1週間、俺は音女さんに料理やら武道やらなんやらかんやら教え込まれた。
あまりに忙しくて、何も考える暇も無く、落ち込んでるような余裕も無かった。
それは…きっと音女さんなりに、俺に気を使ってくれていたのかもしれない…
初七日も終わって、俺はそういつまでも学校を休んでいる訳にもいかず、久し振りに登校する事になったが…


「…歩いて行く…」

「無理ですって。」

「…いや、歩く…」

「遭難しても知りませんよ?」

「遭難!?」

「ほら、小さい車にしましたから。」

「…小さい…って…ベンツじゃねぇか!?デケェよ!!」


…俺が登校しようとすると、運転手が学校に送り迎えすると言ってきかない…そんなお坊ちゃんみてぇな事出来るかよ…
無視して俺が歩き出すと、知りませんからね〜?と言う声が聞こえる。
へっ、こっちは乗り物なんか滅多に乗らないでずっと歩いて来てんだよ。なめんな!





門に向かって1時間…出口はまだまだ見えない…





俺がナメてました、すんませんでした…と、心の中で思いつつも、今更そんな事は言えねぇし。
3時間かけて門を出て、更に1時間かけて学校に辿り着いた時には、俺は疲れ果てていて、がっくりと机に突っ伏した。
帰りに、校門に得意気な顔の運転手を見付けた時は、ムカついたけど、負けても良いと初めて思った。
又あんな距離を歩いて帰る気はさらさらねぇからだ…


次の日からベンツで送り迎えされる俺に、2年3年が絡み始めた。
金持ちなんだろ?小遣いめぐんでよ…とか、目つきが悪いんだよ…とか態度悪いんだよ…とか。
面倒だったけど、負けるのは性に合わねぇ。
もともと喧嘩は嫌いじゃ無かったし、音女さんに教わった武道もちょっとだけ役に立った。

でも、1人相手にすると、2人3人と次から次から湧いてきて、1か月も経った頃には俺は学校の天辺に立っていた。
そうなると、他校との喧嘩にも顔を出さなきゃならなくて…だんだん面倒になってきた。

運転手に待っててもらって、なるたけ早く終わらせなきゃなんねぇし…夕食に遅れると音女さん怒るし…
真選中の土方はしつこいし…

色々どうでも良くなって、引き籠ろうかと思ってるうちに、その事がもじゃの耳に入ったらしく、夕飯の席で音女さんと2人に囲まれた。

「…近ぇです…」

俺が言っても、怒るでもなく恐れるでもなくにへら、ともじゃが笑う。

「晋助、ワシの所に色んな話が入ってきちゅう。おんし、喧嘩ばっかりしちょるそうじゃのぅ。」

「…おう…」

「怪我は無かか?」

「…おう…」

「おうじゃなかー!」

油断してた俺の左目に音女さんの殺人パンチがヒットする…
めっ…目ぇ潰れる…!!

「アンタは!何しちゅうがか!喧嘩ばっかしよって…本当に怪我しちょらんがか!?」

「…してない…」

「なら良か!」

音女さんが俺をぎゅうぎゅう抱き締める。
痛い…ぐらいだ…

「でな、晋助〜、ワシら引っ越す事にしたきに。荷物纏めとくんじゃよ〜?」

「…引っ越し…?」

「車で行かなくて良い距離じゃ。」

又、にへら、と笑う。

…こいつは本当に…どこまで何を考えてやがるんだ…
でっかいんだか、馬鹿なんだか…判んねぇや…
こいつを理解するにはまだまだ時間がかかる…それまでは…癪だけど、一緒に居てやるか…


数日後、俺達が引っ越した先はそれまでの豪邸とは比べ物にならない位小さい家だけど、それでも俺から見たら随分とでっかい家だった。
音女さんも、しょっちゅう遊びに来て、俺に料理やら掃除やらを教え込んでいった。
相変わらず喧嘩はしてるものの、あの時の殺人パンチに比べたら、どんな攻撃もクソみたいなもんだった。

それから2年。
俺達はそれなりに上手くいっていた。
そろそろもじゃも…親父、って呼んでやっても良いかな…なんて思ってた矢先、アイツはもう1人子供を連れて来た。
それも、最悪な事に、そいつはアノ、真選中の土方だった…

「晋助〜!今日からこいつもここで一緒に暮らすぜよ〜!ほれ、十四郎、挨拶せんか〜」

「…よぉ…」

「…おう…」

「なんじゃ〜?2人は友達がか?偶然じゃのぅ。仲良くするぜよ〜?」

「親父…こいつは…」

「友達なんかじゃ…・」

俺達が、ものっ凄く嫌な顔をして親父を見ると、何故か泣いていた…何だ…?

「晋助〜!やっと親父ち呼んでくれたぜよ〜!」

俺に抱きついてぎゅうぎゅうと締め上げてくる。
あまりの事に土方に助けを求めるように目線を上げると、土方は呆然と俺達を見ていた。

チッ…空気読めねぇ奴だな…
やっぱりこいつとは絶対気が合わねぇ。
おんなじ物好きになる事なんて、一生無いんじゃねぇか?

それでも親父が連れて来たんなら、何か有るんだろ…
仕方ねぇ、少し、様子見てやるか………


続く