生日に告白しようって…決めてたから…
折角の誕生日に、暗黒歴史を刻んでしまうのかもしれないけど…でも、振られる時はきっと酷い目に遭わされるんだろうから…
だって、サディスティック星の王子様だもの!
それぐらい、仕返ししても良いよね…?
プレゼントも、しっかり用意した。
1週間ぐらい前に、近藤君が大きな声で聞いてたのを耳にしたんだ。
『総悟!今年の誕生日は……何が欲しいんだ?』
途中ちょっと聞こえなかったけど…でも、凄いチャンスだよ!
『なっ…!?あー…スポーツタオルですかねェ…アレなら何本有っても足りねェし…』
タオルかぁ…そう言えば、体育の時間に顔洗った時に、いつも僕のタオル奪っていくよな…
沖田君に似合いそうなの、選んでプレゼントだ!
…とか張り切って、その日のうちにショッピングセンターに行って沖田君が好きそうなスポーツタオルを買ってきた。
シンプルなブルー地に、Sの文字…手触りがふかふかで、すっごく気持ちいいんだ。
喜んでくれると良いなぁ…
綺麗にラッピングしてもらったプレゼントを鞄に潜めて、ドキドキしながら沖田君が登校してくるのを待つ。
どうしよう…どんなタイミングで渡そうかな…やっぱり放課後かなぁ…
今か今かと教室のドアをチラチラ見ていると、もうすぐ始業のチャイムが鳴るってタイミングで何か大きな荷物が入ってくる。
なっ…何だ…?
良く見るとそれは両手一杯に何かを持った沖田君で…
「どうした総悟!?今日何か有ったか?」
よろよろと歩いてくる沖田君を、近藤君が支えてあげてる。
良く見ると、その荷物は全部綺麗にラッピングされてて…
え…?もしかしてあれ、全部誕生日のプレゼント…?
「…俺の誕生日でさァ…アンタらがあちこちで言いふらしてたんで、こんなんなっちまったんでィ…」
ぐったりと座り込んで、僕に『はよー』と手を上げてくれる。
…どうしよう…沖田君がこんなにプレゼント貰うなんて、思ってもみなかった…
「よーよー!ぱっつあんはプレゼントくれないんで?」
「は?僕?そんなに貰ってるのにまだ足りないの!?」
「友達じゃねェのかよー祝えよー」
「はいはい、おめでとー」
「ちぇっ…」
沖田君が机に突っ伏してしまう。
折角のチャンスだったけど…こんなの見た後じゃ渡せないよ…それに…僕は告白もするんだ!こんな皆の前でなんて、恥ずかしいよ…
その後、休み時間ごとに貰ったプレゼントのラッピングを外すのを手伝わされた。
剥いてみると、ビックリするぐらい、全部スポーツタオルで…
…ますます渡せないよ…
「…やっぱりな…近藤さんが教室であんな事言うから…オリジナリティねェなァ…」
「そんな…皆沖田君が欲しい物、って思って選んでくれたんだよ…?」
「ぱっつあんは優しいねェ。」
にこりと笑われるけど…僕も同じだから言えないだけなんだ…
放課後になって、沖田君が部活に行ってしまう。
結局、僕はプレゼントを渡す事なんか出来なくて…
どうしよう…今更…だしな…新八のSでもあるし…自分で使おうかな…
気付くと教室にはもう誰も居なくて、僕も重い腰を上げて立ち上がる。
とぼとぼと家に帰ろうと歩きだすと、ガラリと教室のドアが開いて沖田君が駆け込んでくる。
「…間に合った…!新八くん、寄こしなせぇ。」
ずいっと手を差し出して、僕に迫ってくる沖田君の顔は真剣で…真っ赤だった。
ってか、僕がプレゼント持って来てるって何でばれてるんだ!?
「なっ…何が?僕が沖田君に渡すモノなんて…」
「有るだろィ?」
しらばっくれようとしても、決して逃がしてくれない雰囲気で…
チャンス…なんだよな…プレゼントは渡せなくても…僕の気持ちだけは…でも…
「…もう、いっぱい貰ってるんだから…いらないじゃないかよ…」
「新八くんのは別でさァ。」
「…うん…僕のは…愛がこもってるんだからな…」
「それが欲しいんでィ。」
…さらっと告白したら…さらっと流された…?
「…だから…っ…!」
「好きなヤツからプレゼント貰いたい男心、判りなせェ。」
さらっとそう言って、ニヤリと笑う。
…今…好きなヤツって…
「え…?」
「だから、俺ァ新八くんのプレゼントが欲しいんでィ。さっさとタオル、寄こしなせェ。」
鞄の中からラッピングしたスポーツタオルを出して沖田君に渡すと、すぐにガサガサとラッピングを開けて、タオルを広げて首にかける。
わ…やっぱり似合う…
「恋人の初めてのプレゼントですからねィ。大事にしまさァ。」
にこりと笑って、ちゅっと唇に温かい感触が…
「え…?こいびと…?」
「俺達両想いだろィ?なら、もう恋人でさァ。」
来月、楽しみにしとけよ!と僕に言って、沖田君が走って行ってしまった…
え…?何…?
こいびと…って…
僕の想いは伝わったの…?
力が抜けて座り込んでしまったけど、唇が、身体が熱くて、一瞬だけ触れた柔らかい感覚が離れない。
半信半疑のまま迎えた翌日、僕は沖田君によってそれが本当であると、嫌というほど思い知らされた。
嬉しいような、恥ずかしいような…やっぱり嬉しくて。
本当に本当なんだって実感したから、大好きです、ってちゃんと沖田君に伝えた。
END
真っ赤になったサディスティック星の王子様、なんて珍しいものが見れたのは、恋人の特権なのかな…?
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