MONSTER・4
全速力で走った勢いのまま万事屋に駆け込むと、銀さんと神楽ちゃんが驚いた顔で僕を見る。
「…新八…?」
「どうしたネ!?新八ぃ…泣いてるアルカ…?」
慌てて駆け寄って来た神楽ちゃんが、僕の顔を覗き込む。
その、いつもに無い真剣な…でも心配そうな表情を見てしまうと、ポロポロと涙があふれて止まらない。
僕は…こんな…女の子の前で泣くなんてカッコ悪いのに…
でも…安心してしまって…止まらない…っ…
僕が、座り込んで声を上げて泣き始めると、神楽ちゃんがオロオロと僕の背中をさする。
「どっ…どうしたネ新八ぃ!?」
「ぅひっ…僕っ…僕ぅっ…」
「あ〜…無理に喋んな…」
銀さんまで僕の傍にやってきて頭を撫ぜるもんだから、いつもにない優しさに気が緩んで、いよいよ涙が止まらない。
言葉にしたくても、口から出るのは意味の無い嗚咽で…
言い訳だって出来やしない。
暫く2人の優しい体温に甘えていると、大分落ち着いてくる。
あぁ…僕にはこんな優しい仲間が居るじゃないか。
きっとすぐに…忘れられるよ…
涙が止まる頃、2人がジッと物言いたげな目で僕を見つめてくる。
流石に…今は本当の事は言いたくない…
なんとかそれっぽく言い訳だけはしておこう…
「あー、すみませんっ!泣いたりして…昨日ちょっとアレした女の子を振ってきたんですが…」
「はぁ?オメー吸ってきたのかよ!?」
「あはは、美味しかったです。」
「…それで、なんで新八が泣くネ。」
…神楽ちゃん鋭い…
流石女の子…そう簡単に騙されないか…?
「実は振られたんダロ。見栄張るなよドーテー」
…何でそっち!?
僕がどれだけ生きてると思ってるんだよっ!童貞な訳…
いや待てよ。
それに乗った方が良いかもしれない…
「そっ…そんな事ねーしゅ!」
「…噛んだ…」
「…図星だったアルナ…ヤらせてもらえなかったネ…」
「ちっ…ちげーしゅ!」
「見栄張るなヨ、新八(童貞)」
「男にはそんな日も有るさ、童貞(新八)」
「ばっ…馬鹿にすんなよ!テメーらっ!!」
僕が怒ると、ゲラゲラ笑いながら2人がソファに戻ってしまう。
でも…いつも通りの2人が、凄く安心する…
思いっきり泣いたし…少しだけスッキリした。
まだ…胸は痛いけど…たった1日だけの恋だったから…
きっとすぐに忘れられる。
すぐに…
それからは、いつも通りに万事屋の掃除をして、タイムセールの時間になったんで買い物に行く。
今日ぐらいは、せめて神楽ちゃんぐらい買い物に着いて来てくれないかな…?
「…僕、買い物に行ってきますけど…」
「お〜」
「行ってらっしゃいヨー」
…あれ…?
ここまでいつも通り…?
「…荷物持ちなんて…」
「悪いね〜、今日は忙しいんだ」
「ワタシも忙しいネ」
…あぁ、そうだよね…
さっき優しかったからって、期待した僕が馬鹿でしたっ!!
「はいはい!じゃぁ行ってきますっ!」
「お〜」
「酢昆布も買って来るヨロシ」
「はいはい!1箱だけだからね!?」
「ドケチー」
罵声を後にして、ちょっとガッカリしながら僕は大江戸ストアに買い物にでかけた…
◆
「…行ったか…?」
「行ったアル!」
ダラダラとソファに寝転がっていた2人が、耳をそばだてて新八が遠ざかって行くのを確認して、素早く起き上がる。
そして、誰が聞いているでも無いのに、顔を寄せて、こそこそと話しだす。
「新八アレ、本気で泣いてたぞ…」
「銀ちゃん大変ネ!新八からドSのニオイがしたアル!!相手はドSネ!!」
「はぁ?沖田君!?イヤあの確かにアノ子可愛いけど、男の子だよねぇ…いやまさか、実は女の子…?」
銀時は難しい顔をするが、神楽はただひたすら怒っていた。
「そんなの関係ないネ!新八、ドSに振られたネ!!」
神楽が怒りにまかせて地団駄を踏むと、銀時が音も無く立ち上がる。
「まぁ、どっちにしてもちょっと文句言ってやらねぇとな。」
「あたぼうヨ!ブチのめしてやるネ!!」
神楽も立ち上がり、2人が肩を怒らせて万事屋を出ると、いつの間にか腹巻にドスを仕込んだ定春も後に続く。
目指すは真選組屯所。
その勢いは、誰にも止められなかった。
続く
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