あ―あ、行っちゃった…でもいつか!いつか『退さん、送ってくれますか?』とか言って欲しいな―!!
ほやん、としつつ新八を見送る山崎の後ろから、冷気と殺気が叩きつけられる。
びくぅ!としつつ振り向くと、背後に何か般若的なものを背負った沖田が、じわり、じわりと近付いて来る。

「山崎君…オメェ…よくも恋人達のひとときを邪魔くれやしたねぇ…」

「おっ…沖田さん、俺だってまだ新八君のこと諦めてませんから!!ってか何ですか?さっきから。山崎君って…いつもならザキとかナゲヤリに呼ぶくせに…沖田さんもやっと、俺の有難味が判ったんですか?」

能天気に笑う山崎に、嫌そうな視線を投げて、沖田が吐き棄てる。

「バカ言うねぃ。新八が嫌がるんだよ、他の奴の事気安く呼ぶと。この間も些細な話でザキって言ったらむくれちまって大変だったぜぃ…」

沖田の機嫌が少し良くなる。

「なんで山崎さんなんかとそんなに親しげに、とか沖田さんと仲良い山崎さんなんて大嫌い!とか言ってやしたねぇ…」

ぐさ―――――っ

ひっ…ひどいよ新八君っ!!

山崎のダメージを、敏感に感じ取り、沖田のテンションは急上昇。

「俺があんまりテメェの文句を言わなかったのが悪かったんですかねぃ…道で会っても挨拶なんかしない!とかも言ってやしたぜ?」

ぐさぐさぐさ―――――っ

「そっ…そんなぁ…」

涙目になる山崎。ブツブツと呟きつつ、どこか別の世界へ行ってしまう。
沖田の目はもうすっかりSモードだ。

「さて、俺らもそろそろ屯所に帰りやしょうぜ?退君。おっといけねぇ、こんな事新八に聞かれたら、オメェがどんな目に会うか…考えるだにおっかねぇや。さ、早いトコ帰りやしょうぜ?さ―ちゃん。おっといけねぇいけねぇ、イタズラな口でさぁ…」

殊更ゆっくり歩き、屯所に帰り着くまで沖田のウサ晴らしは続き、山崎は新八に聞かれやしないかと、始終ビクビクしながら帰った。



翌日大江戸ストア前。
丁度見廻り中だった山崎は、ご機嫌な新八に出会った。

「あっ!新八君―!こんにちわ―!!」

「こんにちわ、山崎さん。見廻りご苦労様です。」

新八君、今日は機嫌良いなぁ…にこにこと笑い掛けてくれる―!!

「今日も可愛いね、新八君は!!やっぱり、沖田隊長はやめて俺と付き合ってよ?」

「出会い頭に何言ってるんですか…イヤですってば!めげない人ですね、ホントに…」

新八が、あははっと笑う。

何!何!?この好感触!今日は新八君ホント機嫌良いなぁ…待てよ…?今日だったら…

山崎が何かを思いついた。

「だって、本当の事だから。俺本当に新八君の事好きなんだよ?この気持ちは、沖田さんにだって負けない!!」

新八の顔が、むっと膨れる。

あれ…?新八君の機嫌が悪くなった…俺何か変な事言ったかな…?

「…山崎さんと沖田さんって仲良いですよね…沖田さん、ザキ、とか呼んでるし…」

アレ…?コレ昨日沖田さんが言ってたやつじゃ…え…?ホントだったの!?

「えっ!?イヤ、そんなに仲良くないって言うか…副長や局長の方が仲良い…」

「あの2人は保護者だし…」

「えっ…えぇっ!?俺もそんな感じだと思うけど…ってか、俺普通に沖田さんって呼んだだけ…」

オロオロしだした山崎見て、新八がはっ、と我に返る。

「あっ…ごっ…ごめんなさい…僕、何言ってんだろ…普通ですよね、普通!!」

「…そんな事もイヤなぐらい、好きなの?沖田隊長の事…」

しばらくの沈黙の後、真っ赤な顔でコクリと頷く。

「でっ…でも!今はそうでもこの後どうなるかなんて判らないし…俺諦めないからっ!」

涙目で、尚も言い募る山崎の真剣な表情に新八の表情がゆるむ。

「もぉ―、山崎さんはホント凄いなぁ…昨日も沖田さんに何か苛められたんでしょ?公園で邪魔されたから苛めときやした、って言ってましたよ?」

「それぐらいじゃ負けません!俺の気持ちは半端じゃないから!」

「仕方ないなぁ…何でしたっけ?昨日言ってたの…」

「えっ!?下の名前で呼んでくれるのっ!?」

新八がにっこり笑って、唇にそおっと指を当てる。

「沖田さんにはナイショですよ?今日だけ。」

うわ―い!うわ―い!!

「え―っと…山崎さん………下の名前、何でしたっけ?」

ぐさぁ――――――っ

新八君…俺の名前…知らないんだ…

「さがる、だよ…新八君…」

えへへっ、と誤魔化し笑いをする新八。
はにかんだ顔も可愛いなぁ…と上手く誤魔化される山崎はもう末期。

「え―と、じゃぁ…退さん…?」

「何!?新八君っ!!!」

満面の笑みで答える。

「見廻りのお仕事、頑張って下さいね?退さん。」

ばいばい、と手を振って新八が大江戸ストアに消えていく。
それにぶんぶんと手を振って、頬を染めた山崎が立ち尽くす。

あぁ―っ!!退さん!退さんだってっ!!まさかこんなに早く新八君の声で退さん、って聞けるとは…
あ―、やっぱり新八君の声には退さん、って言葉が良く似合う!!
…あぁ、もう、暫らく脳内リピートだけで幸せだよ…
あ、折角だし一緒に買い物をして、帰りは僕が送って行こう!!当然荷物は僕が持ってあげるし!そうだ、そうしよう!!

「…退さん、ヒトのモンに手ェ出すのは止めてくんねぇかぃ?退さん退さん退さん…」

「おっ…沖田隊長!?連呼しないで下さいよっ!!あ―っ!折角の新八君の声がぁぁぁ…!」

脳内メモリ―が、沖田の連呼で消えそうな山崎、マジ泣きだ。

「新八と買い物すんのは俺でぃ。今晩も俺の好きなもの作ってくれる予定でさぁ。」

しゃがみこむ山崎をちろり、と見て、沖田も大江戸ストアに消える。

沖田の姿を見送った山崎が、スックと立ち上がって不敵な笑みを浮かべる。

「ふっ…甘いですよ隊長。その程度の攻撃で、俺が新八君の声を忘れる訳無いじゃないですか!って言っても、これ以上連呼されたら消えそうだけど…悔しいけど今日は譲ってあげますよ!…明日こそは!!」

何処からくるのか、妙な自信を振りまきながら、マジメに見廻りに戻る山崎。

新八君に、頑張って、って言われたら、頑張るしかないでしょう…
でも、明日こそは一緒に買い物して、家まで送ってあげて、
『退さん、有難うございます!お茶でも如何ですか?』
なんて誘われちゃったりして…そんで俺はお茶も良いけど、俺は新八君が良いなぁ…
なぁ―んて!なぁ―んて!!

(一応)見廻りを続ける山崎。
新八の笑顔があれば、どんなに虐げられてもめげない男の妄想は果てない。

頑張れ山崎!
たま――――――――――――に良い事有るさ!!



END