「おぉ、パチ恵ちゃん。今日はな、総悟の誕生日だから皆でお祝いしようと部活は早めに切り上げたんだ…そうだ!折角だからパチ恵ちゃんも一緒に来ないか?妙さん以外女子の居ないむさっくるしいパーティーに花を添えてくれないかい?」

にこにこと穏やかな笑顔で私を誘ってくれるのは剣道部の主将で3年生の近藤さんで…お姉ちゃんの彼氏だ。
私の事も気にかけてくれるとっても優しい人で、不屈の根性を持った尊敬すべき男性だ。
…お姉ちゃんの心を射止めるまで…本当に死ななくて良かった…

「へ…?私…ですか…?でもご迷惑じゃ…」

「あら、私の妹を迷惑だなんて言う馬鹿は剣道部には居ないわよね?」

お姉ちゃんがにっこりと綺麗な顔で笑って皆さんを見渡すと、強面の皆さんがコクコクと首を振る。
…お姉ちゃんって凄いな…

「な?皆喜んでるだろ?」

嬉しそうに笑って小首を傾げる近藤さん。
…近藤さん…どんな目をしてるんだろ…

「心配すんな。アイツら顔は恐いけどオマエを苛めるような奴らじゃねぇから。」

土方さんが恐い顔をしながらもフォローしてくれる。
2年生で副部長の土方さんは、顔は恐いけど優しいお兄さんだ。

「…あー…なんかあっても俺が護ってやっから安心しろ…」

「はい、有難う御座います!それじゃお邪魔しますね。」

皆さんの言葉が嬉しくて笑ってそんな事言ってしまったけど…沖田君は迷惑じゃ無かったかな…?
今日は女の子に囲まれっぱなしだったし…男同士で遊びたいんじゃないかな…?
そーっと沖田君を窺うと、山崎君と何か言い合って楽しそうに笑ってる。
…特に気にして無い…のかな…?
まぁ、地味な私が1人混ざったって、気付いてすらいないのかもしれないけど…





剣道部のみなさんと一緒に辿り着いた所はカラオケ店の大部屋で。
早速食べ物や飲み物を頼むからと私は部屋に備え付けのインターフォンの前に押しやられた。
皆さんが好き勝手に頼んでいく物を次から次へと注文していって、どんどん運ばれて来る食べ物や飲み物を配って歩く。

…こういう事の為に呼ばれたのかな…私…
まぁ、いつもの事だけどね…

「いやぁ、女の子が居ると良いな!」
「そうそう!男所帯じゃ気が回らないもんな!」
「うんうん、なんかぱーっと空気が華やぐよな!」

剣道部の皆さんがそう言ってくれるけど、これは褒めてくれてるのかな…?
愛想笑いでお礼を言うと、何故か頬を染めた皆さんがおいでおいでと手招きをしてくる。
どうしよう…きっとおかわりとかで又私が注文しなくちゃいけないからインターフォンの側が良いんだけど…
ちょっと困ってインターフォンの側を見ると、そこには山崎君が貼り付いてまだ何か注文していた。
後は山崎君にお任せした方が良いのかな…?

折角だから、手招きしてくれた皆さんの所に行こうと振り向くと、そこではお姉ちゃんに正座させられた皆さんが説教されていた。
…あ…女の子扱いされなかったからお姉ちゃん怒っちゃったのか…
そこに行く訳にもいかないし…どうしようかと辺りを見回していると、にこにこと笑った近藤さんが私の隣にやって来る。

「パチ恵ちゃん有難う、色々させて悪かったね。悪いついでに今日の主役のお世話もお願いして良いかな…?」

「主役…?」

近藤さんに連れられて行った先には沖田君が三角帽子を被せられ鼻眼鏡を付けられ大きな蝶ネクタイを首に付けられた上『今日の主役』というタスキをかけられて座らされていた。
…凄い間抜けな格好なのに…可愛い!
沖田君がカッコいいからなのかな?それとも…惚れた欲目…とか…?

「はい、パチ恵ちゃんは総悟のお世話係な!今日は総悟が主役なんだから特別だぞ?」

「え…?はい。でも何を…」

はい、と押されて座った所は沖田君の膝の上で…慌てて立ち上がったけどきっと重かったよ!!

「あのっ!すっ…すみませんっ!!」

慌てて頭を下げるけど、怒っちゃってたらどうしよう!

