18・嫌いなら嫌いと言え


この時間、いつも僕が買い物に行くのは、アノ人に逢えるから。
ホントは買い物も当番制なんだけど、あえていつも僕が行ってる。銀さんや神楽ちゃんに買い物任せると、万事屋の経済は破綻しますっ!って誤魔化して…
だって、たまたま神楽ちゃんに押し付けられて2日連続で買い物に行ったら、同じ時間・同じ場所に居たんだもん!普段なら、すっごく探し廻らなきゃ逢えないアノ人…沖田さんがっ!
いっつも見廻りサボってると思ってたのに、意外と真面目なトコあるんだな、って気になって、顔を合わせてお話してたら話しやすくて…無防備な笑顔を見せてくれるようになったら可愛いな、って思っちゃって…

気が付いたら、好きになってた…

僕も沖田さんも男なのに…こんなの変だ、って思うけど…でも!好きって気持ちが止まらない!!
今は友達としか思われてないけど…いつか…好き、って思ってもらえたら嬉しいな…

そんな事考えながらいつもの道を歩いていると、今日もやっぱり同じ時間に沖田さんがやってきた。

僕は沖田さんに駆け寄って、精一杯の笑顔で、

「こんにちわ、沖田さん!いつも見廻りご苦労様です!!」

と、言う。いつもそれに、ニヤリと笑って返事をくれる。その笑顔も好きなんだ…

「おぅ、新八ィ…」

…あれ…?何か変…今日はなんだかよそよそしい気がする…機嫌悪いのかなぁ…

「どうしたんですか?土方さんと、喧嘩でもしました?」

僕がアハハ、と笑って言うと、キロリ、と睨まれる。
あれ…?僕何かマズイ事言ったかな…?

「土方さんの名前、聞きたかねぇや。」

怖い目のまま沖田さんが呟く。
珍し…いつも喧嘩したら、土方さんの文句をつらつらと並べ立てるのに…

ちょっとおかしい気はするけど、それでも逢えた事が嬉しくて、僕は一方的にだけど沖田さんとお話する。
今日の神楽ちゃんの話とか、銀さんが朝からパチンコで負けてきた話とか。でも…いつもなら、そんな話に乗ってきてくれる沖田さんの目はずっと怖くて…たまに溜息なんかついてる…

なんで…?僕の事、厭になったのかなぁ…

…イヤ、沖田さん、別に僕の事好きだなんて一言も言ってない…本当は僕の事なんて嫌いだったのかも…でも沖田さん優しいから…僕に話を合わせてくれてたのかも…僕がそれに気付いて無かっただけなのかも…

黙り込んで、それでも隣を歩いてる僕を、沖田さんが覗き込んで、首を傾げる。

「どうした、新八ィ。話はもう終わりですかぃ?」

沖田さ…ん…
それでも僕に声を掛けてくれた事が嬉しくて、顔を上げた僕の目に飛び込んできたのは、何か汚物でも見るような目で僕を見ている沖田さんの姿だった…

…なんで………?

もしかして…僕の気持ちが沖田さんにバレちゃったの…?男なのに、そういう意味で沖田さんを好きなのが…キモチワルイ…?

僕が固まっていると、舌打ちが聞こえる。
そんなに…厭なら…

「嫌いなら嫌いって言えば良いじゃないですかっ!そんな遠まわしに…僕の気持ち、厭ならはっきり言って下さい!!」

思わず叫んでしまった…
沖田さんがビックリした顔で、キョトンとする。

「何…の話ですかぃ…?嫌いって…誰がそんな事言ったんでぃ。それに、新八の気持ちってなぁ何ですかィ?俺ァ何にも聞いてやせんぜ?」

「だって沖田さん!…目が怖いし…溜息ついたり…僕の話、全然聞いてないし…舌打ちしたりするし…」

僕がうつむいてちょっと泣いてしまうと、沖田さんが僕の肩を掴む。何かと思って顔を上げると、まだ怖い目をした沖田さんが、僕に近付いて来て抱きしめる。

…ちょっ…何!?なっ…何…!?

おそるおそる背中に手を回して抱きつくと、沖田さんの体が熱い……あつい…?
慌てて沖田さんの額に手を当てると…

熱いっ!!

ちょっ…何コノ人!!すっごい熱っ!!

