幸せな日曜日



「新八ィ!デートしやしょうぜ!デート!!」

久し振りに部活が休みに決まった帰り道、キラキラと目を輝かせた総悟君が、繋いだ手をブンブンと振りながら、満面の笑顔で僕に言ってきた。
朝の登校も、学校でも、お昼も、部活でも、放課後の帰り道も、ずっと一緒だったから気付かなかったけど…そう言えば、ちゃんとデート、した事無かったっけ僕ら…

「はいっ!行きましょう!!」

僕がちょっと張り切って答えたら、総悟君がもっと笑顔になってくれた。
そんな顔されたら、僕もどんどん楽しみになってきちゃうよ…
何処に行こう、何をしよう、って話しながらの帰り道はすっごく楽しくって、すぐに僕の家に着いてしまった。
まだ…話足りないな…

「まだ決まってないし…ウチ、寄っていかない…?」

僕が言うと、ちょっと考えた総悟君がふるふると首を振る。

「イヤ、明日の楽しみにとっときやしょう。」

そう言って悪戯っぽく笑って、走って帰ってしまった。
そんな…中途半端な…
当然その後も僕の頭の中は明日のデートの事で一杯で…
何処に行こう、何しよう、総悟君は好きかなぁ…とか色々考えてると、なんだかだんだん緊張してきた…

…楽しみ過ぎて、眠れない…

仕方ないんで、お弁当の下ごしらえをしてみたり、雑誌を読んだり、明日着る服を用意してみたりしたけど、布団にもぐりこんでもドキドキが治まらなくって眠れない…こんなんじゃ、折角のデート中に眠っちゃうよ…!
総悟君の困った顔が、頭の中に浮かんでくる。

…困った総悟君が1人…笑った総悟君が2人…意地悪な総悟君が3人…

そんな事を考えてると、安心して眠ってしまった。
それでもちょっとだけ寝不足なまま、お弁当を詰めて待ち合わせの公園に急いだ。


いつもの公園のベンチに行くと、普通なら遅刻してくる筈の総悟君が、既にベンチに座ってた!
…総悟君も楽しみにしててくれたのかな…?まだ待ち合わせの30分も前なのに…それだけで幸せになっちゃうよっ…

「総悟君、お待たせ…あれ?」

僕が駆け寄って前に立つと、総悟君はベンチに座ったままくうくうと眠っていた。
あははっ、いつもはねぼすけなのに、早く起きるからっ!
でも…それだけデート楽しみにしてくれてたのかな…?
なんだかそれだけで幸せな気分になっちゃった。

僕だけ突っ立ってるのも何なんで、総悟君の隣に座ると、こてん、と僕にもたれかかってくる。
…起きちゃったのかな…?
そっと顔を覗き込んで見ると、幸せそうに笑ってくうくうと寝てる。
…なんだ、寝てるよ…

暫くそのままの体勢で公園を眺めていると、総悟君の頭がずるりと滑って僕の太ももに落ちる。
流石に…起きたかな…?

「総悟君…?」

名前を呼んでみると、ぱかりと目を開けて僕を見上げてにこりと笑う。

「…新八ィ…きもちーぜィ…」

それだけ言って、またくうくうと眠ってしまう。
これって…膝枕…?
通り過ぎていく人が見ているような気がして恥ずかしいけど…でも、総悟君が気持ち良さそうだから良いか…

折角なんで、じっと総悟君を見ていると、綺麗な色の髪の毛が見えて…
そっと手を触れてみると、サラサラで気持ち良い…
こんな大人しく触らせてくれるなんてめったにないもんな…自分はいっぱい触るくせに、僕が触ると照れて逃げるんだもん!
嬉しくなってさらさらと髪を触って、頭を撫でていると総悟君の耳が赤くなる。

「…なんか…ラブラブカップルみたいでさァ…」

「あ、起こしちゃいました?」

「…もう起きまさァ…すいやせん、昨夜あんまり寝れなくってねェ…」

「緊張しました?」

「緊張しやした。」

僕がクスクス笑って、それでもまだゆっくり頭を撫でていると総悟君が目を細める。

「きもちーねェ…」

「そうですか?僕も気持ち良いです。」

えへへ、と笑い合うと、総悟君が起き上がる。
…ちょっと寂しいな…

「そろそろ動きますかィ。」

立ちあがって、うーん、と伸びをすると、総悟君のお腹がぐぅと鳴る。

「お弁当食べてからにしましょうか?」

「…そうですねィ…」

僕が笑うと、総悟君が頬を赤く染める。
公園の芝生に移動して、僕の作ってきたお弁当を2人で食べる。
飲み物は、自販機で総悟君が買ってきてくれた。
何も言わなくても僕の好きなお茶を買って来てくれるなんて、愛だなぁ…なんて思ったりして!

美味しいって全部綺麗に食べてくれて、満腹になった所で次の場所に移動する。
昨日からどうしよう、って言ってた候補に有った映画を見る事にした。
なんか、初めてのデートっぽい、って場所だったからなんだけど…
いざ映画館に行ってみると、面白そうな映画をいっぱいやってた。

「新八はどれが観たいですかィ?」

「そうですね…あ、あのコメディ面白そう…でも、あのアクションも良いなぁ…総悟君はどれが観たい?」

「ん〜…あっちのアクション映画…ですかねェ…」

「じゃぁ、それにしましょう!」

僕が笑うと、総悟君が僕の手を引いて映画館に入っていく。
飲み物2つとポップコーン1個。
一緒に食べてたら、たまに手と手がぶつかったりとかして…ちょと恥ずかしいよね!

その映画は意外と感動する内容で、途中からは映画に夢中になってしまった。
感情移入しすぎちゃって僕が泣いてしまうと、そっとハンカチを渡してくれて、頭を撫でてくれた…

どうしてこの人は、いつもこうなんだろう。
僕が欲しい時には必ず欲しい言葉をくれるし、行動してくれる。
普段はちょっと意地悪だったりするくせにさ…

映画を堪能して外に出るともう夕方で、綺麗な夕焼けが僕らを照らした。
もう少し一緒に居たいけど…晩ご飯作らないと…今日は姉上、家に居るんだ…

「新八ィ…そろそろ帰りやすかィ…?」

「………もう少し…一緒に居たいですけど…晩ご飯…作んないと…」

「んじゃ、送って行きやす…もう少し一緒に居たい、ってぐらいで丁度良いんでさァ。」

そう言って笑ってくれるけど、寂しそうな笑顔は…総悟君も離れたくないって思ってくれてるのかなぁ…?
僕は…本当は想ってるんだよ…?
総悟君が僕の手をぎゅう、と握って歩き出す。

「今日は楽しかったですね!」

「おう、又デートしやしょうぜ。」

「今度は何処に行きましょうか?」

「も、ちっと早く出て、遠出しやしょうか。」

「はい。海とか良いですよね!」

「山にキャンプに行くのも良いですねェ…」

想像だけはどんどん膨らんで、ココロがぽかぽか暖かくなってくる。
…うん、もう少し、って思うぐらいが丁度良いのかも。
だって、明日又学校で逢えるのに、それが待ち遠しいんだもん。

絶対又デートしましょうね?
その時も又、きっと幸せな気分になれるから。


END