少年再び・3
…何だろう………
何か冷たい………
しっとりとしていて…………
僕がぼんやりと目を覚ますと、子供のしゃくりあげる声がする。
…………!?総悟君っ!!!!
僕が布団から飛び起きると、総悟君は布団に座り込んで、ひっくひっくと泣きじゃくっていた。
「どうしたの、総悟君?怖い夢でも見た?」
「しんぱちぃ…ひぐっ…ごめんなさぃ…」
起き上がった僕の手の下は、しっとりと濡れていた。
あっ…おねしょしちゃったのか…
僕が向こうに行ってた時はそんな事無かったのに…元気そうにしてたけど、やっぱり知らない所に1人でやってきて…不安だったんだな…
泣きじゃくる総悟君を、ぎゅうと抱き締めて、頭を撫でる。
「総悟君、謝ったんだからもう良いんだよ?僕も小さい頃はよくおねしょしちゃったもん。それよりおしり気持ち悪いでしょ?お風呂に入って着替えようね?」
総悟君の顔を覗き込んで、ね?と聞くと、真っ赤に腫らした目でコクリと頷く。
お風呂は沸かしてるヒマ無いから…シャワーで良いか…
とりあえず総悟君の浴衣を脱がせて、お風呂場に放り込む。低い所にノズルをセットして、温めのシャワーを総悟君の肩にかけておく。浴衣とシーツを洗濯機に突っ込んで、布団を干して、着替えを出して、僕の浴衣も洗濯機に突っ込んでシャワーを浴びる。総悟君をピカピカに磨いて、僕もサッパリして朝ごはんを食べる。
食べ終わっても、まだしょんぼりしている総悟君を、ぎゅうと抱き締めてぽんぽんと背中を叩く。
不安なんか、僕がぶっ飛ばしてあげるから…
「しんぱちぃ、ちっちゃいしんぱちにはどこに行ったら会えるんだ?」
「今ここでは会えないなぁ…だって、今は僕もぅ大きいもの。総悟君が元の時代に戻れたら、会えるね。江戸の『恒道館道場』っていう所が僕の家だよ?」
「こーどーかんかぁ…こんどいっしょに行こうぜ!」
「そうだね、僕の実家にも連れて行ってあげるよ。ウチの姉上にも会わせてあげるね!ちょっと怖いから気を付けてね?」
僕が声をひそめると、総悟君がにこにこ笑ってくれた。
「うちの姉上もこわいから、なれてるよ!」
僕らがくすくす笑っていると、突然ドアがばしぃ―――ん!!と開いた。
「新八ィ―!たでぇま帰ぇりやしたっ!!…って、そのガキゃ何なんでぃ!?」
えっ!?総悟さん!?………早いな、オイ。
僕が立ち上がって迎えに出ると、ずかずかずかと近付いて来る。
「おかえりなさい。思ったより早かったですね?ちゃんと仕事終わらせてきました?」
「勿論でィ!土方さんならともかく、近藤さんに任された仕事を適当になんかやるかぃ。」
…むかっ…近藤さんにはそうなんだ………
「へぇ―っ、近藤さんには随分優しいんだ…」
僕がむぅっ、と膨れると、ニヤリと笑って抱き締めてくる。
「なんでぃ、焼いてんのか?俺ぁ新八一筋だってぇのに…新八に早く逢いたくて、超スピードで仕事終わらせて帰ってきた旦那に労いの言葉は無いんですかぃ?」
僕の顔を覗き込んでくる総悟さんに、ちゅ、とキスを贈ると、そのまま深く口付けられる。
「はわわわわ…」
小さく慌てる声が聞こえ…って総悟君!!