「沖田さんっ!すごい熱じゃないですかっ!!何、真面目に見廻りしちゃってるんですかっ!?こういう時は休んでも良いんですよ?」

僕はなんとか体勢を変えて、沖田さんの肩を担いで真選組屯所に向かう。

「…見廻りしねぇと、新八に逢えねぇじゃぁねぇですか…」

沖田さんがぼそりと呟く。
……え……?僕に逢いに来てくれてたの…?もしかして、毎日同じ時間同じ場所に居たのは…僕がその時間に買い物に行ってたから…?

「新八に逢えなきゃ、見廻りなんてサボリまさぁ。アンタに逢いてぇから…同じ時間、同じ場所に毎日行ってんだぜ…?判ってなかったのかィ…」

そんなの…知らないよ…

「…僕も…僕もそうですよ!!沖田さんに逢いたいからっ…だから…毎日買い物に…」

僕が慌てて言うと、目が笑ってないまま口だけで、へへっ、と沖田さんが笑う。

「なんでぃ…俺達ァ両想いだったんじゃねぇか…」

「…ホントですか…?また僕の事、からかって遊ぼうとしてるんじゃないんですか…?」

あんな目で僕を見てるのに…僕の事好きなんて…信じられない…

「…いくら俺でも、んな事ァ嘘でなんざ言わねぇやぃ。…好きでさぁ、新八ィ。恋人になって下せぇ。」

「なっ…何言い出すんですかっ!?…本当に…そういう好きなんですか…?だって僕…男ですよ…?」

はぁ、と溜息をついて、肩を貸してた僕の前に回って抱きしめる。

「だから、好きだって言ってやす。本気に決まってるだろィ。俺と…つきあって下せぇ。」

沖田さんがニヤリ、と笑うけど、やっぱり目が笑ってないよ…

「…本当に本当なんですか…?」

僕がまだ疑いの眼差しで見ると、沖田さんが悲しい顔になる。

「こんだけ言っても、まだ信じて貰えやせんかぃ…?じゃぁ、これなら信じてくれやすかィ…?」

もの凄い早業で、沖田さんが僕にキスをする。
ちょっ…避けるヒマ無いよっ!?
熱のせいか、沖田さんの唇は凄く熱くて…とろけそう…
僕がゆっくり沖田さんの背中に手を回すと、ぎゅっと強く抱き締められる。

…本気…なのかな………

ゆっくり唇が離れて、僕の目に真剣な顔の沖田さんが飛び込んでくる…

「チッ…もう来やがった…」

「えっ?何が…」


「沖田たぁーいちょぉぉぉぉぉ―――――!どこですか―――?」


山崎さんの叫び声が聞こえる。
え!?気配なんかしなかったのに!!

「あ、居た!あれ?新八君こんにちわ。あー、ごめんね?沖田隊長が迷惑かけたね。風邪で熱有ったから、朝から自室で寝かせてたのに、いつの間にか居なくなってて…もう!隊長ダメですよ!アンタ熱有ると目付きがものっ凄く悪くなるんですから!!これ以上真選組の評判落とさないで下さい!」

腰に手を当てて、山崎さんが怒る。
ぷぅ、と膨れた沖田さんが、ぼそぼそと反論する。

「真選組の評判なんざ、これ以上落ちねぇよ。」

「まぁ…そうですけど…って、そうじゃないでしょ!!それに、アンタ熱有る時心の奥で思ってる事何でも言っちゃうでしょうが!!機密事項喋られちゃ困るんですよ!…新八君、何か言われ…あれ?新八君?」

僕は真っ赤になって固まった。
そっか…目付きが変だったのは、熱のせいなんだ…それに…心の中で、って…
本当だったの…?沖田さん、本当に僕の事…

「沖田さん!僕…僕も好きです!大好きです!!」

僕が沖田さんをぎゅうと抱きしめると、沖田さんも抱き返してくれる。
…えへへ…幸せ…

「何!?何が!?新八くぅーん、早まらないでっ!コノ人ドSだよ?俺の方が優しいよ?ちょっ!わぁーっ!!何すんですか!?たいちょ―――っ!!」

沖田さんがもう1回僕にキスをして、幸せそうに笑って僕の方に倒れてくる。
…うわっ!?熱上がってる!!
呆然としてる山崎さんに手伝ってもらって、沖田さんを屯所に運んで自室に寝かす。

熱のおかげで僕ら両想いになれたけど、あんな目で見られるのはもう嫌だな…
沖田さんにはずっと健康でいてもらおう!これからは…僕が健康管理、するから…ね…?


END