※ご本人もしくは身内の方が事故に遭っていらっしゃる方、グロテスクな表現が苦手な方は読まない事をお勧めします。
尚、読んでしまった後の苦情は一切お受けいたしません。
そーして、僕らは、家族になった。
ACT 2 土方十四郎
ぼくのおとうさんは、まいにちは家にいない。
おかあさんにきいたら、おしごとがいそがしいから、って言われた。
おとうさんは、おっきいかいしゃのしゃちょうさんだから、すごくいそがしいんだって。
すこしさみしいけど…
たまにあうおとうさんはやさしくておもしろいから、ぼくはがまんするんだ。
おとうさん、おしごとがんばってね!
◆
チビの頃は純粋に信じてたおふくろの話も、中学に入る頃にはウチは訳有りなんだ、って分かってた。
親父は本当にデカい会社の社長だったけど、おふくろは親父の愛人で。親父にはちゃんと奥さんが居て。
…他に居場所が有るから、親父はたまにしか家に来なくて…
まぁでも、それで俺達が生活に困ってる訳でもないし、特に支障なんて無い。
たまにやってくる親父は面白ぇし、おふくろとも、なんだかんだ言ってらぶらぶだ。
その上、親父が必要な行事にはどこから聞きつけるのか、必ず現れた。
そりゃぁもう、迷惑なくらいノリノリで現れた。
チビの頃は嬉しかったんだけどなぁ…流石にそろそろ鬱陶しい…
まぁ、そんな事言ったら更に鬱陶しくなるだけだから言わねぇけど…
おふくろも、親父が毎日居る訳じゃないからのびのび生きてる感じで…まぁ、良いんじゃね?
今も、受験生の息子を残して友達とフランスだかイタリアだかに旅行に行っている。
「たっくさんお土産買ってくるね~?」
とか言って出て行ったし…又なんかお洒落な服とかを山ほど買って送ってくるんだろうなぁ…
まぁ、自分で買わなくて良いから面倒くさく無くて良いんだけどな。
さて、勉強もひと段落した事だし、テレビでも観ながら飯でも食うか。
コンビニ弁当をレンジに突っ込んで、パチリとテレビをつけると、俺が観たかったバラエティ番組はやっていなくて…ニュース特番をやっていた。
何だよ、一体何が起こって…
『繰り返します!本日未明、エアジャパン・パリ発成田空港行1109便が太平洋上空にて行方を絶ちました。乗客乗員378名の安否は確認されておりません。繰り返します…』
…パリって…フランス…?
あれ…?…おふくろ…今日…帰ってくるんじゃ無かったっけ…?
何時…だ…?
飯を食おうと持っていた割箸が、ガタガタと震える。
何が…起こったんだ…?
そんな…まさか…まさかな…
俺の頭が軽くパニックを起こしだした頃、いきなり家電がけたたましく鳴り始める。
…まさか…まさか………
震える手で電話を取ると、聞こえてくるのは親父の声で、ありきたりなセリフが聞こえてくる。
「十四郎がか…?落ち着いて良く聞くぜよ…ニュースば見て知っちょると思うが…母さんの乗った飛行機が、行方知れずになってしもうた。すぐに坂本グループの情報網と私設部隊を使って探した…んじゃ…飛行機の残骸が…太平洋沖で、発見された…乗員乗客は…全員…生存の可能性は…無か…」
…嘘…だろ…?
こんな事が…俺に起こるのかよ…?アレだろ?親父はよくくだらねぇ嘘吐くから…今回も、アレだろ?俺を騙そうとして…
「…オ…ヤジ…笑えねぇよ…そんな騙し…引っかからねぇよ…?アレだろ?おふくろとグルなんだろ…?」
「…十四郎…これは本当の事じゃ。母さんは…事故に遭って、死んだ。」
「嘘言ってんじゃねぇよ!アレだろ!?まだおふくろ見付かってねぇんだろ!?誰が死んだって、おふくろだけは死ぬ訳ねぇよ!信じねぇ…信じねぇよ!俺はおふくろが死んでる所を見るまで信じねぇよ!!」
「見せられん!!」
「…は…?」
「…母さんは…発見した…一部…その他は…まだ、捜索中じゃきに…」
いち…ぶ…?
俺は受話器の前で吐いた。
空っぽの胃からは胃液しか出なかったけど、それでも俺は、吐き続けた…
それから数日、俺は親父の部下、って人に連れていかれて、くそデケェ屋敷で生活させられた。
そこには親父の姉さんだという、音女さんという女性が居た。
綺麗な外見に似合わず豪快なその女性は、俺が落ち込む暇も与えないぐらいこき使った。
飯は相変わらず食えなかったんで、飯の支度はしなかったけど、掃除とか掃除とか掃除とかたまに洗濯とか…
1週間も居る内に、俺は掃除を仕事に出来るぐらい、やれるようになった。
そして、そんな頃、やっとおふくろが日本に帰って来る事が出来た。
葬式は、全部親父に任せてあったけど…楽しい事が好きなおふくろが喜びそうな…良い葬式だったと思う。
最後のお別れと、見せられたおふくろは…まるで、眠っているみたいで…親父が、物凄く一生懸命おふくろを元に戻したんだと判った…そこかしこに小さな…本当に小さな縫い目が有ったから…
葬式も全部終わって、久し振りに自宅に帰ると、宅配便の不在通知が入っていた。
何かと思って連絡を取ってみると、運ばれてきたものは、おふくろがフランスから送った土産物だった…
なんだよ…こんなに…土産ばっかり送りやがって…自分が帰って来なけりゃ…仕方ねぇじゃねぇか…
ぐっと喉が詰まって、次から次から涙が溢れてくる…おふくろの…馬鹿野郎…俺は…これからどうすりゃ良いんだよ…
「十四郎…ちょっと良いがか…?」
すっかり気が緩んで俺に、突然親父が声を掛ける。
いっ…いつの間に…!?
ぐいっと涙をぬぐって親父に向き直ると、いつもはへらっとした顔しか見た事の無い親父が真剣な顔で俺を見ていた。
「な…んだよ…」
「お前これからどうするぜよ…ここで…1人で生きていくがか…?」
親父の目が、しっかりと俺の目を捉える。
話を先延ばしには…出来ない雰囲気だ…
「…良かったら…ワシと一緒に暮らさんか?屋敷とは別に家が有るんじゃ…どうじゃ?」
「…俺は…」
「ワシはのぅ、心配なんじゃ…お前を1人で置いておきとう無い…お前までアイツみたいに逝ってしもうたらと思うと…」
親父の目から、ボロボロと涙が流れる。
…全く…鼻水も垂れてるし…
俺がティッシュを掴んで鼻を拭いてやると、すまんのう、十四郎は優しい子じゃ~、とか痒くなるような事を言いやがる。
「…こんな親父、1人にしとくのは心配だからな…一緒に住んでやるよ…」
俺が言うと、がっしと抱き締められて頬ずりされる…
色々不安は有るけど…俺は…この親父が、意外と嫌いじゃない…
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