「オメェ…メシちゃんと喰ってんのか?ほれ、隣座って喰いなせェ。」

そう言われて腕を引かれて座らされてすぐに小皿に一杯食べ物を盛られたのを渡されたけど…何だろ…にんじんにピーマンに玉ねぎに…野菜ばっかり…?
沖田君のお皿を見てみると、お肉とか麺とか…野菜は全然入って無い気が…

「…あの…沖田君これ…」

「ん?ヤキソバでさァ。たんと喰いねェ。」

「どこがヤキソバ!?ソバ入って無いじゃん!コレは野菜炒めっていうんです!!」

思わず盛大にツッコミを入れて、ハッと我に返る。
わっ…私ってば沖田君に何て事を…
そーっと様子を窺うと、ぽかん、と私を見ていた沖田君の表情が、ひどく楽しそうにニヤリと緩む。
怒って…ないのかな…?

「大丈夫、ソバも肉も入ってますぜ?ほら。」

野菜炒めの私のお皿に、沖田君のお皿からひとつまみ麺と肉を移して得意顔でにこりと笑う。

「な?」

「な?じゃ無いですよ!あ、もしかして自分の嫌いなもの全部私に食べさせようとしてますか!?お世話係ってそういうのですか!?」

「別に…好き嫌いじゃねーし…」

「じゃぁ食べて下さいよ!はい、あーん!」

そーっと目を逸らす顔の前に野菜を差し出すと、ちろりと私を見て大人しくぱくりと野菜を口に入れる。
なんか、雛鳥みたいで可愛…って!私今何を…!?

「なっ…なっ…ごっ…ごめんなさい!私…!」

「ん?喰わせてくれるんだろ?お世話係。ほら、あーん。」

大人しく口を開けて待ってる沖田君に、麺と肉のお皿から一口ずつ取り分けて口まで運ぶと大人しくモグモグと食べてて…
どうしよう…こんなの私の心臓がもたないよ…!
そのお皿が空になると、次はアレ次はコレっていつまでも終わらなくって…
その間ずっと綺麗な瞳に見つめられて…頭グルグルしてきちゃうよぉ!

「いい加減にして下さいっ!いつまでさせるんですか自分で食べろォォォ!!」

グルグルが爆発して私は又沖田君を怒鳴りつけてしまった…あぁぁ…
きょとん、と私を見た沖田君が今度はむうっと膨れる。

「なんでィけち。じゃぁしゃーねーな、オメェここ座りなせェ。」

そう言って野菜炒めのお皿を持たせた沖田君は、今度は私を膝の上に乗せた。
………ひっ…膝ァァァ!?

「なっ…なにを!?なにをォォォ!?」

「ウルセェなァ、今日は俺が主役なんでィ。もてなしなせィ。」

オメェ、なんか抱き心地良いんでィ、なんて囁かれたらもう身動きも取れないよぅ…

頭をグルグルさせて泣きそうになりながら沖田君の膝の上で『コレも喰いなせェソレも喰いなせェ』とお皿に乗せられたご飯を食べていると、やっとそれに気付いたのかお姉ちゃんと土方さんが恐い顔でドスドスと近付いて来る。

「あの!沖田君…降ろして…」

「あー、姐さんと土方か…面倒だけどイヤでィ。ほれ、ぎゅーってしてなせェ。」

私を抱きしめて立ち上がった沖田君がひょいひょいと逃げ回るんで、落ちないように必死で抱きつく…ってうわー!うわーっ!!

「やっぱオメェ抱き心地良いや。今日は俺が主役なんだからちっとぐれェ良い目見させろィ。」

嬉しいのは私なのに…良いのかな…?
良い目って…沖田君何か喜んでくれてるのかな…?それなら…
こくこくと頷くと、お尻の辺りがさわさわと撫でられる…えっ…!?

「もっと押し付けなせェ、きょにゅーちゃん。」

ニヤリと笑う綺麗な顔の前には、丁度私のおっ…

「いやぁぁぁ!えっち!!」

私がバタバタと暴れると、沖田君の足が止まって落とさないように支えてくれる。

「ばっ…暴れんな!」

「そぉーうーごォォォー」
「沖田君…?」


その隙に追いついていた2人に私は保護され、今日の主役だというのに沖田君の頭には大きなこぶが2つ出来た。


「オイ、眼鏡!明日っから覚悟しやがれ!」

「えぇぇっ!?沖田君今日お誕生日だからお世話係なんじゃないんですか!?あ!お誕生日おめでとうございます!!」

「…おう…オメェやっぱおもしれー。えーと…パチ恵!」

「はいっ!」

「俺が飽きるまで俺の世話係やりなせェ。ま、逃がさねェけど。」

「むっ…無理です!心臓が持ちませんっ!」

「心臓?気にすんねィ、俺もバクバクいってらァ。」

「「…え…?」」



END