「えぇぇぇぇっ!?お嫁さんっ!?神様のお嫁さんんんんんんんっ!?」
「…嫁に行った先も知らなかったんで…?」
自称神様の男が、はぁっ、と呆れかえったような顔で僕を見る。
「しっ…仕方ないじゃないですかっ!姉上…お嫁に行くってだけ言って居なくなっちゃったんですからっ!」
「おー、コッチに来たら人間の世界からは消えちまうからなァ。皆忘れてるだろィ?」
「…はい…商店街の皆さんも姉上の事は忘れてしまっていて…まるで初めっから居なかったみたいで…」
「そうなるんでィ。神界はココとは違うからねィ。」
神様男が自慢気に言う。
あれ…?でも…
「じゃぁ、何で僕は覚えているんですか…?」
「それは姐さんが望んだし…お前さんが次の神主だからなァ。」
「…はぁ…」
作り話にしては出来過ぎてるよな…
この人…本当に神様なんじゃ…
イヤイヤイヤ、そんな訳無いよね!無いよね!!
「…お前さん本当に神社の息子なんですかィ…?なんで神様否定するかねェ…」
「神様は否定してませんっ!アナタが神様だって言うのを疑ってるんですっ!!」
「…う〜ん…そんなん証明出来やせんねィ…」
ぷかぷかと浮いた神様男が、ぐるりと回りつつ何か考えてる…
って浮いてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?
何か仕掛けが有るんじゃないかと、ぱたぱたと頭や背中や足なんかを叩いてみるけど…
ソコに僕の期待した釣り紐や透明な支えみたいなものは無くて…
この人…本当に空中に浮いてる…
「…もう良いです…アナタ、神様ですよ…で…?何でしたっけ…?」
「そうでィ!お神酒の質が落ちてんじゃねェか!何でイキナリ変えたんでィ!?」
ぐぐっと僕に凄んでくるけど…
いくら神様の言う事だって、聞ける事と聞けない事がある。
僕もぐぐっと顔を近付けて言い返す。
「そんなの姉上が居なくなって神社の経営が成り立ってないからですよっ!!アンタ、神様だって言うんならウチの赤字なんとかして下さいよっ!!」
「あ…?だから、姐さんがコッチ来てから参拝客増えてるって言ってるだろィ?ちゃんと賽銭箱見なせェ。」
「だから!賽銭箱なんてたかが知れてるでしょうがっ!大体、開け方知らないんですってば!!」
「んじゃ後で開けてやらァ。それより…お前さん名前は…?」
神様男がちょっと頬を染めてそんな事聞いてくる。
そんな事も知らないのかよ、神様なのに…
「今までは興味無かったんでィ。それより、お前さんの名前は!?」
ちょっとイライラした感じでとんっ、と僕のおでこを突いてくるんで、まぁ名前ぐらい良いかと教えてあげる。
「新八です…志村新八。」
「ふーん。俺ァ沖田でィ。沖田総悟でィ。総悟様、って呼びなせェ。」
「何で“様”付けなんだよっ!?…ってあぁ、神様だっけ…」
納得いかない気もするけど、そう言えばそうだった…
「んじゃぁ新八よぅ、お前さん姐さんに会いたかァねェですかィ?」
「えっ!?会えるんですかっ!?」
「おぅ。俺の嫁になって一緒に神界に行けば会いたい放題ですぜ!」
沖田様がぎゅうっと僕を抱きしめて、すりすりと頬を擦り寄せてくる…
「イヤイヤイヤ!無理ですからァっ!!嫁は無理っ!!」
「…何ででィ…俺ァ結構良い男だと思いやすぜ?甲斐性も有るし、浮気なんざしやせん。何処が不満なんでィ。」
「そう言う問題じゃ無くてですね…僕…男ですから…」
「何でィそんな事。男なんざ…男ぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
ズバッと僕から離れてじーっと見つめられた後、ぺたぺたと体を触られる…
納得…してくれるかな…?
「分かって下さいましたか?」
僕が言うと、呆然としたままこくりと頷く。
その仕草は…なんか可愛い…
「じゃあそう言う事で。あ、お神酒は何とか頑張って元に戻しますんで。それじゃぁ…」
もうお別れかと思うとちょっと淋しいけど…でも、神様なんだし仕方ないよね。
久し振りに楽しかったよな…
「それじゃ、って…俺ァ何処にも行きやせんけど?言ったじゃねェか、ココの神様だって。」
「イヤだって!さっきまで居なかったよね!?」
「ずっと居やしたぜ?さっきやっと新八と波数が合って逢えるようになっただけでィ。」
「えー…?」
「なんでィ、その不満気な感じは。」
ぷぅ、と膨れる顔が可愛くて、クスッと笑ってしまうと沖田様が赤くなる。
「…やっぱかーわいいでさァ…新八ィ俺の嫁になりなせェ。大丈夫!俺ァ男とか気にしねぇから!!」
「ソコ一番大切ぅぅぅぅぅぅぅ!気にしろよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
僕が突っ込んでも、ニコニコ笑った沖田様は全く引かない…諦めろよっ!!
「流石姉弟、最初の頃の姐さんにそっくりでさァ。あの頃ァ俺、近藤さん殺されると思いやした…でも今は夫婦ですからねェ…俺も近藤さん見習って頑張りまさァ。よろしくな、新八ィ。」
ちゅっと音を立てて、僕の唇に何か柔らかいモノがあたる…
えっ…?ちょっ…なっ…キスぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?
僕神様にキスされたっ!?
そっ…そんな…ファーストキスだったのに…って!
神様はノーカンノーカン!それ以前に男はカウントしないからっ!!
「きっすはきっすでさァ。新八のふぁーすときっすもーらい♪」
「あげて無いしっ!!大体、僕の考えてる事勝手に見るなっ!!」
「…見るの止めたら嫁に来やすかィ?」
「行きませんっ!僕は男ですっ!!今度勝手に頭の中見たら叩き出しますからね!!」
「へーへー、新八が嫌だってェなら見ないように努力しまさァ。」
「頼みます!!」
ニヤリと笑う姿は、なんだかキラキラ光ってて…カッコいい…って後光かっ!?
得意気な顔がこれからの不安を掻き立てるけど…
でも良く考えるとウチってコノ人の住処なんだよね…
僕に見えて無かっただけで、ずっと一緒に住んでたみたいだし…
コノ人が居なかったら、ウチも成り立たないんだし…
なんとか頑張ってみようと思いました。
その後沖田様に手伝ってもらって賽銭箱を開けてみたら…
僕は一瞬気絶するかと思ってしまいました。
こっ…こんな金額初めて見たよっ!!
近藤様有難う!姉上有難う!!
…ついでに沖田様有難う…
続
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