さっさと遅番を土方さんに押し付けて、私服に着替えて恒道館に向かう。
門が見えてくると、何処からともなく食べ物の良い匂いが漂って来る…きっと新八くんの手料理の匂いだ…
あぁ…こんな平和も良いもんだな…
「こんちわー」
格子戸をくぐってガラガラと引き戸を開けると、割烹着姿の新八くんがぱたぱたと音を立てて奥から走ってくる。
「いらっしゃいませ!もうすぐ出来るんで…お茶でも飲んで待ってて貰えますか…?」
困った顔で俺の手を引いて居間まで連れて行かれる。
卓袱台の前に座布団を敷いて座らせられると、すぐに熱いお茶が出てくる…
「良く出来た嫁さんだねィ…割烹着も似合ってて可愛いですぜ?」
からかい半分でそう言うと、真っ赤になった新八くんが目に涙を浮かべてにっこりと笑う…あれ…?
「…良かった…僕の聞き間違いじゃなかったんだ…沖田さん、プロポーズしてくれた筈なのにその後何も言ってくれないから…僕の勝手な思い込みかと思ってました…」
えへへ、と、本当に幸せそうに笑われると…物凄く悪ィ事をしてた気になる…
「…すいやせん…勿論本気ですぜ!俺ァ本気で新八くんを嫁にする!でもまさか新八くんが俺に惚れてくれるなんて、今でも半信半疑なんでさァ…だから…」
ぎゅうっと抱きしめると、あわあわと焦った新八くんがそろりと俺の背中に手を回してくれる。
それだけで…下心とかエロい気持ちとかが全部どっかに行っちまった…
俺とした事がどうしたってんでィ。
でも…
こうしてるのがスゲェ幸せで…それだけで良い…
暫くぎゅうぎゅうと抱き締め合ってると、俺の腹が、グウ、と鳴る。
「…腹…減りやした…」
「あっ!ごめんなさい…あんまり気持ち良くって…すぐにご飯用意しますねっ!」
スッと離れていく新八くんから、ふわりと何か良い匂いがする…
あぁ、コレがフェロモンですかィ…でもまぁ、負ける程ではねェや。
「お待たせしましたっ!」
新八くんが運んできてくれた料理はどれも美味しくて、すぐに平らげちまった。
食後のお茶まで貰ってのんびりしてると、後片付けまで終わらせた新八くんが俺の隣に座る。
…新八くん…?
「僕…土方さんや伊東さんや山崎さんに散々脅されたんです…沖田さんは女の人に手が早いって…」
…あいつら…俺の足引っ張ろうたァ…良い根性してやすね…
「…そんな事ァねェだろィ?」
「…はい…僕に対しては凄く優しくて…えっちな事とか…そんな事全然してくれなくて…」
…してくれない…?
「本当は僕は好かれて無いんじゃないかって…沖田さん優しいからえっちな大人から護ってくれる為に付き合ってるフリをしてくれてるんじゃないかって思ってました…さっきまで…でも…嫁さん、って言ってくれて抱きしめてくれて…凄く…嬉しかったです…」
うるうると潤んだ瞳で俺を見上げられると…
誘ってんですかィ!?
俺は…試されてるんですかィ!?
そっと近付いて新八くんの頬を撫でると、すり、と俺の手にすり寄ってくる…
コレは…誘われてると思いやすぜ…?
そのまま顔を近付けて唇を奪うと、逃げるかと思ってた新八くんは俺に応えてくれる…
どこもかしこも柔らかくて気持ちいいや…
キスをしながらとん、と押し倒すと大人しく倒れてくれた上、俺の首に腕を回してくる…
このまま…止めやせんよ…?
口付けを深くして、柔らかい身体を撫でまわすと新八くんから高い声が漏れ始める…
ついに…
「総悟ォォォォォォォォォォォォォ!!!!!てめ、サボ゙…」
怒鳴り込んできた土方が、寝ころんで絡み合う俺達を見て固まる。
ギリセーフでィ!
まだ新八くんを脱がせてなかったから、なんも見られてねぇや!!
「ひっ…ひじ…」
俺の下で真っ赤になった新八くんが、涙目で土方を睨む。
何だ…?
「土方さんのえっちっ!!邪魔するなんて酷い…大っ嫌いですっ!!!」
起き上がってぎゅうっと抱きついてくる新八くんを抱き返すと、俺を見てほにゃりと笑う…
かっ…可愛い過ぎでィ…
「沖田さん、僕をお嫁さんにしてくれるってちゃんと言ってくれましたっ!僕、騙されてなんていませんでしたからっ!もうご心配なく!!あ、伊東さんと山崎さんにも言っておいて下さいね?」
「酷ぇなァ…部下の幸せ邪魔しようとする上司なんざ、どうかと思いやすぜ?土方さん?」
俺の厭味も聞こえて無ェぐれェ呆然とした土方さんが、何かブツブツ言いながらふらふらと何処かに歩いていく…
大丈夫なんですかねェ…?あのお人ァ…
「新八くん、あいつらに色んな嘘吹き込まれてたんだねェ…」
「でも、もう嘘だって分かったから大丈夫です。今度からは…ちゃんと沖田さんに確認します!」
「そうしなせェ…それから…新八くんも『沖田』になるんだから…そろそろ『総悟』って呼んではくれやせんか…?」
そう言って俺が苦笑すると、急にキョロキョロと辺りを見回した新八くんが、上目遣いでじっと俺を見る…
「…総悟さん…僕、立派なお嫁さんになれるように頑張ります…」
そこまで聞いたら堪らなくなって、ぎゅうっと抱きしめてしまった。
暖けェ新八くんが俺の腕の中に居るってだけで、S心まで大人しくなる。
おっかしいの。
フェロモンとかドS心とか…そんなモンどうでも良くなるぐれェ、俺は新八くんを本気で好きなんだねェ…
そんな事があるんですかねィ…
腕の中でモジモジと身動ぎする新八くんを解放してやると、逆に抱きついてくる…
あ、やっぱS心は無くなんねェや。
「総悟さ…ん…続き…」
「新八くん、俺ら結婚するまで清い関係でいやしょう。新八くんが大切だから…俺、我慢しやす。」
「え…?」
涙目で縋るように俺を見てくる新八くんは、やっぱ何よりも最高でィ!
色々準備が出来るまで少しの間、こんな新八くんが見れると思うとゾクゾクしてきまさァ…その為ならまだまだ我慢できやすぜ!
「大好き、でさァ。」
「…意地悪…でも…僕も大好きです…」
きゅうっと抱きつかれて、柔らかいものが俺の胸に当たる…これは…おっぱい…?
うわ、やわらけ…
泣き顔を見る為に焦らすのも…何時まで出来るのか判らなくなってきやした…
頑張れ俺。
END
礼
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