なんだかほんわりして膝に乗せた近藤さんを撫でていると、すぐに制服姿の沖田さんが黒服さんに連れられてやってきた。
「近藤さん、お迎えいらっしゃいましたよ?」
「あり?今日は姐さんじゃないんで?…って…なんでィデブ、バイトにしたって他にいくらでも………」
バカにした顔で笑ってそこまで言った沖田さんが、ピシリと固まって動かなくなった。
近藤さんや姉上は可愛いって言ってくれたけど、やっぱり私にチャイナドレスは似合ってなかったんだよ!だって沖田さん怖い顔で固まったまま全然動かないもの!!調子にのっちゃったよ私ィィィ!!!
「…お見苦しいモノをお見せしてごめんなさい…でも、今日はコレが決まりなんで…」
「オメェ…本当にアノ姐さんの妹ですかィ…?」
呆然としたままの沖田さんが、私にそう言ってくる。
そんなにおかしいのかな…ちょっと期待した分ショックが大き過ぎるよ近藤さん…
「ちゃんと血の繋がった姉妹です!…そりゃぁ私は姉上みたいなスレンダー美人じゃないですけど…」
今日は着物じゃないから太って見えない筈なのに…そういう問題じゃなかったんだ…
悲しくて涙が出そうになってしまったけど、泣いたって仕方ないもの…
グッと涙をこらえるけど顔は上げられないよ…
「何言ってんでィ、アノ絶壁と血ィ繋がってんのかって意味でィ。でっけェ乳ぶら下げやがってムラムラすんだろ。近藤さんにムラムラは20歳になってから、って言われてんですぜ?どう責任取ってくれるんでィ。」
…思わず顔を上げてマジマジと沖田さんの顔を見てしまった。
真面目な顔で、なんかとんでもない事言われたんですけど…え…ムラムラって………知らないよそんなの!!
気が付くと膝に乗っていた近藤さんは脇によけられて、凄く近くに沖田さんが座ってジッと私の事を見ていた。
なっ…なぁぁぁぁっ!?
「あっ…あの沖田さん…?」
「あ、すいやせーん、コイツ指名でー」
大きく手を挙げた沖田さんが、私の手を掴んで黒服さんに叫んだ。
え…?えっと…沖田さんは近藤さんのお迎えに来たんだよね…?
でもその後色々注文してるよ…?
黒服さんも笑顔で『パチ恵ちゃんお願いね。』とか言ってるよ…?
「あっ…あの!私今日は姉上のヘルプで…」
「でも、近藤さんには指名されてやしたよね?」
「なっ…なんで知って…」
私が慌てると、沖田さんは得意気にニヤリと笑った。
「知りやせんけど。近藤さんならそうするかと思いやして。」
「あっ…姉上ェェェ!」
私が叫ぶと、音も無く現れた姉上が私と沖田さんを交互に見てにっこりと笑った。
…嫌な予感…
「折角だから、毟り取っておやりなさい?」
そう恐ろしい言葉を残して、又音も無く姉上は去って行ってしまった…
むしりとるってなにィィィ!?私そんな事出来ないよ!!
それでもすっかりすまいるに腰を落ち着けてしまった沖田さんのお相手が出来るのは私しか居なくって…じわじわと距離をとりつつ隣に座っているしかなかった。
どうしよう…冷静になんかなれないよ…顔が…顔が燃える…!
「さっさと酌しろィ、デ…じゃねェか…パチ恵。」
普通に呼ばれて心臓がドキリと跳ねる。
顔を上げるとグラスを差し出している沖田さん…そうだよね…沖田さんはお客様だもの!私がしっかりおもてなししなくっちゃ!!
さっき近藤さんにしたようにお酒を作って渡すと、とても美味しそうに呑み乾してくれた。
それが嬉しくてすぐに又お酒を作るとどんどん呑んでくれる。
それに、お酒が入ったからか沖田さんは饒舌になって色んなお話をしてくれた。
隊士の皆さんのおもしろい話とか、銀さんと甘味屋で会った時の話とか、神楽ちゃんとのバトルの話とか…沖田さんってお話上手なんだなぁ…どの話もすっごく面白い。
こんな風に普通に話せるのが、こんなにドキドキして幸せで楽しくて嬉しい事だなんて知らなかった…もっともっと、これからもこんな風に出来たら良いのに…
暫くお話していると、近藤さんが目を覚ましたので楽しい時間は終わりとなってしまった。
沖田さんは近藤さんを迎えに来てたんだもの…
「なんでィ、近藤さんもう起きちまった。俺まだ膝枕して貰ってやせん。」
「しっ…しません!」
「ん?ケンカはいかんぞ?あぁ、パチ恵ちゃん今日は有難うな!」
近藤さんが立ち上がったんで沖田さんも素直に立ち上がって、2人は帰ってしまう事になった。
お会計を待っている間に姉上もお見送りにやってきて後姿に手を振っていると、くるりと振り返った沖田さんが私のすぐ前までやってきて、顔を近付けて不機嫌に言った。
かっ…顔近いィィィ!
