『友達の家に遊びに行くときに、○○ちゃんの家何処か知ってる?、と道を聞く』



その日、珍しく神楽ちゃんが学校を休んだ。

…どうしたんだろ…風邪でもひいたのかなぁ…?
なんだか心配なんで、学校帰りにお見舞いに行こうと思ったけど…
そう言えば僕、神楽ちゃんの家知らないや…

僕が、うーん…と考え込んでいると、後ろから声がかかる。

「うるせェなダサ眼鏡、うんこかィ?」

「そんなんじゃねーし!!…って沖田君…?」

うわっ…僕から何か言った訳じゃないのに話しかけてくれた!
そんなに僕煩かったのかな…?
イヤ、そんな事ないよね!ここ暫く頑張ったから、話しかけやすい感じになったんだよね!!
…まぁ…内容は最悪だけど…でも、嬉しい!

「何でィ、お前さんなら学校でうんこ出来んだろ?そんで上から水掛けられろ。」

「イジメカッコ悪い!!」

「じゃぁ何なんでィ。俺様が解決してやるから静かに寝かせろィ。」

「イヤ、もう放課後だからね!」

なんだかんだで優しい…のかな…?
沖田君なら神楽ちゃんと仲良いし…神楽ちゃんの家知ってるかな…?

「あの…神楽ちゃん今日休んだんで…心配だからお見舞いに行こうと思ったんだけど、僕神楽ちゃんの家知らなくって…」

僕がそう言うと、沖田君が目を眇めてジトリと僕を見る。
…何か…呆れられてる…?

「お前さん、チャイナと友達だったんじゃないんですかィ…?」

…肩をすくめてプルプルと首を振られると、何だか無性にイラッとする…

「イヤ、神楽ちゃんは女の子ですからっ!家なんて聞かないし…」

「女の子ねェ…ダチなら関係無いと思いますがねィ…」

「うるっさいなぁ!じゃぁアンタ神楽ちゃんの家知ってんのかよっ!?」

うわぁ…しまった!
又喧嘩腰に…でも、しゃぁないじゃん!!沖田君が何か馬鹿にしたみたいに言ってくるし…
引くに引けなくてジトリと沖田君を睨んでいると、ニヤリと笑った沖田君が立ち上がる。

「おう、知ってらァ。良いぜ?俺が連れてってやらァ。家も教えてもらえない可哀想な駄眼鏡君に特別サービスでさァ。」

「なっ…!」

僕が言い返そうと立ち上がると、さっさと自分の鞄を持った沖田君が僕の手を掴んで歩きだす。
慌てて僕も鞄を持って着いて行くけど…
これ…手、繋いじゃってるよね…?
うわぁ!うわぁ!!どうしよう…!!!
舞い上がったままふわふわした気分で暫くそのまま歩いて行くけど、なんだか手首が痛い…痛…

「痛いよ沖田君っ!ちょ!手ぇ!!」

我に返ると、僕の手首は力の限り握られてて…
コレ、手を繋ぐとかそういうんじゃないよね…

「お−、悪ィ悪ィ。手でもひっぱっとかねェと付いて来れねェかと思って。」

「そんな事ありません!どんだけ目が悪いと思ってんだよ!?」

「イヤ、そういうんじゃなくて…」

そう言いつつ沖田君が歩き出す…ってちょっとっ!!
歩いてるとは思えないようなスピードで、ぐんぐん行ってしまうのを走って追いかけると、くるりと振り返った沖田君が

「な?」

とか、どや顔で言いやがった…む・か・つ・くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!
それでも、ニヤニヤ笑いながら手を差し出されるんで渋々手を差し出すと、今度はギュッと手を握ってくれる。

わっ…!え………?
どうしよう…凄く嬉しい…

僕が幸せに浸っていると、予告も無く沖田君が歩き出す。

「ぎゃっ!ちょっ…!速い速い速いーっ!!」

僕の抗議の声は全く聞き入れられず、ほとんど引きずられて神楽ちゃんの家に向かう。
商店街を超えて、公園を超えて、橋を超えて…
凄いスピードと、長距離とで僕の意識が朦朧としてきた頃、息ひとつ乱していない沖田君がピタリと止まって振り返る。

「ほれ、ソコでさァ。」

神楽ちゃんって毎日遠くから通ってるんだなぁ…
ゼェゼェと息を切らしつつ見上げた先は…

「隣じゃねぇかっ!?」

…学校の隣に有る女子寮で…

「何言ってんでィ、男子が女子寮に入るには色々罠が有って、俺が通った呪いのとおりの道を…」

「中2か!?無いわ!罠なんかないわ!!」

僕が突っ込むと、ゲラゲラ笑った沖田君がぱっと手を離して走って行ってしまう。

「面白かったぜー、眼鏡君。又遊びやしょうー」

「なっ…!」

又…遊ぶって…楽しかったって…
沖田君が…僕と遊んだって…!
まだ息が切れたまんまで凄く疲れたけど…

「又遊ぶって…もちろん遊ぶに決まってんじゃん…」

僕は顔が緩むのを抑えきれないまま、もう小さい後姿しか見えない沖田君に、そっと呟いてみた。


続く