※ 沖新は出てきません。近妙風味です。


MONSTER・おまけ



新ちゃんが、いつか誰かを連れてくるとは思ってはいたけど。
まさか男の子を連れてくるなんて思ってもいなかった。
確かに綺麗な顔をしているけど、沖田さんだなんて…

そりゃぁ、新ちゃんがそんな事しなくたって子孫(?)を増やせる生き物だ、っていうのは知っているけど…
えぇ、新ちゃんの暗示が解けた訳じゃないわ。
子供の頃の私達の記憶が少しおかしかったり…
新ちゃんがたまに、ゾクリとする様な眼をしているのを見てしまったり…
そんな些細な違和感が気になって、銀さんを締め上げたら案外あっさり教えてくれたの。

新ちゃんが…吸血鬼だって…

それを知った時は、少しだけショックだったけど…
だけど、新ちゃんは新ちゃんだし、私はそれでも構わなかった。
そんな事より、それでもう一緒に居られなくなる事の方が嫌だったから。
だから私は何も気付かないふりをして、今迄ずっと一緒に暮らしてきた。
これからもずっと、一緒に居られると思ってた。

なのに…あの時新ちゃんは、私より沖田さんを選ぼうとした。
私の…家族だって暗示を解こうとした。

あの時沖田さんが

『新八と姉弟でいたいなら、俺の芝居に付き合え』

というメモを通帳で隠して見せてくれなかったら…
私がそれに乗らなかったら…
今頃はもう、何もかもが消えてしまっていただろう…

そう思うと、悔しくて、悲しくて…
でも、やっぱりそれよりも、今迄通りでいたくって…
私はお金に目がくらんだフリをした。

沖田さんなら…安心して新ちゃんを任せられる気はする。
でも、やっぱり許せない。

それ以上二人を見ていたくなくて…
何処かでこっそり泣こうと逃げるように家を出たけど…何処にも私の居場所が無くなってしまったように、何処に行っていいのか分からない。
当て所無くただ歩き続けて、行きつく所はやっぱりいつもの馴染みの場所。

何を見るでもなく商店街を歩いていると、薔薇の花束を持ったゴリラを見かけた。

今は、相手なんてしてあげられない…

気付かれる前に路地裏に隠れて、ゴリラが行き過ぎるのをそっと息を潜めて待っていたのに…
いつもなら大騒ぎで私に駆け寄ってくる筈のゴリラが、静かに私に歩み寄ってくる。

「…お妙さん…どうかしましたか…?」

酷く心配そうな表情で、そっと私を伺ってくる…何…?いつもと違う…

「どうしたって…貴方、部下にどういう躾してらっしゃるの…?」

私が静かに怒りをぶつけると、いつもなら大騒ぎするゴリラが静かに頭を下げる。

「…総悟ですね…驚かせてしまってすみません。でも、あの二人は…きっと二人は気付いていないと思いますが、やっと又逢えたんです。」

「…え…?」

「お妙さんは、俺達や新八君の事には気付いているんですよね…?」

凄く寂しそうな顔で微笑まれる。
そんな顔…全然貴方らしくない…そんな顔…知らない…

「えぇ…新ちゃんの事は知っています。」

私が肯定すると、今度はにこりと微笑まれる。

「お妙さんは聡明な方ですからご存じだと思っていました。実は、あの二人は百年前に一度愛し合っているんです。でも…人間の手にかかって総悟は死んでしまった。新八君は、大好きな人間と恋人の板挟みでその事を忘れてしまっているようですが…でも、総悟が生まれ変わって、二人は又巡り合った。お互い記憶なんか無くても、又愛し合った。」

そう言ったその人の顔は、我が事のように幸せそうで…
でも、そんな事…私は知らない…そんな昔の事…私は知り得ない…

「だから…認めてやってくれとは言いません。せめて見守ってやってはくれませんか…?」

そっと、父親のように優しく笑うその顔で、私の心臓が、ドキリと鳴った。
な…っ…相手はあのゴリラなのよ!?
でも…さっきまでの悲しい気持ちが無くなってきているのは確か…

「…そんな言い方…ズルイです…」

「すみません。その代わり、気に入らない事が有ったら俺に当たって下さい。それぐらい受け止めます。」

困った顔で薔薇の花束を渡されると、思わず受け取ってしまった。
…花束に罪は無いもの…

手が塞がったそのままでふわりと抱き寄せられると、その広過ぎる胸に顔を埋めてしまった。
思ったより安心するのが癪だけど…今は…

「…ズルイわ…弱みに付け込むなんて…っ…っあの子が幸せになるなら…私っ…私は…」

そっと…
ふわりと壊れものでも包むように抱きしめられると、声を上げて泣いてしまった…
だから嫌だったのよ…この人に触れるのは…
こんなに優しくされたら…心が揺らいでしまうもの…

「お妙さん…お妙さんには俺が居ますから…ずっと傍に居ますから…好きです…」

「本当にズルイ人…そんな事…今言うなんて…」

そっと見上げると、呆然と私を見る近藤さんが…何…?

「おっ…お妙さん…?お妙さんが俺の腕の中に!?つっ…遂に俺の気持ちが通じたんですね!?お妙さァァァァァん!好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

力一杯抱きしめられると、ギシリと身体が軋む。
そう思った瞬間に、私の腕は勝手に近藤さんを殴り飛ばしていた。
綺麗に弧を描いて大通りまで飛んで行ったのを認めてすぐに歩きだす。
私が路地裏を出たのを認めると、ズルズルと這いずってゴリラが近付いてくる。

「お妙さん…?あれ?お妙さん?」

私の足に縋りつこうとするんで、ゲシゲシと踏みつけると動かなくなる。
何だったの!?
さっきまでの近藤さんは…いつもああなら…私だって…

自分のちょっと怖い考えを、頭を振って追い払う。

気が付くと、さっきまでの悲しい気持ちは何処かに行ってしまっていて、考えるのはあの人の事ばかり。
…この為に…私の所に来てくれたのかしら…?
振り返ってみると、未だに道の真ん中に倒れ込んで気絶している大きい身体。

少しだけ感謝して、顔についている泥ぐらい拭いてあげようかと、ハンカチを取り出して私は近付いて行った。