…本当に…この学校で私はちゃんとやっていけるんだろうか…?更に不安になってきたよ…

授業中は一応皆も静かにしてるみたいなんだけど、早弁してたり雑誌を読みふけってたりメイクしてたり寝てたり…真面目に勉強している人なんて居るんだろうか…?先生達の授業はちゃんとしてるのにな…
その上、私がちゃんとノートを取ったり授業を聞いていたりすると、目を見張った先生達が泣きだしたり…沖田君っていつも何してたんだろ…?
早弁してたぐるぐる眼鏡の女の子が私にやたらとタコさんウィンナーを見せびらかしてきたりもするけど…あの子、沖田君の事が好きなのかな…?
でも、そう思ってにっこりと微笑みかけると顔を真っ青にしてえづきだしたのはなんでだろ…?

そして休憩時間は休憩時間で私は忙しかった。
さっきのぐるぐる眼鏡の女の子に喧嘩を売られたり…女の子を殴るとか出来ないからなんとか避けて理由を聞いたら『気持ち悪いネ!』と言われて逃げられたり。
廊下を通っている時に沢山の荷物を持ってる女の子が居たんで手伝ったら何故かおべんと貰ったり。
その上次の休み時間からやたらと女の子達に見られたんで愛想笑いしたら、物凄い人数に告白されたり…女子高と変わらないのかな…?
って、今私沖田君だった!勝手な事して怒ってるかな…?
そーっと私の姿の沖田君を見てみると、おかしなアイマスクを着けてぐーぐー寝てる…成程、だから先生達泣いてたのか…いつもは寝てるんだ…
でも、気を付けなきゃ。
今中身は私だけど、沖田君なんだもん。
好きな人とかいるだろうし…私が軽率な行動をとっておかしな事になったら申し訳ない。

その後は気をつけて、なんとか1日を過ごして放課後。

朝の約束通りに沖田君を待っていると、大きな欠伸をしながら彼はやってきた。
あぁぁ!私あんなにはしたなくないのに!

「沖田君気をつけて下さい!人前で欠伸とか止めて下さい!」

「あー?自然現象だから仕方ねェだろ?」

「せめて手をあてたり下向いて下さいっ!!」

「へいへい。んじゃさっさと神頼みに行きやすか。」

「…ちゃんと気をつけて下さいね…?」

ちゃんと文句を言ったけど…
あの調子じゃ絶対気をつけてくれる訳ないよね…
せめて学校に居る間だけでも一緒に居て注意しようかな…?





神社に向かっていた筈の私達は、何故か今ファミレスに居る。
目の前には、ズルズルとパスタをすする私…

え…?…何が…?

「沖田君…神社に行くんじゃ無かったの…?」

「その前に腹ごしらえ腹ごしらえ。あんなちっせー弁当なんざ足りねェよ。旨ェけど。」

…美味し…かったんだ…
ちょっと嬉しいな…顔が緩んじゃうよ…って気を付けなきゃ、今私は沖田君なんだから。

「じゃぁ明日は自分の方のおべんと食べて下さいよ。私ももっとおっきいの作って来ますから。」

「おー、んじゃ明日は重箱でお願いしまさァ。俺ァ唐揚げと卵焼きとウインナーと…」

「は?自分で作って下さいよ。今日のおべんと美味しかったですよ?」

「…お前さんの弁当の方が旨ェから…」

じっと下から見上げられるとなんかドキドキする…!私なのにっ!!
それに、褒められたら悪い気しないし…

「…分かりました…明日も交換ですね…」

私がそう言うと、沖田君は嬉しそうににっこりと笑った。
…どうしよう…心臓がおかしくなっちゃったよ…いま見てるのは私の顔なのに、凄くドキドキする…可愛いって…想っちゃう…


その後も本屋さんに寄ったりCDショップに寄ったりと寄り道してる間にすっかり日が暮れて、沖田君は満足したような顔で『じゃぁ又明日な!』と言って家に帰ろうとした。

「イヤイヤイヤイヤちょっと待って下さいよ!神社はどうしたんですか神社は!!」

「あ、忘れてた。んじゃ行きやすか。」

とぼけた顔で、ポン、と手を叩いた沖田君が『こっちでさァ』と私の手を引いた。
その手がひどく暖かくて、なんだか心臓がぎゅうっとなってドキドキが止まらない…

嘘…でしょ…?だってあれは私なのに…!
うん、そんな事有る訳が無い。気のせい気のせい!!





