そーして、僕らは、家族になった。

ACT 11 はじめての、でえと


今日は、待ちに待った沖田君とのデートの日です。
お父さんやお兄ちゃん達に見付かると又邪魔されちゃうんで、待ち合わせ時間には全然早いけど、誰よりも早起きして皆が寝ている間に出かけようと思います。

休みの日にこんなに早起きするなんて、今迄なら絶対に無かったけど!
沖田君とのデートの為なら頑張れたから不思議…
これってやっぱり、愛の力…?
なんて!ひゃぁぁぁぁ…恥ずかしいよぅ!!

本当なら、お弁当も作って行きたかったけど…あんまり音たてられないから、しぶしぶ諦めた。

デートの準備は、全部音女さんのプレゼントを有難く使わせて貰いました!
こんな可愛いのなんて、全然無かったから…いつもとは違う私を見せて、沖田君に見直して貰うんだ!

頑張ってアイロンで巻髪にして、音女さんがコレが一番可愛い!って言ってくれたワンピースを着る。
いっつもは動きやすいのを選んでたから、こんな可愛いのは着た事無かった。
でも、本当はちょっと憧れてたんだ…ふわふわのワンピース。

そして、ワンピースに絶対似合う!って思ったシュシュで髪を2つに纏める。今日は三つ編みにしないで、ちょっと大人っぽくキメてみる。

この間教えて貰ったお化粧も頑張って…
目を描いたりまつ毛を塗るのはまだ怖くて出来ないから、ファンデーションを塗って頬紅でピンクにして、口紅をつけて。
ビューラーで、くるん、とまつ毛を巻いたら出来あがり!
いつもの私より、ちょっとだけ可愛くなった気がする。
…気がするくらい、罰は当たらないよね…?

最後に香水をちょっとだけ付けてみる。
音女さんが、パチ恵ちゃんの香りよ?ってくれた甘い香り。
ちょっとだけなら沖田君にも嫌われないよね…?

最後に、このワンピースには絶対コレだから!と言われたバックとサンダルを持って、鏡の前でくるりと回ってみる。
ワンピースのすそがふわりと広がって凄く可愛い!
やっぱり音女さんは、凄いおしゃれさんなんだ!!
…沖田君も…可愛い、って想ってくれるかなぁ…?

準備完了!
片手にバックとサンダルを持ったまま、音をたてないようにそーっと部屋を出て、そーっと玄関を出て、そーっと鍵を閉める。

…ごめんね、お父さん。
…ごめんね、晋助お兄ちゃん。
…ごめんね、十四郎お兄ちゃん。
でも、今日は…今日だけは…
初めてのデートだから、許してね…?

そーっと見上げると、お兄ちゃん達の部屋はカーテンが閉まったまま。
うん、今のうち!

私はダッシュで待ち合わせ場所へと向かった。



「…行ったようね…」
「何で見逃さなきゃならねぇんだよ!」
「…初デートぐらい見逃してやれよ…度量が…狭い…」
「…ほぉ、オメェは心が広いのかよ。んじゃぁそのまま諦めろや!」
「初めてだけだ…その後は…全部俺が頂く…」
「はぁ!?」
「…おまえら煩いぜよ…コホン…さっさと尾けるわよ。」
「「尾行すんのかよ!?」」
「あったり前じゃない。」





今日はパチ恵と俺が付き合って初めてのデートだ。
此処まで来んのはスゲェ大変だった…なんとか漕ぎ着けた自分を褒めてやりてェ程。

周りは常に邪魔モンだらけで2人っきりになんのも一苦労。
休みもなんだかんだでクソ兄共に部活で潰されて。
まぁ、放課後デートは毎日してやしたけど、必ずチャイナやクソ兄や銀八や山崎なんかが一緒だったし。
どっかに出かけるにしたって、必ずソイツらが一緒で。
1日中2人っきり、なんて付き合う前から全く有りゃしなかった。
まぁ、それはそれで楽しいし、なによりパチ恵が嬉しそうだったから良い、っちゃ良かったんだ。

でも、やっぱり…
俺だけのパチ恵になったんだから、1日中独り占め、してェじゃねェかよ…

そんな事考えて悶々してたら、剣道部のデカイ試合が終わった後、顧問のとっつあんが無理矢理休みを作った。
…まぁ、アレはとっつあんが休みたかったんだろうけど…
それでも自主練させようとしていたクソ兄達を、副顧問の吉田先生がにっこり笑顔で止めてくれた。
前髪鬱陶しい方は、吉田先生に弱いからな。
土方だって、吉田先生には一目置いてる。
…俺もだけど…

そんなんで、なんとか出来た休みに、誰にも知られないようにこっそりパチ恵を遊園地に誘った。
万が一バレてもちょっとやそっとじゃ見付からねェように、一番でっかい夢の国。
嬉しそうに頷いてくれたパチ恵の表情は、俺の心のメモリーに永久保存するぐらい可愛かった。

出来るだけ長時間一緒に居たくって、余裕に余裕を持った待ち合わせ時間は早朝で。
俺にはちっと辛いけど、パチ恵の為なら頑張れた。
姉ちゃんにビックリされつつ家を出て、更に早めに着いちまった待ち合わせ場所には人がまばらで。

…やっぱりまだ、パチ恵は居ねェか…

それでも辺りを見回すと、えらい可愛らしい女が目に付く。
何だ俺。
パチ恵以外に目ェ行くなんざ頭おかしくなったんじゃねェか?
睨みつけるようにソイツを見ると、ふと、違和感を感じる。
…アレ…?
あの曲線は…?
あの色は…


「…パチ恵…?」

「!?沖田君?え?まだ全然早いよ?」

「おま…三つ編みどうしたんでィ!?め…眼鏡は…?」

「…へ…?眼鏡…?あーっ!忘れた!!なんか見え辛いな、って思ってた…ん…」

「…ドジッ娘とかのレベルじゃねェよ…?」

「…うん…」

俺がちょっと遠い目になると、恥ずかしさで顔を真っ赤に染めたパチ恵が俯いてしまう。
そんな姿も可愛過ぎんでィ!!

