『登校の時に、元気に挨拶する』
「いよいよ最後のオオヅメネ。」
ニコニコ笑った神楽ちゃんが、携帯の例の画面を僕に差し出してきた。
「…あ…遂に最後の1つ…」
「そうネ!!」
『登校の時に、元気に挨拶する』
「…なんかコレって、本当ならもっと早くにやる事だよね…」
僕がちょっと遠い目でそう言うと、チッチッチッ、と人差し指を立てて横に振った神楽ちゃんが険しい顔をする。
「相手はアノドSヨ。」
「…あー…そうだね…沖田君だったね…」
うん、良く考えなくてもコレが一番難しい。
だって、沖田君は大体いっつも遅刻して来るから…
ひどい時は昼からとかしか来ないし…
「新八、これはもう寝坊するしかナイヨ。」
「…えー…」
そんな、折角皆勤賞狙ってたのに…でも…ここまでこの方法で今までより仲良くなれたもんなぁ…
やっぱり遅刻して朝の挨拶しようかなぁ…
うん、最近は遅刻って言ってもそんなに遅くなくなったし…
「うん、遅刻してみるよ!」
僕が握りこぶしを握って決意を固めると、神楽ちゃんがニヤリと笑う。
「真面目な新八が良く言ったネ!その調子でそろそろ告れヨ。」
「えっ!?そんなっ…そんなのはまだっ…!」
「まだもナニも無いネ。告らなきゃドウにもならないアル。」
「だって…僕男だし…そんなの…気持ち悪がられるかもしれないじゃん…折角ちょっとだけ仲良くなれたのに…」
言っていて不安になってきて、僕がどんどん俯くと、神楽ちゃんが、はんっ、と鼻で笑う。
そんな!人事だと思って…っ!
「そんなの言ってみないと分からないネ。ワタシ、新八は優しいから好きだけど、そーゆうウジウジしてるトコはムカツクネ!」
ハッキリ言われて、驚いて顔をあげて神楽ちゃんを見ると、本当に不機嫌そうな表情をしている。
そんな…事言われたって…
「普通、男の人は男は好きにならないじゃん!神楽ちゃんは女の子だから、僕の気持ちなんて分からないんだよっ!!」
「分からないアル。言ってもみないであきらめるなんて、ワタシには分からないアル。」
「そんな…だって…」
「当たってくだけるヨロシ。」
「イヤ!砕けたくないしっ!!」
僕がいつものように突っ込みを入れると、神楽ちゃんがニヤリと笑う。
「そのイキオイでドSにもツッコムヨロシ。骨は拾ってやるヨ。」
「…神楽ちゃん…」
そう言った神楽ちゃんの笑顔がいつもに無く優しくて…
僕はちょっとだけ泣きそうになった。
…そうだよね…言ってみないと…分からないよね…
「分かったよ。僕、告白するよ…!」
ニカリと笑った神楽ちゃんが、ぽんぽんと僕の頭を撫でる。
そこからは、2人で一生懸命計画を練った。
明日…明日、僕は沖田君に告白します。
それで振られても…神楽ちゃんが一緒に泣いてくれるから。
だから、僕に出来る事を、精一杯やってみるんだ。
次の日
朝から僕の家まで迎えに来てくれた神楽ちゃんと一緒に、沖田君が登校する時に通る道で待ち伏せする。
遅刻しちゃうけど、仕方ないよね。
1日ぐらい…それよりもっと大事な事が有るんだから…!
「お!ドS発見!!頑張るネ、新八!!」
ドン、と背中を押されて、僕は沖田さんに向かって走り出した。
言うんだ…沖田さんの事が好きですって…言うんだ…!
あ、その前に挨拶しなきゃ…
「沖田君おはよう!走らないと遅刻しちゃうよっ!!」
僕が駆け寄りながらそう挨拶すると、ゆっくり振り返った沖田君が驚いた顔をする。
「おー、志村くん。今日は遅いねィ。」
そう言いつつ、隣に並んだ僕の腕を掴む。
え…っ…?
「沖田君…?走らないと…遅刻しちゃうよ…?」
「折角朝から出逢ったんでィ、一緒に遅れやしょう。」
ニヤリ、と笑って、ぐいと引き寄せられると、顔が赤くなってしまう…
チャッ…チャンス…かな…?
「イーヤーだぁーっ!皆勤賞がぁっ!!はーなーせーよーっ!!」
うわぁぁぁっ!
又口が勝手にっ!!
そんな事なんで言っちゃうんだよっ!僕ぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!
「連れない事言いなさんな。一緒に遅刻して噂になりやしょうぜ?」
「何が!?」
噂って…不良になったとか…?
僕が不思議に思ってじっと沖田君の顔を見ると、沖田君が嬉しそうに笑う。
「一緒に昨日と同じ服で登校するなんざ、怪しい関係じゃぁねぇですかィ。」
「は!?制服なんだから同じに決まってんだろっ!?」
何が言いたいんだよ、沖田君…
僕が怪訝な顔のまま突っ込みを入れると、はぁ、と大きな溜息を吐かれる。
「そうじゃなくてですねィ…恋人っぽくねェかィ?」
「えっ…!?」
お…きた…くん…?
今…なんて…?
驚いたまま、じっと沖田君の顔を見つめると…
沖田君が、ふわりと…物凄く綺麗に笑う。
「恋人っぽくねェですかィ?」
…2回…言った…
「…っぽい…です…」
あまりに驚いて僕が立ち止まってしまうと、そっと僕の手を握った沖田君がゆっくりと歩き出す。
「恋人っぽい、って同意してくれたって事ァ…俺ァ期待しちまって良いんで…?」
振り返らないで、そう言ってくれる沖田君の耳が赤い…
まさか…そんな…
「沖田君…あの…っ…ホントに…?」
「何がでィ。志村くんこそ流されてんですかィ…?」
ピタリと立ち止まって振り返った沖田君の顔は、怖いほど真剣で…
「あのっ…僕…沖田君の事が…っ…」
「おっと、それァ俺が先でさァ。志村新八くん、俺ァお前さんが好きでィ、惚れてまさァ。俺と…付き合ってくれやせんか…?」
…あれ…?
僕…夢見て…?
ギュッと頬っぺたを抓ってみると、凄く痛い…
本当に…?
じっと沖田君を見つめると、ひどく不安そうな表情が…!
「あっ…!あのっ!僕っ…僕も沖田君の事が好きです!大好きですっ!!」
半ば叫ぶように僕が言うと、沖田君が安心したようにふわりと笑う。
そのまま近付いてきた綺麗な顔が見えなくなって、僕の唇に柔らかくて暖かいものが当たる。
…!
キス…された…?
「んじゃ、遅刻しねェように走りやすか。」
「…はい…!」
お互いに、ぎゅっと手を握り直して全速力で走りだす。
学校に着いたら、ニヤリと笑った神楽ちゃんに、
『良かったナ』
と頭を撫でられて、抱きつかれた。
僕は嬉しかったんだけど…
それにヤキモチを焼いた沖田君が神楽ちゃんに喧嘩を売って、大騒ぎになって…
僕らはクラス公認になってしまった。
神楽ちゃんの思いつきで始めた事だったけど、本当に恋人になれるなんて…
マニュアルも、意外と馬鹿にしたもんじゃないのかなぁ…?
そんな風に思いました。
終
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