がらっ
イキナリ浴室のドアが開き、ガヤガヤと大勢の人達が入ってきた…
「何でこんな所にテメーがいやがる!!」
「それはこっちの台詞ですぅ―。何?多串君、俺のストーカー?」
「んだと、ゴラァ!?」
「まぁまぁ、これも何かの縁ですから仲良くしましょうよ。」
…聞きなれた声と会話だ…何でこの人達がこんな所に…?
騒がしく現れたのは、銀さんと真選組の皆さんだった。
僕と沖田さんがとっさに離れて固まっていると、銀さんがわざとらしく声を掛けてくる。
「あれぇ?新八君。君達もこの旅館だったんだ?何かババァが温泉連れてってやる、って煩くてさぁ。いやぁぐーぜんぐーぜん。そーいえば玄関でお妙に会ったぜぇ。すまいるの親善旅行らしいよ?」
…姉上…納得してくれたんじゃ………って、
「ちょっと!何でアンタ達このクソ狭いスキマに入ってくるんですかっ!」
銀さん、土方さん、山崎さんが僕と沖田さんの間に入ってくる。そして、近藤さんが逆側の僕の隣に入ってきた。
「新八君、スマンな…お妙さんに君の貞操を守ってくれと頼まれてなぁ…急遽真選組の慰安旅行を、今日この場所でやるようになったんだ…スマンなぁ…総悟と新八君の邪魔はしたくなかったんだが…」
…貞操って何だよ…別にそんな事…無くもないけど…
ひどくすまなそうに、近藤さんがどんどん小さくなっていくので、この人を怒る事なんて出来なくなった。
「いえ、こちらこそ姉上のワガママに付き合わせちゃって…すみません…」
僕と近藤さんがペコペコと謝り合っていると、沖田さんが僕の手を引いた。
「新八ィ…部屋に帰りやしょうぜ…」
沖田さんは忌々しげに吐き棄て、風呂場を出ていく。僕も後に続く。
「あ、新八くーん!後で僕らの部屋に遊びにおいでよ―?僕らの部屋、隣だから。」
山崎さんがヒラヒラと手を振る。
…陰謀のニオイがする…こんな所で国家権力使ったんじゃ…
う―――っ、折角の旅行なのにっ!初めて沖田さんと2人っきりで静かに過ごそうと思ってたのにっ!!
…部屋に帰ると、そこには神楽ちゃんと姉上が居た。この部屋にセキュリティは無いんですか…?
「新八―!ワタシも来たヨ―!!」
神楽ちゃんと定春が僕に飛びついてくる。
「新ちゃん、このケダモノに何もされてないでしょうね?私が来たからには安心して良いのよ?」
姉上が微笑む。…怖いよ、怖いよ姉上っ!!目が笑ってないよ!!
沖田さんの機嫌が更に悪くなる。
皆好き放題やってくれるけど…僕だって怒る事は有るんだけどなぁ…
「神楽ちゃん、姉上…納得してくれたんじゃなかったんですか…?僕、言いましたよね?この旅行、すっっっっっっっっっっっっっっっっっごく楽しみにしてるって。何でこんな事っ…」
ホロリ、と僕の頬に涙が1粒こぼれる。
「ごっ…ごめんヨ、新八っ…ワタシ達部屋に帰るアルヨ〜!泣かないでヨ〜!!」
「…新ちゃん…何かされそうになったら逃げてくるのよ?私達は隣の部屋だから…」
凄く焦った神楽ちゃんと、不審げな姉上がそそくさと部屋を出ていく。沖田さんが心配そうに隣に座って、ぎゅっと抱きしめてくれる。
「新八ィ…泣かないで下せぇ…ここまでされるのを予想できなかった俺のせいでさぁ…」
僕はニヤリと笑い、沖田さんの口に指を当ててしぃ――――っ、と言ってから隠し持っていた最終兵器目薬を取り出す。
「ウソです。泣き落とせば、姉上折れてくれるんですよね。」
僕がクスクス笑って言うと、呆れたように笑って、ちゅっ、と軽く口付けられる。
「悪いお人ですねぇ。」
「どうせすぐに煩くなるんですから、今ぐらい静かにしたいでしょ?」
沖田さんもクスクス笑って、素早く口付ける。ぎゅう、と抱きしめられて、そのまま深く…
ばんっ
「新八君―、遊びに来たよ―?」
「新ちゃ―ん、ご飯は一緒に食べようね―?」
…一瞬で1mぐらい飛び退ってしまった…
座卓を挟んで、僕がコポコポとお茶をいれ、向かいで沖田さんが湯飲みを持つ。
「「ちっ…」」
乱入してきた2人が何故か舌打した。舌打したいのはコッチの方だよっ!!
