局長室の前まで行って声を掛けると、どうぞ、という声がする。

「失礼します!近藤さん、沖田さんは今どこに居るかご存じありませんか?」

ぺこりと頭を下げて顔を上げると、目の下に真っ黒いクマを作った近藤さんが笑ってた。
もっ…もしかして…すっと寝ないで仕事してたのかな…?

「おぉ、こんにちわ新八君。総悟の所に遊びに来てくれたのかな?アイツはさっき仕事が終わって自室に居るよ?」

「有難う御座いますっ!」

もう1度頭を下げて走り出すと、後ろから仲良くなー、と声が掛かる。


あぁ、やっと…やっと逢える…
早く…早く………

沖田さんの自室の前に着いて、ガラリと戸を開ける。

「沖田さんっ…」

「…新八ィ…?」

そのままの勢いで、どんっ、とぶつかってしがみつく。
沖田さんは寝間着に着替えてこれから寝るところだったみたいだけど…もう我慢出来ないっ…

「どうしたんでィ、新八ィ…?」

「…ほ…しいんですっ…」

「…は…?」

「アレが欲しいんです…アノ棒が…っ…」

僕が恥ずかしさを堪えてそう言うと、沖田さんがニヤリと笑う。

「おぅ、たっぷりヤリますぜ?期待しなせェ…」

するりと僕の頬を撫でた沖田さんの手が、そろりと下がる。

…あぁ…やっと…



その少し後、真選組屯所の沖田の自室前はすし詰め状態だった。
神楽の思わせぶりなセリフを聞いて暫く呆然とした銀時だったが、なんとか我に返って新八を追いかけた。
行く先々で出会った新八ラバー達に事のあらましを伝えていくと、全員が新八めがけて走った。
新八の貞操を守ろうと、押し掛けて来たのだ。

沖田の自室前の襖にピッタリと耳を貼り付けて中の様子を窺う。
いきなり邪魔して新八に嫌われるのが怖いのだ…

「…ん…っ…ふぅっ…」

「おいおい、そんな急いで咥えっと痛ェだろィ。」

「…らってっ…我慢れきないっ…」

「いやしい口でさァ…この口は…」

「やぁっ…言わないれぇっ…」

「そんな事言って良いんですかィ?どうしようかねェ…ここで止めとくかィ?」

「やんっ…いじわる…しないで…?」

「可愛くおねだり出来たら考えてやりまさァ。」

「…お願いっ…僕に下さい…そーちゃんっ…」

「へっ…仕方ねェなぁ…」

「…うんっ…はぁっ…コレっ…コレが…」

暫く固まっていた銀時が、ぷるぷると震えて、すぱーん!と襖を開ける。

「新ちゃんっ!銀さんは新ちゃんをそんな子に育てた覚えはありませーん!」

「…は?僕も銀さんに育てられた覚えはありませんが?」

さっきまでの声とは全く違う、冷静な新八の声が響く。
そう、そこに広がる光景は…

唇を真っ赤に腫らし、んまい棒を頬張る2人だった。

「な…にをしてるんだい…?2人とも…?」

半分白くなった伊東が、最後の気力を振り絞って新八に尋ねる。
と、可愛らしく頬を染めた新八が、ぷぅ、と膨れる。

「あーあ、バレちゃった。ライバルが増えるから言いたくなかったのに…」

沖田と新八が、ねー?と小首を傾げる。

「初めは全然美味しく感じなかったんですけど、何回か食べてるうちにクセになっちゃって…この、んまい棒明太唐辛子味ミツバスペシャル!」

聞くからに辛そうなんまい棒に、大人達が青ざめる。

「もう僕コレ無しでは居られなくって…ここ数日沖田さんに逢えなかったから食べられなくって…我慢できなくて押し掛けちゃいました。」

「新八の口はイヤシイでさァ。」

「もぅ、沖田さんのドSっ!」

えへへ、と笑い合う2人は可愛い。可愛いが…

「わーん!良かったよー!新八くーん!!」

がばっと抱きつこうとした山崎を華麗に避けて、んまい棒明太唐辛子味ミツバスペシャルを後ろ手に隠す。

「山崎さんでもあげませんからっ!皆さんも…こんなに集まったってあげませんからねっ!」

新八に睨まれた全員が固まったが、すぐにイヤイヤと首を振る。
いらねぇよ、そんなもん。
新八にお願いされたら…食べちゃうかもしれないけどな。
普段は全くそりの合わない大人達だが、その時ばかりは心が一つになった。

きゃっきゃっと楽しそうな沖田と新八。
一見可愛らしく見えるが、食べているのは激辛んまい棒。
そして、にこにこ笑っている中、一瞬沖田がニヤリと笑う。

新八争奪戦は、今の所沖田有利に進んでいるようだ。


END