僕が慌てて総悟さんの顔を押しのけると、押しのけられて顔を潰したままの総悟さんがむくれる。
「何すんでぃ、新八ィ―」
「子供が見てますからっ!!」
顔を真っ赤にしてぱたぱたと動いている総悟君を見付けて、ちょっと離れてくれる。
「おぅ、そうだ。あのガキァ何なんでぃ?やけに見た事有るツラしたぁガキだが…」
「何言ってんですか、あの子はアンタの子…」
「でかした新八ィ!さすが俺の子でィ!!生まれて1日でこんなでっかく…」
ごつっ…
僕の鉄拳が総悟さんの頭に落ちる。
ナミダ目になった総悟さんが、自分の頭をさすりながらむくれる。
「違うでしょ!あの子は前に話した小さい頃のアンタですよっ!!」
「へぇ―、コイツが…なんでこんな所に居るんでぃ?」
「それは僕にも分からないですけど…何か飛んできちゃったみたいです。」
総悟さんが総悟君の近くに寄って、ぐるぐる周りを回っていろんな角度から覗き込んだり、触ってみたりしている。
「なんだよコイツっ!コレがおっきくなったおれなのか?」
総悟君が触られてる手をぺしっ、と弾いて僕の方に駆け寄って来る。僕の袴の陰に隠れながら、じぃ―――っと総悟さんを観察する。
「…まぁ、びじゅあるはそこそこイケてら。でも、ちょっとしんちょうがたりないよ!!おれはもうちょっとデカくなるよていだい!しんぱちより15せんちぐらいは大きくなるんだい!!」
総悟君が、べぇ――――っ、と舌を出す。
「なんでぃ、ガキゃあ!俺はまだまだ伸び盛りですぜ?そんな事より俺の新八から離れやがれ!」
総悟さんが大人気なく、総悟君の腕を掴んで僕から引き離そうとする。総悟君は離れまいと、ぎゅうと僕にしがみついて来る。あ―…流石同一人物………
「ちょっ、総悟さん!大人気無いですよっ!!手ェ離して下さいっ!!」
僕が何を言ってもお互い一歩も引かない。
もぅ…!!
「2人ともっ!いい加減にしないとお昼御飯抜きですよっ!!」
「「これだけは引けないんでぃ!!」」
最終兵器だと思ったお昼ご飯も、効果が無い。
どうしたら良いんだよっ!?
半ば諦めて、されるがままにぐらぐら揺れていると、突然総悟君が光った。
これは…もしや………
光が薄くなっていくのと一緒に、総悟君も薄くなっていく。
「総悟君!元居た場所に戻れるよっ!…大丈夫、又会えるよ?元気でね…」
泣きそうな総悟君を、ぎゅうと抱き締める。
「しんぱちぃ…ぜったいぜったいわすれないから!ぜったいあいにいくから…!!」
一瞬、眩しく光って、総悟君が、消えた…
きがつくと、道場のかえり道だった。
まいにちしんぱちにあいたいって思ってたから、会いに行けたのかな…?
きっと姉上がしんぱいしてる。
おれははしって家までかえった。
「ただいま姉上!!」
おれが、ちゃのまに居た姉上にとびつくと、姉上があらあらと言ってあたまをなでてくれた。
「姉上、しんぱいかけてごめんなさい。おれ、しんぱちのところに会いに行ってたんだ!」
「あら、道場の帰りに行ってきたの?新八さん、突然居なくなったけど何処に居たの?」
「しんぱちはえどに居たんだよ!!おれ、おとまりしてきたのに…」
なんだか姉上の言ってることがへんだ。
いちにちも居なかったのに、しんぱいしてないよ…道場のかえり…?
「お泊り?そーちゃん朝出て行ったきりよ?あ、また道場でお昼寝してきたのね?夢で会えたのかしら?そーちゃんは新八さん大好きだものね。」
姉上が、うふふ、と笑う。おかしいな…ひるねはしたけど、アレはゆめじゃないよ…
「稽古して汗かいたでしょ?お風呂沸いてるから入っていらっしゃいね?」
「…は―い…」
おれはきがえをだして、ふろばにいく。着物をぬぐといつもの赤ふんじゃなくて、しんぱちがかってくれたなんとかれんじゃーっていう絵のついたぶりーふだった。…やっぱりゆめじゃなかった…
えどのこーどーかん道場ってところにちっちゃいしんぱちが居るんだよな…
こんど近藤さんがえどに行くときに、おれもつれてってもらおう。
だってやくそくしたもん、しんぱちにあいにいくって………
END
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