「…ここ…?」

「ここ。」

沖田君に連れていかれた神社は学校のすぐ裏にある神社で………

「学校の裏じゃないですかァァァ!何で商店街の方に行っちゃったんですかァァァ!!」

「え…?………なんとなく…?」

小首を傾げて疑問形で問い返してくる沖田君はぶん殴りたいほど憎たらしい。
やっぱりさっきのドキドキは何かの気のせいだったんだ!!

「じゃぁさっさとお参りして帰りましょう!あんまり遅くなると姉様も一兄様もすっごく心配するから。」

「おー、ウチの姉ちゃんも心配しまさァ。」


ガラリガラリと鈴を鳴らして一緒にお参りを済ませる。
…特に何かご利益が有りそうでも無いけど…でも、神頼みでも、もしかしたらってあるし!

「んじゃぁ帰りやしょー。」

ふんふんと鼻歌を歌う沖田君が先に立って長い階段を降りていく。
…私なのに歌上手いって…なんかズルイ…
ちょっとだけ悔しくて、ふいっと顔を逸らした瞬間、私は石の階段を踏み外してしまった。

え…?

「きゃぁぁぁぁー!」

「おぉ?」

振り返った沖田君も巻き込んで、私達は神社の階段を転がり落ちる。
支えてくれようとしたけれど、やっぱり私の力じゃ支えきれなくて…鍛え方足りなくてごめんね…
その時に、沖田君を庇おうと抱き込んだら…唇…触れた気がする…
そういえばあの時も…何か柔らかいモノが私の唇に触れた気がする…



硬い石段に全身を叩かれ、私はそのまま気を失った…





「おーい、パチ恵ー、生きてやすかー?」

ゆさゆさと私の肩を揺する振動で意識が浮かんでくる。
あ…神社の階段…落ちたんだっけ…
当然襲ってくるであろう痛みに覚悟を決めてゆっくりと身体をおこすけど…あれ…?痛く…ない…?

「あれ…?痛くない…え!?もしかして私、死んじゃったの!?」

「…俺ァ身体中痛ェよ…」

聞こえてくる台詞に何か違和感…
あれ…?この声は…

気付いた答えを確かめるべく自分の身体を見下ろすと、セーラー服………戻った!?
顔を上げて前を見ると、そこには綺麗な顔をドロで汚した沖田君!!
やっぱり元の身体に戻ったんだ!!

「沖田君!戻った!!戻ったよ私達!!」

「おー…なんでィ、もう少しお前さんでアソビたかったのに…」

「おっそろしい事言うなァァァ!!」

ニヤリと笑ったイケメン面が恐くてバシリと頭を叩くと、その手を掴まれて至近距離に引き寄せられる!

「まぁいっか。今度は俺のカラダ使ってアソんでやらァ。パチ恵のきもちいトコ全部知ってっから損はさせやせんぜ。」

そんな台詞を吐いて、更ににやーりと笑われると背中がゾクリと震えた。
とっ…とんでもない事されるゥゥゥ!!
なんとか…なんとか逃げなきゃ!!!

「そっ…そんな事しませんっ!遊んで頂かなくて結構です!!」

「なんでィつれねェなァ。ま、嫌とは言わねェだろお前さんなら。どこもかしこも敏感だからなァ、このカ・ラ・ダ。」

そう言って、つぅーっと腕を撫でられただけなのに!
なんだかおかしな気持ちになって足の力が抜けた。
…え…!?何コレ…!?

「ま、今日は身体中痛ェし又今度な。」

身体中痛い、とか言ってるくせにそのまま私を抱き上げた沖田君は家まで送ってくれて、すぐに帰っていった。
おかしな事言ってたけど…そんな事する人じゃないのかな…?
そう想うと心臓がドキドキと騒いで顔が熱くなる。

…取り敢えず今日まで色々お世話になったし…明日はお重のおべんとを作っていってあげよう、なんて想ってしまいました。



END



そんな甘い考えでいた私が色んなモノを奪われてしまうのは、又別の話………