走って走って、総悟君が止まったのはどこかの教室の前で…音楽室…?
何処からか鍵を出して、僕を引き込んで内側から鍵を掛けて座り込む。
…どうするつもりなんだろ…?

「総悟君…何…するつもり…?」

「…別に何も…ただ…新八をこれ以上皆に見せたくなかっただけでィ…」

そう言ってぎゅうと抱きしめられると…今迄の事を全部無かった事にしてしまう…
愛しくて…嬉しくて…やっぱり大好きだ…

「…総悟君も…その格好…カッコいいよ…?」

僕がそう言ったら、総悟君が赤くなって僕の肩に顔を埋める。
暫くそのまま抱きしめあっていると、学校祭開始のアナウンスが流れる。

「…総悟君…教室に戻らなきゃ…」

「…サボって下せェ…」

「…駄目だよ…姉上が怒るよ…」

「俺が新八の分も怒られやすから…新八には何もさせやせんから…」

真剣な顔でそんな事言われたら…何も言えなくなるじゃないか…
家に帰ってからは…姉上に怒られるの…覚悟しよう…

「…ちょっと…だけだよ…?」

僕が言って総悟君に凭れ掛かると、ぎゅうと肩を抱かれてそのままお互いの体温を感じていた…

暫くして、突然総悟君が僕の手を握って立ち上がる。
な…に…?

「…戻るの…?」

「いんや。折角の学祭、楽しんできやしょうぜ?」

ニヤリと笑って教室の有る方に僕を引っ張って歩きだす。

「僕のこんな格好、皆には見せたく無かったんじゃないの…?」

「…そうだけど…仕方ねェじゃねェか…」

ちょっと悔しそうな顔で、プイッと横を向かれるとなんだか可愛く見えてしまう。
総悟君も、学校祭僕と一緒に居たい、って思ってくれてたのかな…?だとしたら嬉しい。
それに、今日は学校祭だから…僕がこんな格好だって洒落で済むよね…?

「じゃぁ、いっぱい楽しみましょうね!」

僕が言って笑いかけると、総悟君も笑ってくれる。
手を繋いだままあちこちの教室を覗いて回っていると、突然ピタッと止まった総悟君が、ぐん、と僕の手を引っ張る。

「な…?」

「ココ、入りやすぜ。」

入る直前になんとか見た看板は、『占いの館』になっていた。
意外…こういうの好きなのかな…?

「総悟君、占いとか信じるんだ…」

僕が茶化して言うと、総悟君は嫌そうな顔をしたけどそれでもズンズンと中に入っていく。
そこには真っ黒な衣装を全身に纏った女の子が座っていて、僕らが入っていくと彼女の前に有る椅子を手で示して座われと言った。
総悟君がドサリと座り込むんで、僕も隣に座る。

「俺らの相性占ってくれィ。」

ボソリと言うんでビックリして横顔を見ると、なんだよ…耳赤いよ…
僕もなんだか恥ずかしくなって、視線を逸らして前を見ると、女の子が水晶玉に手をかざしてむにゃむにゃと何かを呟いてる…本格的なんだな…

「お2人の相性は…」

あ!占いの結果出たんだ!
何かちょっと緊張する…

「…最高です。このまま結婚するでしょう…」

「えっ!?」

「そーかィそーかィ、あんがとよ。」

そう言った総悟君が僕の手を引っ張って立たせて、募金箱みたいなものにお金を入れてそのまま歩き去る。

「ちょ…総悟君!僕らそんなの…」

「良いんでィ。あんなの適当に言ってんだろ?暗かったから新八女に見えたんじゃね?」

そう言いつつ総悟君はニコニコ笑ってる…凄く嬉しそう…
それに…僕も相性最高とかって…嬉しかったし…そういうもんなのかな…?

