その頃赤ずきんは手に持ちきれない程に花を摘んで、やっと立ち上がりました。
そう、赤ずきんはまだオオカミに逃げられた事から立ち直れないでいたのです。
「…近藤さんのトコ…行くか…」
とぼとぼとおばあさんの家に行くと、入口の戸が開いていたので赤ずきんは不思議に思いました。
でも、そんな小さな事は気にせずにズンズンと家の中に入っていくと、いつもと違った良い匂いがするような気がしました。
でもソレが、オオカミが撒いたファブリーズの匂いだとは思いません。
そのままどんどん奥へ行くと、部屋の奥のベッドにおばあさんが眠っていました。
「こんにちわ、近藤さん。見舞いに来やしたぜー…」
スタスタと近付いて覗き込んでみると、おばあさんの様子がいつもと違います。
すぐに気付いた赤ずきんは、嬉しくなってしまってニコニコと笑ってしまいました。
摘んできた花をベッドに撒いて、おばあさんを飾ります。
「近藤さん、ずいぶん耳が大きくなりやしたね。」
そっと大きな耳を撫でると、耳がピクピクと動きます。
「そっ…それはお前の言う事が良く聞こえるように…」
「それに、目が大きくて光ってまさァ。なんだか怖ェよ?」
そっと眼鏡を外して脇に置くと、オオカミの瞳はウルウルと潤みます。
「それはっ…可愛いお前を良く見る為…だから…」
「それに、こんなに顔真っ赤にしちまって…」
赤ずきんはそっと頬を撫でます。
「それは…顔が近くって…」
「それから、なんと言ってもその可愛らしいピンクの唇は…俺をどうしたいんでィ…?」
「そ…んなのっ…」
ふいっ、と逸らした顔を引き戻して、赤ずきんがとてつもなく嬉しそうにニコリと笑いました。
「もしかしてオオカミさん、俺を誘ってる?」
その顔があまりにも綺麗で、思わずオオカミはコクリと頷いてしまいました。
「あの…僕…いつも森で沖田さんを見てて…お友達になりたくて…あの…だからおばあさんにお願いして…こんな事…」
あまりに恥ずかしくて頭まで布団をかぶってもぐもぐと言い訳をするオオカミに、赤ずきんは心底残念そうな溜息を吐きます。
「それァ無理でさァ。」
その声にオオカミは慌てて布団から顔を出しました。
「え…そんな…そうですよね、こんな騙すような事をして…駄目ですよね…」
しょんぼりと俯くオオカミは、耳もシッポもぺたん、と垂れてしまっていました。
赤ずきんはそんなオオカミが可愛くて仕方無かったのですが、ちょっとだけ我慢しました。
「俺ァ、新八くんに惚れてやすから。恋人にはなれても、友達にはなれやせん。」
にっこりと綺麗な笑顔のまま、赤ずきんはオオカミの寝ているベッドに侵入していきました。
当然、マウントポジションです。
「あの…えっと…赤ずきんちゃん…?」
「赤ずきんなんて水臭いでさァ。総悟、って呼んで下せェ。」
蕩けそうな笑顔で間近まで綺麗な顔を近付ける赤ずきんに、オオカミの顔は真っ赤に染まりました。
「あのっ!そっ…そー…沖田さんの…はっ!なんでこんなに大きく…ってか何で僕に握らせてるんですかっ!?」
「イヤでさァ、大きくなってなきゃ新八君を………
喰べられないからでさァ!!」
「ぎゃーっ!やっぱりィィィィィィィっ!!!」
「あー、喰った喰った。思う存分喰って満腹でさァ。」
「何が満腹だァァァッ!むしろ僕の方が満腹だからね!ってあぁぁぁぁ…沖田さんのばかぁっ!」
真っ赤な顔のオオカミを、満ち足りた顔の赤ずきんがしっかりと抱きしめました。
「…でも…好きです…」
「俺もだいっ好きでさァ!」
そしてすぐに赤ずきんはオオカミをお嫁さんにもらいました。
けれどオオカミをお嫁さんにしたかったのは赤ずきんだけではなくて…
諦めきれないオオカミスキー達は、毎日赤ずきんの家までやってくるようになりました。
そして、そこで赤ずきんに挑んでくるのです。
いつも静かだった赤ずきんの家は毎日賑やかで。
たまに怒られる事もあるけれど、可愛いオオカミの笑顔は消える事を知りません。
そして、そんな日はずっと続いて、みんないつまでも幸せに暮らしました。
めでたしめでたし
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