「…可愛過ぎて気が気じゃねえし…ま、今日は俺が居るから大丈夫だろィ?」

そう言って手を繋ぐと、真っ赤なまま嬉しそうに笑って手を握り返してくれた。
あぁ、畜生可愛い。
今日はぜってー手は離してやんねェ。

「…沖田君もカッコ良過ぎで…私だって心配なんだよ…?」

えへへ、とか笑ってんじゃねェよ!!
このまま攫って行きたくなるじゃねェか!!

「…んじゃ、行きやすぜ。」

なんとか冷静にと脳味噌を宥めつつ、パチ恵の手を引いて歩き出すと、より一層強く手を握られる。
その手を強く握り返して、俺達はそっからデートを楽しんだ。



「へぇ、中々やるじゃない。エスコートも自然だし…何よりパチ恵ちゃん大好きー!って顔してるわね…今の所減点1ね。」
「…沖田…許さん…」
「パチ恵ー!あんな顔、ワシにはしてくれんのにー!!」
「底が浅いんだよ総一郎君は。まだまだガキだな、ガキ。」
「…なんか、人数増えてねぇか…?」




生意気にも 遊園地デートなんぞをかます総悟と、今日はいつもよりめかしこんで天使の如く可愛らしくなっているパチ恵が何か間違いでも起こさないかと心配で、俺は折角の休日を潰して2人を見守っている。

そう、決して、総悟がムカつくから隙有らば邪魔してやろう、なんて思っている訳ではない。
断じて。
何よりも、これは俺の意思ではない。
昨夜携帯に届いた音女さんの招集で、仕方なくやらされているのだ。
スゲェ世話になった音女さんの言う事に、俺は逆らえないし、逆らうつもりも無ぇ。

だから俺は、朝の5時から黒スーツに着替えサングラスをして、音女さんと晋助と一緒に2人を尾行しているのだ。
そう、決してストーキングじゃ無い。
…大体、こんな大人数でこっそりとか無理じゃね?
黒づくめとか、逆に目立ってね?

「ってか、いつの間にこんなに人数増えてんだよオイィィィィィ!」

「ちょっと、十四郎煩い。あんまり騒ぐと二人にばれちゃうじゃない。」

「バレねぇ訳ねぇだろコレ!!」

「そんな事無いぞ?似合ってるぞ!トシ!」

さっきまでは、確か親父と、何故か坂田が増えていただけだった。
それなのに、電車を降りた時には近藤さんとその嫁が増えていた。

「勲さんったら、そんな黒づくめのマヨラーより今日の八ちゃんの姿を見て!可愛過ぎ!!」

「そうですね!それに、総悟の格好ともピッタリだとは思いませんか?なんだか俺運命を感じましたよ妙さん!!」

「…悔しいけど、勲さんの言う通りなのよね…音女さん、あの子どうかしら…?」

…そういやぁ、近藤さんも新婚だった…
まぁ、仲良さそうで安心した。
でもな…総悟プッシュは頂けねぇ…

「今の所及第点をあげるわ。でも、帰るまでがデートだから。」

「いやいや!凄く良い子なんですよ?総悟は姉思いで…」

「そうなんです。いっつも自分を後回しにしちゃう子だから…幸せになって欲しいんです。」

…透き通るような美声…まさかこの声は…

「ミツバ…?」

「十四郎さん…?貴方もそーちゃんを見守りに来てくれたの?」

うふふ、と笑う顔は相変わらず綺麗だ。
真っ黒なスーツがちょっと色っぽ…ってコイツもか!?コイツもストーカ…見守り隊か!?

「おー!ミツバさん!こっちこっち!」

「近藤さん。」

…近藤さんが呼んだのか…
大きく溜息を吐いてパチ恵達の様子を伺うと、丁度何かに躓いたパチ恵が総悟の胸に顔を埋める…

「「「「…殺る…」」」」

アイツらと同じ思考回路かと思うと嫌になるが、そんな些細な事よりも総悟を排除する方が大切だ。
動き出そうとする俺達の前に、女3人が指を鳴らして立ちはだかる。

「ちょぉ、アンタら何処行くつもり?まさかパチ恵ちゃんを悲しませようとしている訳じゃないでしょうね…?」

「八ちゃんを泣かせるなんて…そんな訳無いわよね?」

「あら、まさかそーちゃんに何かするつもりかしら…?」

全員物凄い綺麗な笑顔なのに、その表情に暖か味は少しも感じられない。
少しでも動いたら、きっと殺られる…
俺達はそーっと後ずさって、引き攣る笑顔のまま彼女達の後ろに下がるしかなかった。



「ごっ…ごめんなさい沖田君…」
「気にすんねィ。お姫様を守るのは王子の仕事でさァ。」
「えー…でも、今日の沖田君なんだかキラキラしてて、ホントに王子様みたい…」
「まぁねィ…ココで保護者公認になったら色々楽になるんでねィ…」
「へ?」
「なんでも有りやせん。又転んだら危ねェや、腕に掴まっときなせィ。」
「…うっ…うん…」
「思いっきり見せつけてやりやしょうぜ?」
「…?…うん…?」