そのまま手を引かれて外に出て、食べ物のテントがいっぱい並んでいる所に連れて行かれる。

「新八ィ、何が喰いてェ?」

そんな事を聞きつつ、自分はもうお好み焼き食べてるし…
色々有って、迷うなぁ…

「えっと…」

キョロキョロと見渡すけど、すっごく大事な事を思いだしてしまった…

「総悟君駄目だよ、僕お財布持ってきてないよ…」

悲しい顔で総悟君を見上げると、ぐぅーっと僕のお腹がなる。

「心配すんねィ。新八サボらせちまったから俺が奢ってやらァ。」

にっこり笑って言われても…何か下心あるんじゃ…?とか疑っちゃうよ…

「えっ…ホントに良いの…?」

「おぅ、新八は彼女だしな。」

彼女って…そんな事…僕、男なのに…
でも、こんな事めったに無いから…ここは素直に喜んでおこう。

「えっと、じゃぁ…ヤキソバ。」

「おぅ、がってん!」

すぐにヤキソバの屋台に走って、大盛りな!とかって言って買ってくれる。
歩きながら、僕がなんとかヤキソバを食べ終わると、すぐに総悟君が僕の手を取って走り出す。

「なっ…ちょっ!そんな走らなくても!」

「誰かに見つかったら連れ戻されちまわァ。」

「そんな!そう言えば、当番の時間…!」

「大丈夫でィ。ザキが頑張ってくれらァ。」

「そんなっ!山崎君大変だよっ!!」

「ザキなら大丈夫でィ。」

僕がなんとか戻ろうと頑張って立ち止まると、総悟君がぐんっ、と僕を抱きあげてどこかの教室に入ってしまう。

「なっ…!もう!総悟君はなんでそう…」

「うーらーめーしー」

「ちょっ、煩いっ!」

僕が総悟君に小言を言おうとした時、横から何か話しかけられたけどそんなどころじゃないよ!
更に続けようとしたら、僕が怒鳴りつけた人がビクリと震える…って…えっ…?
じっとそっちの方を見ると、お化けの仮装をした人が、ビクビクと僕らを窺ってた。
…あ…ここ、お化け屋敷…?

「あ!ごっ…ごめんなさいっ!あの、今それどころじゃ無くて…」

僕がペコペコと謝ると、総悟君がチッ、と舌打ちをする。

「なんでィ面白くねェ。キャー!とか言って抱きつけよ。」

「は!?そんな事する訳ないじゃん!!」

「オメェらお化けがなっさけねェからなんじゃねェか…?」

総悟君の気配が怖いものになってお化け役の人に向くんで、慌ててぎゅうっと抱きつく。
と、機嫌が良くなった総悟君がゆっくりと移動を始める。

「やっぱ怖いんじゃねェかよ新八ィー俺がついてっから安心しろィ。」

…そんなんじゃないけどさ…
まぁ良いか、嬉しそうだし…

お化け屋敷を出てからも、ライブを観に行ったり又おやつを食べたりしているうちに学校祭は終了の時間になって、後夜祭が始まってしまった…
最後の学校祭…1日サボっちゃったよ…

「…きっと皆怒ってるよ…?」

「俺が謝りやす。」

グランドの真ん中に作られたキャンプファイアーをぼーっと眺めていると、総悟君が僕の手を握ってくる。

「…何…?」

「今日は俺の都合で連れまわしちまいやしたけど…新八ィ…楽しかったですかィ…?」

なっ…何今になって殊勝な事を…
それも、僕を窺うようにそっと覗きこまれたら…怒るに怒れないじゃん…

「…無茶苦茶だったし、走りっぱなしで疲れたけど…総悟君と一緒に居れたから…楽しかったですよ…?」

クスリと笑って総悟君の顔を覗き込むと、ぐんと近付いてきて、キスされる…

「良かったでさァ。」

にっこり笑われると、ぼぅっとしてしまう…
って!ココ外じゃんか!!
誰かに見られたら…って!いつの間にかクラスの皆に見付かって、皆見てるぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?

「総悟君のばかぁっ!!」

僕がばしーん、と総悟君の頭を叩くと、そのまま僕の方に倒れ込んで来てぎゅうっと抱きつかれる!

「ドS−っ!テメェ新八誘拐してやがったなー!」

「総悟テメェまるまるサボりやがって!!腹斬れー!」

「沖田さん酷いッスよ〜!新八くん可愛いよ〜!!」

「新八君…可憐だ…」

「おっと、折角の後夜祭が潰されちまわァ。」

クラスの皆が口々に何か叫びながら僕らに向かって走ってくる…
僕は又総悟君に手を引かれて、走り出した。
色んな意味で想い出深い学校祭だったけど…1日総悟君と一緒に居れたから…

今度は、僕が手を引っ張って、総悟君と一緒にクラスの皆から逃げようと思いました。


END