そーして、僕らは、家族になった。
ACT 3.5 沖田総悟
おとうさん?おかあさん?
それなに?おいしいの?
あいつらそんなのにべたべたしてさ!
がきじゃないんだからさ!
そんなのいなくたって、おれにはおねえちゃんとこんどうさんがいるんだ!
おれはふたりがいればいいんだ!
さみしくなんかないやい。
さみしくなんか…ない…
◆
ガキの頃から散々世話になった近藤さんが、結婚する事になった。
よりによって、絶対無理だって思ってたゴリラ女が、落ちやがった。
ゴリラ同士お似合いなんて言うんじゃねェよ!
あんなコブ付き女…近藤さんに似合う訳無いんだ。
そりゃぁ…見た目はちょっとキレイだぜ?それは認めてやらァ。
でもなァ、あんな凶暴な女の何処が良いんだよ!近藤さん、何回殺されかけたか知れねェや。
あのままこっぴどく振られて諦めれば良かったんだよ…そしたら…姉ちゃんと結婚して幸せになれたのに…
でも、世の中は俺に全く優しくねェ。
俺の望むようになんざなりゃしねェ。
それでも、えらく嬉しそうな近藤さんの顔を見ると、これで良かったのかも…なんて思う。
でも…やっぱり…
「それでな、妙さんには今中学生の娘さんが居て…」
「は!?中学生!?」
ちょっと待て!コブ付きとは聞いてたけど、中学生って…ゴリラ女幾つだ…?
「おぉ!確か総悟と同じ年だぞ?えらく可愛くってなー、パチ恵ちゃんって言うんだ!それも可愛いだけじゃなくてしっかり者でな?その上家事全般が得意で…料理も美味くてなぁ…あんな女の子が総悟のお嫁さんになってくれたら、俺も安心なんだがなぁ…」
近藤さんがしみじみと言う。
俺に良かれ、と思ってるんだろうけど、余計なお世話でィ!
「ゴリラ女の娘じゃ、たかが知れてまさァ…」
はんっ、と鼻で笑いながら俺があきれたように言うと、近藤さんがそうかー?と言う。
悲しそうな顔になってるけど…でも…
俺が近藤さんから目を逸らすと、なんだか反対側っからおっそろしい気配がする。
「…そーちゃん…?女の子にそんな事言うなんて…失礼よ?」
姉ちゃんの声が、いつもより低い気が…
「ごめんなさいお姉ちゃん!!」
条件反射で土下座すると、姉ちゃんの機嫌が元に戻る。
俺らの様子を見ていた近藤さんが、とりなすようにまぁまぁ、と言ってくる。
「まぁ、こればっかりは縁だからなぁ…でも、凄く良い子なんだぞ?可愛いし。」
「…はぁ…」
ゴリラ女の娘になんざ、興味ねェや…
「…なんでゴリラ女なんだよ…近藤さん、姉ちゃんと結婚すれば良かったのに…」
俺がボソリと呟くと、近藤さんがガハハと笑う。
「ミツバさんには俺みたいな男じゃ勿体無いだろ。ミツバさんだけを愛してくれる素敵な人が現れるさ。」
…そんな綺麗事聞きたくねェよ…
「近藤さんより良い男なんて居ねェよ…」
俺がそう言うと、本当に嬉しそうな顔で近藤さんが笑う。
「そんな事言ってくれるのは、総悟と妙さんだけだな!」
…近藤さんの良さを…あの女は判ってる、って言うのかよ…
見た目だけじゃ…近藤さんを良い男なんて言う女はいねェよ…
あいつは…近藤さんの中身も全部ひっくるめて好きだって言うのかよ…
「本当に。そーちゃんったら何言ってるの?言うに事かいて私と近藤さんが結婚?家族と夫婦は全く別物なのよ?」
うふふ、と笑う姉ちゃんが、又怖い空気を漂わせる。
なっ…何で怒るんでィ…?姉ちゃんも…そこらの女と一緒なのかよ…
「姉ちゃん…近藤さんの事嫌いなのかよ…」
「あら、好きよ?でもね、近藤さんはお父さんみたいなものだもの、結婚は無理だわ。」
「お父さんは酷いな、ミツバさん…」
「あら、ごめんなさい。でも、そうなんだもの。凄く…感謝してるのよ?近藤さんが居なかったら…私達姉弟は一緒には居られなかった…だから、近藤さんが好きになった人と結ばれて、本当に良かったと思ってるのよ?」
2人が穏やかに笑いながら、そんな事を話す。
確かに…姉ちゃんの言うとおりだ…だけど…やっぱり…近藤さんとずっと一緒に居たかった…
「まぁ、総悟も会ってみたらきっと考え方が変わるぞ?本当に可愛いからな!パチ恵ちゃんは!!」
近藤さん…まだ諦めて無いのかよ…
「止めてくんなせェ。俺だって理想の一つや二つ有りやすぜ?」
俺がそう言うと、近藤さんと姉ちゃんが目を丸くする。
「あら、そーちゃんったら。好きな娘居たの?」
「そうなのか?総悟…」
「…そいつに逢って…俺の全部が変わるんでィ。で、すぐに俺が告白して、付き合うようになって…家族ぐるみで仲良くなるんでィ。たまに、幸せか?なんて聞いて当たり前でしょ!なんて怒られて…でも、ゆっくりでも一歩一歩進んでって…2人で未来を掴むんでィ!」
…まだ逢ってねェけど…
「うふふ…早く見付かると良いわね、そーちゃん。」
流石姉ちゃんでィ…
でも、俺ァ理想高いからねェ…見付かんのかどうか…
「なんだ、まだ居なかったのか…ビックリしたよ。でもすぐに見付かるさ、総悟なら。あ、でもあんまり早く彼女が出来ちゃうと、俺の事忘れちまうかな?」
「そんな事ねぇよ!近藤さんはずっと近藤さんでさァ!!」
俺がそう言うと、にこりと笑った近藤さんが、俺の頭を撫でる。
…ゴリラ女の娘にも…こういう事、するんだろうねェ…
…ちくしょう…悔しい…悔しいでさァ…
もし…もしもその女に会う事があったら…苛めてやろうと心に決めた。
近藤さんがゴリラ女と結婚して、1年が経った。
その間に、小せぇ頃から一緒だった土方も、どっかに行っちまった。
おふくろさんが亡くなって、親父さんの所に引き取られたんだそうだ。
土方とは喧嘩ばっかだったけど…
居なくなると…複雑な気分だ…
まぁ、何が有ろうと俺の生活はさして変わる物でもない。
俺ァどうしようかと思ってたけど、高校くらいは行きなさいと姉ちゃんが言ったんで、一番近くの銀魂高校を受ける事にした。
ソコは意外とレベルが高いらしく、そのままじゃ無理っぽかったんで、一生のうちこれ以上しねェんじゃないかってェぐらい、勉強した。
準備は万端、姉ちゃんも張り切って弁当を作ってくれた。
「そーちゃん、頑張って!」
「はい。姉ちゃん行ってきます!」
自分の事のように張り切ってくれてる姉ちゃんの声援を背中に受けて、俺は一歩を踏み出す。
さて、まだ見ぬ君に、逢いに行きますかィ。
…?
なんでそんな事思っちまったのか判らねェけど、そんな事も有るかもな。
続く
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