暫くしてトイレから帰って来た志村は青い顔をしていて…
ちょっとぐらいと思って飲ませるんじゃ無かったと、俺は深く反省した。

「志村…大丈夫ですかィ…?」

俺が声を掛けると、ビクリと顔を上げる。
やっぱ…具合悪そうだ…

「具合悪ィんだったら帰るかィ?俺が送って行きやすぜ。」

「…はい…ごめんなさい…」

大人しく頷くんで、背中におぶって立ち上がる。

「すいやせん、俺ァ志村送って帰りまさァ。金は土方さんが払ってくれるんだろィ?」

「…おう。」

…冗談で言ったのに何だ気持ち悪ィ…まぁ、明日払っときゃいいか。
志村を背負って歩きだすと、チャイナが

「ちゃんと送れヨ!王子様~」

とか言いやがる…何だ…?サディスティック星の王子様、って事ですかィ?
まぁ、そんなんどうでも良いや。
店を出て暫く行くと、背中でもぞりと志村が動く。

「あ…!あのっ!すみません…!降ります!!降ろして下さい!!」

「気にすんねィ。」

ホントは背中に胸が当たって気持ちいい。
役得なのは俺なんで降ろしたくなんか無ェ。

「…ごめんなさい…折角楽しかったのに…」

「良いって事よ、気にすんねィ。」

「…有難う…御座います…」

ぎゅうっと抱きつかれると、流石にもちそうも無くなっちまう。
見付けた公園で少し落ち着こうと志村をベンチに座らせる。
自販でさっぱりしたジュースを買って来て志村に渡すと、真っ赤になって俯いてしまう。

…ヤベェ…俺がエロい事考えてんの、バレた…?
ちょっと焦って顔を覗くと、真っ赤になったままで泣きそうになってやがる!?

「しっ…志村…?俺…」

「沖田君…ごめんなさい…私ダメダメで…メイワクばっかり…お願い…嫌いに…ならないで…」

…な…?
何を言ってんだ、志村は…

「俺ァそんな事言ってねェだろィ!?俺は…」

俺が言うと、顔を上げた志村の瞳から涙が落ちる。
綺麗…だな…
思わず近付いて、その柔らかそうな唇にキスをしてしまう。
あ…やっちまった…志村…吃驚して…るよな…
畜生、こうなったら今がそん時なんだろ!

「あ…あのな…!俺ァ…好き…で…志村が好きで堪んねェ!」

「…おきた…くん…?」

「俺と付き合ってくれ!!」

テンパった勢いで言っちまったけど…コレは俺の本心だから…出来るだけ真剣な顔でじっと志村を見つめる。
真っ赤な顔でじっと俺を見ていた志村が、ぎゅっと眼を瞑って、大きく目を開く。

「私も…好きです!!沖田君の…彼女になりたいです…っ…」

そう言いきると、ふわりと笑って俺のシャツを掴んでくる。
んな可愛い事…するんじゃねェよ…
もう一回、唇を奪ってゆっくりとその柔らかさを堪能すると、やっと実感がわいてくる。
夢じゃねェんだ…
両想いに…彼氏彼女になったんだ…!
そっと唇を離すと、うっとりと頬を染める志村。
あぁ!畜生!!可愛いぜ!!
ぎゅうと抱きしめるだけで、幸せが溢れてきやがる!!!

「スゲェ嬉しい…」

「…私も…夢みたいです…だって…一目惚れだったんです…」

「へ…?」

「受験の日に逢ったんですよ?覚えてませんか?」

…マジでか…
志村も俺と一緒だったのか…?

「俺も…志村にヒトメボレしてやした。」

驚いて、でもすぐ笑い合って、手を繋いで歩きだす。
本当はもっとちゅーとかしてェけど、こんな気分も悪くねェ。
無事に送り届けて、家に帰る道すがら今迄の事を思い出すと顔がニヤける。
明日からは、大好きなあの娘と彼氏彼女でィ!
たっくさんイチャイチャしてやるぜィ!!



次の日、学校に行くと何故か満面の笑顔の近藤さんにおめでとうと言われた。
土方に昨日の金を払いに行くと、祝いだと言って受け取らなかった。

…何で皆知ってんだ…?

首を傾げながら教室に戻る途中、チャイナに絡まれた。

「王子様よぅ、パチ恵を泣かせたらワタシが黙ってないからナ!大切にするヨロシ!!」

「泣かすかよ。ってか昨日から王子王子って何なんでィ…?」

「入学式の日からずっとパチ恵が煩かったネ。受験の時に助けてくれた王子様を探してる、って。」

…入学式…って…あん時気付かなかったのかよ…
イヤ、気付いてたから…顔真っ赤にして…走って逃げたのかィ…?
だったら…可愛過ぎまさァ…

「オマエが王子なんてガッカリだけど、パチ恵が幸せになるならってアネゴとゴリとマヨに手伝ってもらったネ。感謝するヨロシ。」

…昨日のアレは、コイツらが仕組んだ事だったんですかィ…
でも…まぁ…
感謝…してやらなくもねェや…

「…さんきゅ…」

「ふぉぉぉぉぉ!?ドSが…ドSが礼言ったアル!?血の雨が降るネ!!」

「そんなの降らねェよ!!」

結局いつもの通りになって、俺らが喧嘩しだすと志村が止めに来る。
でも、今日からは違うから…
その小さな体を抱き込むと、悲鳴とともに俺は投げ飛ばされた。
俺達、恋人になったんじゃ…?
転がったまま呆然と志村を見ると、慌てて俺に駆け寄ってくる。
焦った顔も、良いかもしんねぇ。

「ごっ…ごめんなさい!私…ビックリして…」

「早く慣れて下せェ…彼氏彼女になったんでィ!俺ァイチャイチャしまくってやるからな!」

「ひぇっ…はい…」

酷く恥ずかしそうに…でも、嬉しそうに微笑まれたら、ココはきっすする所じゃね?
俺がパチ恵の頭を引き寄せて、唇が触れそうになった瞬間、俺をめがけて沢山の足が落ちてくる。

「ドS!どこでもサカってんじゃネーヨ!!」

「沖田く~ん、ココ学校だからね?」

「パチちゃんは大切な妹なんですから、そう易々と手ェ出してんじゃねーぞゴラァ」

「総悟ォォォォ!おまっ…何やっちゃってんの!?ココ学校だからな!?衆人環視の場だからな!?」

「いくらなんでもこんな所ではイカンぞ?」

…まぁ…流行りのドラマじゃねェんだからちょいとやりすぎたか。
志村も顔真っ赤にしてるし…
蹴られて踏まれて倒れたまんまでじっと志村を見てると、心配そうな顔で優しく撫でられる。

「沖田君…大丈夫ですか…?」

あぁ…まだこんなんで我慢してやるか。
やっと通じた想いなんだから、こんな事でフイになんかしたくねェや。

俺が笑ってやると、志村も安心したように笑う。
とりあえず…
俺は、『パチ恵』って呼ぶタイミングを探して、そっから一歩踏み出してやろうと心に決めた。


END