その日のうちに、僕の携帯にはそー君から連絡が入った。
迷惑では…なかったんだよね…?良かった…
それからは、営業先に行く度にそー君の居る喫茶店に行くようになった。
昔のちっちゃかったイメージはやっぱり離れないけど、見た目が大きくなっている分、割と対等に話も出来るんでなんだか楽しい。
新しい友人が出来たみたいだ。
「そー君すっかり大人になっちゃったねぇ。お家の人とも仲良くできてる?」
ちょっと気になってたんで思いきって聞いてみると、きょとん、としたそー君がははっと笑う。
「今、俺、1人暮らしなんでさァ。」
「えっ!?お義兄さんやお姉さんと仲良く出来なかったの…?」
「そんな事ありやせん。でも…やっぱり居ずらいですしねェ…」
ははっ、と笑ってるけど…大変だよね…あ…だから沢山バイトしてるのか…
「ご飯とかちゃんと食べてる?」
「色んなコンビニ廻ってまさァ。結構美味いトコ知ってんですぜ?俺。」
「そんな…駄目だよっ!コンビニ弁当ばっかりなんて!!」
「えー?でもカップめんは週2ぐらいだし…サラダもちゃんと喰ってますぜ?」
ぷう、と膨れて言い募るけど…
「駄目ったら駄目っ!あ!ご飯とか作りに来てくれる彼女とか居ないの?そー君モテそうだし…」
「居やせん、そんなの。」
…そんなもんなのかな…?
最近ではイケメンでもそう簡単には彼女なんて出来ないのかなぁ…?
「…よし、じゃぁ僕が作りに行ってあげるよ。」
「えっ…?」
「こう見えても料理は得意なんだよね。」
ふふん、とちょっと胸をそらして僕が言うと、そー君の顔がぱあっと輝く。
「じゃあ俺、新にいちゃんのホットケーキ食べてェ!」
「え…?それじゃぁおやつだよ…」
「食べてェ!」
ぐっと胸の前で拳を握って目をキラキラさせてる…
あぁ…ホットケーキ、大好きだったもんなぁ、そー君…
「んー…じゃぁご飯もちゃんと食べるって約束してくれたら、作ってあげる。」
「やったー!俺、大好きでさァ、新にいちゃんのホットケーキ!」
大きくなっても変わんないなぁ…はしゃいじゃって…
店長さん睨んでるよ………
「じゃぁ、僕の会社が終わったら待ち合わせしよ?そー君の家ってどこら辺?」
「この近くでィ。ここの前を右に真っ直ぐ行ったコンビニの裏でさァ。」
「あー…あぁ、あそこね!じゃぁ、そこのコンビニの前に…えっと…6時頃で大丈夫?」
「おう!」
「じゃあ、6時頃に。」
「待ってまさァ!」
ニッコリ笑ったそー君が、スキップしながらカウンターの中に戻る。
はしゃいじゃって…可愛いなぁ…
あ!やっぱり店長さんに怒られたよ…頭叩かれてる…
でも…店長さんもニコニコ笑って、僕に会釈してくれた。
良くしてもらってるんだなぁ…
なんだろ…ちょっとだけ…ちょっとだけ淋しいや…
◆
今日は残業出来ないから、僕にしては大急ぎで仕事を終わらせて席を立つ。
すると、1年先輩の山崎さんがすまなそうに笑いながら僕に近付いてくる。
「新八君今日はもう終わり?ちょっとだけココ手伝ってもらえないかな…?」
顔の前で手を合わせられるけど、今日ばっかりは出来ないよ!
「すみません…今日はちょっと用事が…」
僕がペコリと頭を下げると、山崎さんの目がキラリと光る。
「えっ?何、新八君デート?」
なんでだろ…すっごい焦ってる…
「いえ、そんなんじゃなくて…」
「誤魔化さなくても良いじゃん、可愛い娘?」
「可愛いですけど…男の子ですよ?昔よく遊んであげてた子に再会して…1人暮らしでロクなモノ食べてないみたいだから、ご飯作りに行くんです。」
僕が猛然と反論すると、山崎さんが3歩後ろに下がる。
何…?
「…それって…新八君が彼女じゃない…?」
…僕が…彼女…?そー君の…?
「ばっ…何言ってんですかっ!んな訳無いでしょうがっ!!可愛い弟にご飯作ってあげるのに、何変な想像…山崎さん変ですよ!?」
「えー?」
不満げな顔で口を尖らしてるけど、なんでそんな発想出てくんだ!?
おかしいだろ、この人!
それとも山崎さんってソッチ…?
僕がちょっと引いて1歩下がると、いきなり後ろから怒鳴り声が響く。
「ゴラァ!お前等何騒いでんだ!!」
うわっ…サブチーフの土方さんだ…
捕まったら長いかも…
「あ、サブチーフ!聞いて下さいよ!!新八君がこれから1人暮らしの男の所にご飯作りに行く、って言うんですよ〜!?」
「山崎さん、その言い方だと何か誤解が…」
「…志村…俺は人の性癖にとやかく言うつもりはないが…明日の仕事に支障はきたすなよ…?」
ちょっと頬を染めて、目をそらして僕に言う。
何想像してんだよ!?
「ちょっ…サブチーフまでっ!そんなんじゃありませんってば!!」
「いや、そう言うのは個人の自由だから…な?」
「だ−かーらー!弟分の所に純粋にご飯作りに行くんですってば!!コンビニ弁当ばっかりだって言うからっ!」
僕がそう怒鳴ると、2人が顔を見合わせる。
「だって…」
「なぁ…」
「だってじゃありませんよっ!もう、イヤらしい人達だよっ!」
「そ〜だよ〜?多串君はムッツリなんだから近寄っちゃ駄目だよ〜?」
「あ、社長…」
後ろからのしかかってこられると重いよ…
坂田社長は就職決まらなかった僕を拾ってくれた恩人だけど…
この人もちょっと変わった人だよね…
なんかっちゃぁ僕に抱きつくし…スキンシップ好きだよね…髪の色も銀色だし…本当は外国の人なのかな…
無いか。
顔は日本人だもんな。
「社長だなんて水臭い〜!銀さんで良い、って言ってんのに新ちゃんは真面目だよね〜?」
「社長は社長ですから。」
僕がするりと社長の腕の中から抜け出ると、苦笑される。
「とにかく!僕今日は本当に急いでますんで、お先失礼します!」
捕まらないうちにサッと踵を返して部屋を出る。
大分時間取られちゃったなぁ…ちょっと遅刻しちゃうかも…
本当はあの人達皆モテるから、僕をからかって遊んでるんだよね!そりゃぁ僕はモテませんよ!!
ホント、たち悪いよっ!
プリプリ怒りながらも、エレベーターを降りてすぐ、僕は駅までダッシュした。
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