〜プロローグ〜
僕の名前は志村新八、何処にでもいるごくごく普通の高校2年生だ。
成績も容姿も中の中(だと思いたい)だし、家庭環境だって特に変わった事は無いと思う。
友達にも恵まれてるし、毎日が楽しい。
…まぁ…恋人は居ないけど…好きな人は居る。
そこだけ、ちょっとだけ人とは違う恋をしている。
可愛い女の子なんて、沢山居るのに…僕はよりにもよって、同性である男の人を好きになってしまった。
元々男の人にしか興味が無いのかって言われると、そんな事は決して無い。
だって、普通にアイドルの女の子は好きだし!大好きだし!!
友達である山崎君とかと、目が合ったり、手が触れたとしても、特に何も感じない。
でも、あの人は違う。
視界に入っただけで、目が離せなくなる。
目が合ったりなんかしたら、心臓がドキドキと騒ぎ出す。
隣に並んだりしたら、顔に血が上ってきて倒れそうだ。
手が触れたりなんかしたら…
想像しただけで、身体が震えてしまう。
どうせ…同性である僕に望みなんて無いのは分かってるけど…
でも、あの人の姿を見てしまうと、どうにも大きくなってしまうドキドキが止まらない。
こうなったら、思い切って当たって砕けてやる!と思っても、そんな勇気は僕には無くて、そっと見ている事ぐらいしか出来ない。
たまに、クラスメイトの1人としてお話し出来るだけで、幸せを感じてしまう。
そんな今の関係を壊してしまうのが怖いんだ。
だから今日も、隣をそっと覗き見る。
はぁ…今日もカッコいいなぁ…
自然と緩む顔を前に向けると、目の前にはグルグル眼鏡のニヤリと笑った女の子…っ!
「新八ぃ〜、又見てるアルか?」
「かっ…!神楽ちゃんっ!?なっ…何を見てるって…!?」
慌てて立ち上がって、神楽ちゃんを引っ張って教室を出る。
そーっと見てるんだから、まさかバレてはいないと思うけど…
とっ…隣でなんて、万が一バレてたら、あの人にも僕の気持ち伝わっちゃうからね!!!
廊下に落ち着くと、神楽ちゃんが、はぁーっ、と呆れたように溜息を吐く。
「…何って…バレて無いとでも思ってるアルカ…?新八いっつも真っ赤な顔でアイツの事見てるネ。バレバレヨ。」
「なっ…」
「恋するヲトメネ。」
「そっ…そんなの気のせいだろ!僕はお通ちゃんが…」
うわぁぁぁっ!完璧にバレてる!!
それでも何とか誤魔化そうと言い募るけど、神楽ちゃんはジトリと僕を見たままふはん、と鼻で笑う。
「ワタシを誤魔化せると思ってるアルカ?それに、皆知ってるネ。」
…皆…皆って…まさか…あの人にも…!?
僕の目が恐ろしく泳ぎだすと、神楽ちゃんがポン、と僕の肩を叩く。
「安心するネ。アイツは気付いて無いアル。」
にひっ、と歯を見せて笑われると、ちょっとだけ落ち着いてくる。
「…神楽ちゃん…気持ち悪くないの…?だって僕…男だし…」
「新八ならアリヨ。かーわいいからナ!相手がアイツってのが納得いかないけど…」
「…有難う…」
複雑な気分だけど…でも良かった…
相談とか…出来るかな…?神楽ちゃんはあの人と仲良いし…
「そんな新八にローホーアル。」
「朗報…?」
怪しげな笑顔で携帯をカチカチと操作した神楽ちゃんが、何処かのサイト画面を僕に付きつける。
『気になる彼を振り向かせる7つの方法』…?
「こないだ見付けたネ!本当かどうか試してみたかったアル!」
キラキラと目を輝かせて僕を見るけど…これって女の子が男の子に対してする事じゃ…
「でも神楽ちゃん…僕じゃぁちょっと違うんじゃ…」
「男も女もそんな変わらないネ。コイビトになりたいってのは同じアル!」
…うん…確かにそうだよな…
何もしないでウジウジしてるより…これぐらいなら…試してみてもおかしくないよね…?
「うん、そうだよね!僕、頑張ってみる!!」
「おう!頑張れヨ!!」
そうして、僕のちょっとしたアプローチは始まった。
ファイト!
続く
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