「あ―、2人ともいらっしゃいませっ。お茶飲みますか?」
「いただこうかな―。」
山崎さんが座り込む。目が笑ってない。
「銀さんもお茶貰お―っと。新八の淹れたお茶飲まないと、なぁ―んか調子出なくって。」
銀さんも座り込む。殺気がダダ洩れですが…?
4人で座卓を囲んで、和やかに世間話なんかしたりして…2人の機嫌が良くなっていくのに比例して沖田さんの機嫌はだんだん悪くなっていく。あ―あ、僕もションボリだよ。
「そろそろご飯にしないかい?2人の分も俺たちの方に運んでもらうようにしてあるから。寂しいでしょ?2人っきりじゃ。折角だしね。」
山崎さんが笑顔で宣言する。
…手回し良いな、オィ…
少っっっっっっしも寂しくないよっ!むしろ2人っきりにしてよっ!!
僕の心の叫びなんて全く無視して、山崎さんと銀さんが両側から腕を掴んでズルズルと引きずって行く。
沖田さんもしぶしぶついてくる。宴会場に行くと、皆さんもうすっかり出来上がっていて、速攻絡まれた。
料理は豪華で、皆してアレ食べろコレ食べろと取ってくれたり、飲み物もガバガバついでくれた。でも、沖田さんと席は離れ離れだったし、近付く事も出来なかった。気付くと沖田さんは居なくなってるし…
なんとか隙を見て部屋に戻ると、沖田さんが布団に潜り込んで不貞寝していた。
…もう寝ちゃってるんだ………
僕も沖田さんを起こさないように、こっそり布団に潜り込む。どうせ隣の布団なんだから大丈夫だろうけど一応ね。
ぼんやりと沖田さんの寝顔を見ていると、ぎゅう、と手を握られた。
「…っ、すみません、起こしちゃいましたか?」
「寝てねぇよ…こう、両側で聞き耳立てられてたんじゃぁ何も出来ないんで、寝るしかねぇけどね。」
「なっ…何する予定だったんですかっ!」
「キッチリ予定立てろ、って言ったのは新八じゃねぇかい。帰るまで分刻みでスケジュール立ててやしたぜ?」
「やっぱり分刻みだったんだ…」
「当然でさぁ。俺ぁヤル時はヤル男だぜ?ちなみにこの後は朝までヤリまくって2人の絆を深めてから、らぶらぶでえとをして帰る予定だったんですがねぃ…」
沖田さんが心底残念そうな顔で溜息をつく。イヤ、流石に…そりゃ、カクゴはしてきたけど、始めっからそんなに無茶されても…良かったかも…皆来てくれて………
僕の顔が引きつっているのが分かったのか、ふっ、と笑って前髪を撫でてくれる。
「安心しなせぇ、こうなったら何もしやせんよ。せめて朝まで手ェ繋いで寝るくらい良いでしょう?」
沖田さんが照れたような笑顔で笑う。
僕もクスリ、と笑って握られた手をぎゅっと握り返す。
「はい、せめて手を繋いで寝ましょう。」
向かい合って手を繋いで…何だか安心して、落ち着いた気分になる。
今日はグッスリ寝られそうで…………
「しまった!!2人が居ない!!」
「ついつい飲みすぎて寝ちまった―――――――!!」
次の日の朝、焦ったマダオ達が慌てて2人の部屋に向かうと、手を繋いでグッスリと眠る子供達を見る事が出来たそうだ。
END
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