「テメー!総悟!!」
何も言えないで固まっていた僕らを無視して、黒髪で煙草をくわえた人がそーくんの首根っこを掴む。
あ…この人…
「とっしーアル!とっしー!!」
すぐに気付いた神楽ちゃんが飛びつく。
とっしー…髪切った…?
っと!
そんな事より僕が大切なのはそーくんだ!
なんでこんな所に居るんだよ…こんな近いのに…なんで僕に逢いに来てくれなかったんだよ…!
「久し振り…ですね…」
「…おう…」
「元気そうで良かったです…喧嘩…してからもう全然逢いにきてくれなくなったから…」
えへへ、と笑ってみたけど、その後の言葉は言えない。
嫌われたかも、なんて…喩えでも言いたく無かった…
それなのにそーくんは僕の事を睨んできて…やっと絞り出した勇気を根こそぎ奪っていってしまう。
「…俺の事なんて、もうとっくに忘れてると思ってやした…嫌われたし…本当はもう逢いたくなんかなかったんでしょう?それなのに、なに笑って挨拶なんざしてんでィ…」
凄く怖い顔…本気で…そんな事思ってんのか?コイツ…
そんな事有る訳無いのに!
「そーくんこそ僕の事が嫌いになったから逢いにも来なくなったんだろ!?」
僕が怒鳴ると驚いたような顔で僕を見つめてくる。
…畜生、そんな顔もカッコいいってどんなんなんだよ…
「…な…にが…」
「僕は…そーくんが来るの、待ってたんですからね!僕に謝りにも来なかったくせに!謝ったらぎゅーってしようと思ってたのにっ!!」
「…新八…?マジ…ですかィ…?」
笑いそうな、驚いたような、間抜けな顔。
そんな顔でも愛しく想ってしまうなんて…そんなに好きだったんだ、この人の事…
僕はよっぽどなんだ…
「ねぇ、僕に言う事有りますよね…?」
目を逸らさないでそーくんを見たまま、心の中で祈ってみる。
どうか…又あの言葉を聞かせて欲しい…
「…俺は悪くねェ…だから…」
「相変わらずダメな人だなぁ…」
はぁ、と溜息が出てしまう。
折角又逢えたのに…このままお別れなのかな…?
縋るようにそーくんを見つめていると、キョロキョロと辺りを見回して、あーとかうーとか唸ってる。
「…ガキ相手に大人気ない事してすいやせんでした…」
「自分だってガキだったくせに…」
憎まれ口はきいてしまったけど、そーくんも僕とお別れしたくないと想ってくれたのかと嬉しくなって飛びついてしまった。
だって、謝ったらぎゅーってしてあげるつもりだったし?
だから、そのままぎゅうと抱きつくと、それ以上の力で抱き返してくれた。
…懐かしい…そー君の匂いだ…
暖かくて、幸せで…嬉しい。
「…もう…待たせ過ぎ…」
「…すいやせん…待っててくれたんで…?」
「当たり前です。」
見つめあって、約束のちゅう…と顔を近付けたら、僕は首根っこ掴まれて後ろに引き摺られた。
「ちょ!新ちゃん何やってんの!?お前が変なのに捕まったら、俺がお妙に殺されるんだけど!?」
銀さん…
あ、そうか。銀さんは僕とそーくんの事知らなかったっけ…
「大丈夫です。この人僕のお婿さんなんで。」
「そうでィ。姐さんも公認でさァ。」
僕らが手を握り合うと、その手を銀さんがチョップで叩き落とす。
えー…?
「ちょ!何ソレ!?新ちゃんは銀さんの奥さんでしょ〜が!」
「は?」
「新八は昔からドSのアル。」
「…子供の頃から仲は良かった。」
とっしーに肩車された神楽ちゃんと、なんかニヤニヤしたとっしーが銀さんに言い放つ。
えェェェェェっ!?イヤ、流石にもう肩車はどうなの!?
僕がちょっとビビってると、更にビビりまくった銀さんが目をグルグルさせてる…
「え…?ちょ!えー!?何ソレ!?そうなの?新八ィィィィィィィィィィ!?」
「はい。子供の頃に約束…しました…」
「そうネ。新八はドSのヨメアル。とっしーはワタシの下僕アル。ゴリラも公認ヨ。」
「イヤ、下僕は違うからな。今回のお前らの依頼も、近藤さんがお妙に話しつけてやっと実現したんだからな。」
姉上…皆が江戸に居る事知ってたんだ…
そーくんが僕に逢いに来なくなってかなり怒ってたからな…近藤さん大変だったんだろうな…
僕がそっと心の中で近藤さんに手を合わせていると、スッと僕の前に移動したそーくんが僕の手を取る。
真剣な顔が…王子様みたいだ…
「新八ィ…俺ァ定職に就きやした。給料の3か月分も、とっくに買いやした。」
ポケットから小さな箱を取り出したそーくんが、僕の目の前で箱を開ける。
…うわ…高そうな指輪…
「家事もちゃんと手伝いやすし、お前さんを1人になんかしやせん。絶対ェ幸せにしやす。だから…俺と結婚してくれやせんか…?」
スッと左手の薬指に嵌る指輪…
なんで…あつらえたように入っちゃうかな…
僕がずっと想っていたように、そーくんもずっと僕の事好きでいてくれたんだ…
それなら…
ううん、そうじゃなくても僕の心は決まってる。
僕が行く先は1つだけ。
僕が行くのは、貴方の元にだけ…
「やくそく…ですからね…アンタを幸せに出来るのは僕だけなんですから、仕方ないんでお婿さんに貰ってあげます。」
素直に言えなくて、可愛くないって思われたかと不安になる。
そっと様子を伺うと、ニヤリと笑う悪だくみな顔。
「残念でさァ。新八が乗り気じゃないんならこの話は…」
そう言って、くるりと振り向いて行ってしまおうとする…え!?
慌てて腕を掴むと、振り返るニヤニヤ顔。
「そんな事言ってないだろ!?そーくんの意地悪!」
「俺ァ大好き全開な新八が好きなんでィ。」
「そんな…」
今更そんな事…恥ずかしくて出来る訳がない。
…でも…そうしないとそーくんが…
…そーくんとずっと一緒に居られるんなら…
「…ま、ツンデレも新八なら可愛いモンでィ。幸せになりやしょう。」
ふわりと微笑んで、首を傾げられる。
…大人な態度なんか見せられたら…僕はメロメロになるんだからな…責任とれよ!コノヤロー!!
「はい、喜んで…大好きな貴方となら…」
意を決して僕が言った言葉は効果絶大で。
今度こそ、僕らは改めて約束のちゅうを交わした…
「新ちゃーん!俺は諦めないからな!!」
「往生際悪いネ天パ。」
END
セカンドステージ『沖田一家』
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