「これからはあんな変な着物着るんじゃねェよ。」
「え…?でも…」
「又デブって言うぞ?パチ恵…俺がミニの着物買ってやらァ。」
「いっ…一応持ってます!」
「じゃぁソレ楽しみにしておきまさァ。」
爽やかに笑って手を振って去って行かれたら…明日からミニの着物にしようと思っちゃうじゃないですかァァァ!
◆
次の日、やっぱり恥ずかしかったけど、私はタンスの奥にしまってあったミニの着物を着て万事屋へと出勤した。
やっぱりこの着方のほうが胸は楽だなぁ…太って見えないし…
途中でやたらと道を聞かれたけど、この時期は地方から江戸に来る人多いのかな…?
随分時間取られちゃった。
万事屋に着いたら着いたで神楽ちゃんが大騒ぎして銀さんが鼻血を出した。
神楽ちゃんもやっぱり着物が良いのかな…?今度依頼があったら一緒にゲーユー見に行こう。
ってか銀さんってばハナクソ深追いしたのかな?それともこっそりチョコレート盗み食いした?
………後で銀さんが出掛けたら、机の中とかチェックしておこう………
いつも通りに家事を終わらせてタイムセールに行こうと神楽ちゃんを誘うと、フイッと横を向かれてしまった。
「裏切りモノのパチ恵とは行かないアル。」
なんて言われたけど、私何かしたかなぁ…?
仕方ないから1人でタイムセールに急いでいると、いつもたむろして私達をバカにしていた男の子達が声をかけてきて進めなくなってしまった。
何の用だろう…?
少しだけお話を聞くと、お茶を奢ってくれるって事みたいだけど…これからタイムセールなのにそんな暇ないよ!
でも、何回も丁重にお断りしてるのに全然話を聞いてくれないよー!
「ですから!私今からタイムセールに行かなきゃいけなくて…」
「えー?おつかい?エライじゃん。じゃぁさ、おつかい付き合うからその後あそぼーよ。」
「イエ、買い物が終わったら夕飯作らなきゃいけないんで遊べません。」
「キミ料理できちゃう系?ポイントたかいじゃーん!俺達にも食べさせてー」
「それはちょっと…」
あー!もう時間無いよ!!
タイムセールに間に合わなくなっちゃう!!!
「はーい皆のおまわりさんでーす。女の子にしつこく付きまとう奴ァ叩っ斬りやすよー」
「沖田さん!」
「ゲッ…!真選組!!」
沖田さんを見た男の子達は、皆走って逃げて行ってしまった。
助かったぁー…
「沖田さん、有難うございます!」
失礼だけど時間がないんで、お礼を言いながらも小走りで大江戸ストアに向かうと何故か沖田さんも早足で私に着いてくる。
何か用事あるのかな…?
「えっと、沖田さん何か?」
「…デブのまんまの方が危なくなかったねィ…」
難しい顔でブツブツ言ってるけど私は…
「私はこの格好にして良かったです。沖田さんと普通にお話しできるようになりましたから。」
えへへ、と笑って言ってみると、沖田さんの顔が赤くなってガッシリと手を掴まれてしまった…何…?
「沖田さん…?」
「約束通り着物買いに行きやしょう!好きなだけ買ってやるからたっくさん俺と話しやがれ!!」
そう言って、大江戸ストアと反対方向にズルズルと引き摺られる…ってタイムセールゥゥゥ!!!
「私!タイムセールに行かなくちゃいけないんですゥゥゥ!!」
「俺とタイムセールどっちが大事なんでィ!?」
「タイムセールです!!」
そう言って大江戸ストアに向かって歩き出すと、沖田さんは突然道端にうずくまってしまった。
えぇっ!?具合悪くなったの!?
心配になって私もしゃがんでそっと顔を覗き込むと、ジッと私を見ながら『俺よりタイムセールなんだ』とかブツブツ言ってたんで速攻立ち上がってタイムセールに走った。
私のこの買い物に万事屋の今日のご飯がかかっているんだもの!!
無事買い物が終わって店の外に出ると、まだうずくまったままの沖田さんが出入り口で待っていた。
…もしかしたら沖田さんって凄くめんどくさい人なのかな…?
「沖田さん、買い物終わりましたけど。」
「…着物買いに行きやす…」
「…はい…」
「その後一緒に茶ァ飲んで下せェ…」
「…お茶ぐらいなら…」
「そしたら買った着物着て見せて下せェ…」
「…え…?…えっと…はい…」
「ソイツを脱がせんのは俺でィ。」
「お断りします。」
沖田さんを置いて私がスタスタと歩きだすと必死で腕を掴んできたんでソレを引きずったままかたくなに前に進む。
「茶までで我慢しやすから!やっぱりその着物の方がパチ恵可愛いからもっと違う着物も見たいんでィ!!」
かっ…可愛いって言われました近藤さんんん!
ビックリして私が止まると、沖田さんが私の前に来て小首を傾げる。
何ソレ可愛い!
「パチ恵もミニの着物の方が良いんだろィ?じゃぁ買いに行きやしょうぜ。なぁに気にすんねィ、今すぐ脱がせようなんて事ァしやせん。」
「…はぁ…」
「俺と話すの楽しいんだろィ?今はまだ話だけで我慢してやらァ。優しいだろィ?」
そう言った沖田さんがにっこりと可愛く笑うから…私もつられて笑ってしまった。
END
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